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追放された龍の番は銀の狼に拾われる  作者: 鬼瓦権蔵


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番外編 龍族と

獣人たちが平伏する部屋へ、冷え冷えとする空気と共に現れた龍帝。彼の番にちょっかいを出していたダイモンはもちろんとして、特に何も悪いことをしていない白兎や龍族の騎士まで皆思わず悲鳴を上げた。


「「ひいいぃぃっ!」」


ダイモンは間一髪でリルリアーナから離れて平伏していたが、そもそも男が愛しい番と同じ空間にいること自体が気に食わないのだろう。龍帝は見るからに不愉快そうで、いるだけで威圧感が凄い。その姿はとても博愛主義には見えなかった。


「ジーク、どうしたの?」

「どうもこうも君が心配で来たんだ、リル。さっき着せた上着はどうしたんだ?寒いと言っていただろう」


リルリアーナを見る目だけはひどく優しく気遣わし気だ。やはり番は別格らしい。と、なると尚更やばい。彼女の上着は先程ダイモンが無理矢理脱がせて、横にある椅子に掛けてあるのだ。もしも龍帝陛下にそれを言われたら終わりである。

しかしそんな空気を読んだか読まないかは分からないが、リルリアーナは全く別のことを訴え出す。


「この部屋だけやたら暖かいのよジーク!」

「ん?あぁ…そういえばこの部屋は獣用に作ってあるのだったか」

「こんな素晴らしい部屋があるなんて知らなかったわ!私、冬の間はここに住みたい!」


暑さ寒さなど特段感じない龍帝は、部屋のつくりなど気にしたこともなかった。なのでキラキラと目を輝かせる愛しい番が理解出来ずに驚いた。


「こ、この部屋にか?」

「だってここなら暖かいもの!ソファもあるからあそこで寝るわ!」

「こんなところで君を寝かせられるわけがないだろう??」


城の一室なので豪華なつくりではあるが、そういう問題ではない。しかし今のリルリアーナにとっては暖かさが全てだ。


「ジークは別にいつもの部屋で寝れば良いじゃない。私はここがいいわ」

「俺を捨てるのかリル…!?番と離れて眠るなどあり得ない!頼むから待ってくれ!今すぐ寝室にも同じように暖炉を作らせるから!いや、むしろ南国にしてみせる!」

「え、やめてよまた極端な事は!暑すぎても嫌よ!ここの暖炉が…って、暖炉?」


何やらまた明後日の方向に張り切りそうな龍帝を慌てて止める。そして止めながらふと気づく。部屋を見回すと、確かにぱちぱちと燃える暖炉があった。


「火!火だわ…!」

「そうだな、火だ。暖炉だからな。いや…リル、君は火が苦手ではなかったか?」


暖かさの理由が暖炉だと気づいてリルリアーナは怯み出す。森に住む妖精は御神木を大事にしている。それ故に火は大敵でもあるのだ。料理に使う火はともかく、それ以外の使用は禁止とまではいかないが誰ともなく敬遠されていた。


「す、少し怖いだけよ。何も苦手って程じゃないわ!別に扱いさえ間違えなければ便利な物だって知ってるし…」

「リル、無理をすることはない。誰にでも苦手なものはある。今すぐ部屋に帰ろう。部屋を暖かくする別の方法を考えるから」


ふるふるしながら炎を見つめるリルリアーナだが、それに対して龍帝はすかさず彼女を回収する好機とみなした。


「うう…そうね。残念だけど火がある部屋じゃ眠れないかも…。私もふわふわに獣化できたら良かったのにな…」

「リル…」


明らかにしゅんとするリルリアーナを見て、龍帝はさすがに狼狽える。悲しませたいわけでは間違ってもないのだ。だから何か代替案は無いかと思案し、そしてふと周りにいた者たちの存在を思い出した。


「そうだ、ちょうどここには毛皮も何枚かあるな。ついでに剥いでおくか」


なんの感情もなく葉っぱか何かを取るかのようにさらりと言う龍帝に、毛皮呼ばわりされた獣人たちは全員ビクゥッ!と震えた。なんなら白兎のミアはひれ伏したまま気絶している。


「剥がないでってば!絶対受け取らないからね!乱暴なのは嫌いよ!」

「きらっ…!?」


その言葉を聞いた途端、龍帝はよろめいた。周りで見ていたダイモンたちはまさかの大ダメージを受けている龍帝に驚く。そんな幼稚な言葉で嘘だろ?彼女はドラゴンスレイヤーか?と問いたくなる程、龍帝の顔は真っ青だ。


「き、嫌わないでくれ…!乱暴なことはしない!だから、俺を好きでいてくれ!頼む…!」


止めるために思わず言った言葉で、想定以上のショックを受けさせてしまったことにリルリアーナは気付いてはっとする。大変だ、もしかするとこんなところで泣いてしまうかもしれない。それは王様としてどうなのか。


「あ、あの…乱暴じゃない優しいジークは…その、好きよ?」

「す…き…?」

「そう、好きよ。ですよね?ライラさん!」

「は?」


なぜこのタイミングで他の女に同意を求めるのか。呼ばれて白兎の族長ライラは平伏していたその顔を思わず上げたが、目は点になっている。龍帝もその話はまだ続いていたのかという目で見るが、リルリアーナは止まらない。

 

「私も龍族以外のフワフワな人と交流を持ちたいし、何よりフワフワだし、ジークに恋人をつくるのはいいことだと思うわ。フワフワで暖かいし」

「リル、待ってくれ。フワフワしていて話が頭に入ってこない」


周りで聞いている誰もが龍帝と同意見だ。頭の中がフワフワすぎる。


「フワフワだけが理由なわけじゃないわよ?愛情をやたら欲しがるジークには、何人か恋人がいた方がいいと思うのよ?」

「俺は君の、君だけの愛が欲しいんだ!毛玉など興味はない!」


食わず嫌いは良くないとでも言いたげなリルリアーナ。龍の習性をいまだにただの趣味嗜好程度にしか考えていない番に、龍帝は必死に愛を叫ぶが今ひとつ響いてなさそうだ。


「あ、そういえば本人に聞くのが一番早いわ。ねえジーク、好みのタイプってあるかしら?」

「好み?」


リルリアーナの質問に龍帝は怪訝な顔をした。そういえば先程そんな話をしてしまったと白兎たちは震えている。


「そんなもの君一択だろう。君以外は全て殺…、いや、価値は同じだ」


同じ?やはり一周回って博愛主義ってことかしら?とリルリアーナは小首を傾げた。いや待てよ、そういえば…!


「もしかして…ジークも頭の悪い女が好きってこと…?」

「なんだそれは!誰が君にそんなことを言った!?そんな奴は一族全て根絶やしにしてくれる!!」

「「!!」」


赤豹終了のお知らせである。


「え、怖…。絶滅させるって本当だったの…?」

「…!リル!?ち、違う…!今のは、その…例えだ!そんなことする訳ないじゃないか?」


さざなみのようにサァーッと引いていくリルリアーナに、慌てた龍帝は即座に発言を撤回した。明らかに今彼女の心は離れていくところだったからだ。


「俺は虫も殺せないくらい無害で優しい男だ。怖いわけないだろう、リル?」

「う…ん、そう、よね…?」


ダイモンたちはそんなわけがないだろうと思ったが、同時に彼女の好みが優しい男で本当に良かったとも思った。もし彼女が一般獣人女性のように強い男が好みであれば、すでに自分たちの命はなかっただろう。


「暴力は良くない。その通りだリル。俺は対話を大事にする王だ。乱暴などするはずもない。だから頼むから俺から逃げないでくれ」


本当かなぁ?銀狼の里から連れ戻される時にした約束は、今思えば脅された感もあったような…と思いつつも、リルリアーナは差し出された手にそろそろと寄っていく。


「あぁ可愛い…!リル、そんな可愛い姿を獣どもに見せてはダメだ!発情されてしまう!そうだ、こんなところにいては危ない!」

「は、発情って…すぐそうやって考える方がおかしいわよ??さっきまで普通に会話していただけよ!」

「会話を…?」


彼女の言葉に再び龍帝の気配が変わる。その圧にダイモンたちは脂汗をかいた。実際この人は口説いてもいたなとファビは思ったが、もちろん口には出さない。巻き込まれてはたまらない。か弱い兎ちゃんだぞこちらは。まあ龍帝の前では兎も豹も誤差だろうが。


「我が妃と会話を…?番を持たぬ獣どもの分際で…?」

「偉そうな言い方やめてよ!会話くらいするわよ!」


だから偉そうなんじゃなくて偉いんだよ!と言いたいが、ダイモンは恐怖で顔を上げることすら出来ない。もうほんと関わりたくない。けれどリルリアーナは何かに気づいたように、ダイモンたちの方へと振り向いた。


「あ…そういえば、番が誰かって話をしてましたよね?この人が私の番?のジークです」


いや知ってるよ!その方がどなたかはみんな知ってる!と声にならない声たちが周囲にいる者たちの脳内にこだまする。


「リル…もう一度言ってくれ。俺は君の…?」

「え?番…?で恋人…よね?」


リルリアーナの言葉に龍帝は満面の笑みとなる。色々疑問形ではあったが、彼女の口から番と出たのが非常に嬉しいらしい。


「そうだ!諸君!我が名はジークヴァルド=ヴァル=シュザルツ=シュタイゼン!彼女の番で恋人で夫だ!」


いやだからどちら様なのかこの場の誰もが知っている。しかもえらくドヤ顔で言っているが、王であることは名乗らないのかと震える獣たちは思った。


「リル。俺を番だと話してくれているのは嬉しいが、あまり心配させないでくれ。相手を殺し…いや、ショックで俺が死にそうになる」

「もう…ジークったら。本当に弱いんだから」


向き直りそっと抱きしめてきた龍帝の背を、リルリアーナはぽんぽんと撫でる。


「愛しい君が誰かに心奪われたらと思うだけで耐えられないんだ。リル、俺はこの世で君だけが好きだ。君が他の男を見るならそいつを…」

「あ!それよりジークお仕事中なんじゃないの?」

「そ、それより?」


愛を囁きながら何やら物騒なことを言いそうだった龍帝を遮り、リルリアーナはダイモンたちを振り返る。


「なんかジークに用があるから待ってくれてるんでしょ?ずっと待たせてちゃ悪いわよ。あなたがここに来たならそこのテーブルでお話しすればいいんじゃない?」


言いながらリルリアーナはソファとテーブルを指差す。いやそれはさすがに…と聞いていた全員が思ったが、龍帝は首を縦に振った。


「…わかった。そうしよう」


そうしちゃうの??と周りは狼狽えた。龍帝の本音としてはすぐさま番を部屋に連れ帰りたかったが、番の言う事はなるべく聞きたいため我慢したようだ。何より怒らせて嫌われたくはない。


「赤豹、要件を話せ」

「へ!?…あ、は、はい!赤豹族の長が龍帝陛下に拝謁いたします」


番に促されるまま適当なソファに座った龍帝からぞんざいに話しかけられ、ダイモンは慌てて挨拶から始めた。

その隙に白兎たちは我らはこれにてと、そそくさ退出をして行く。草食動物の逃げ足は早いのだ。


「え、これ俺たちはどうすれば…?」


どうすればいいか分からなくなったのは赤豹の従者2人である。本来待合室であるこの部屋で謁見が始まってしまったのだ。龍帝から少し離れた場所とはいえ、平伏した態勢から身動きをとっていいのか分からなくなってしまった。


「?さっきみたいに座ってお茶でも飲んでればいいんじゃないですか?」

「ひっ…!」


リルリアーナが2人に話しかけた瞬間、龍帝がギロリとこちらを睨んでくる気配を感じた。やめろ来ないでくれ。


「そういえば豹ってフワフワなんですか?」

「ゴワゴワしていて毛感触よくなどありません!色艶も悪いし暖かくないです!」

「だからお願い自分らの生皮を剥がないでください!」


フワフワ好きな彼女に、いや彼女の番に殺されないように赤豹2人は必死だった。


「リル、そいつらに近づくと危ない。獣は何をするか分からない。暖かさが欲しいなら俺が抱きしめよう」

「え、ジークはあまり暖かくないからいいわ。体温高くないし龍化してもむしろヒンヤリしてるし…」


いつの間にか近寄り、そっとリルリアーナに触れようとした龍帝だったがさらりとお断りをされた。


「だから夏にまたお願いするわね」

「俺は夏まで君を抱きしめることすら許されないのか…!?」

「もう、ジークったらお話しの途中なんでしょ?私はここで静かにしてるから気にしないで。ね?」

「君を気にしないなど無理だ!いやそもそも愛があまりにも感じられなさ過ぎる!リル。君は、本当は俺のことなど好きではないのではないか??」


リルリアーナからの度重なる雑な対応に、何やらとうとう限界を迎えたらしい。龍帝は縋り付くように彼女の腰に抱きついている。


「俺の…俺だけの番だ。誰よりも美しく尊い君を、獣どもが視界に入れるなど本来あってはならない…。許さん…やはり目玉を繰り出し耳を削ぎ落としてくれる…」

「「!!」」


龍帝の独り言に耳の良い赤豹たちは震え出した。リルリアーナにはよく聞き取れず、またなんかブツブツ言ってるなぁくらいにしか思われなかったが。

それよりもテーブルの上にある物が気になり、ちらりと視線を移した。もちろん龍帝はそんな彼女の反応を見逃すわけもなく。


「リルリアーナ?何を気にしているんだ?まさか毛玉に心を移したのか??やはり君は龍より獣が好きなのか?ならば猫も犬も全て燃やし尽くさねば…」


自分らは猫ではなく豹だ。しかもなぜこのタイミングで犬まで出てきたのだろうか。ダイモンたちはそう思ったが、もちろん黙っている。


「あのねジーク?ちゃんとあなたが好きだって言ってるじゃない。ただ今はちょっとそこのクッキーの方が気になってるだけで…、あ、じゃなくて、そのチョコやタルトもだけど、いえそうじゃなくて…」

「誰か!クッキーを山盛りで持ってこい!チョコやタルトもだ!」


リルリアーナの目はテーブルに残されたクッキーを見ていた。ここは待合室なので、赤豹らへお茶と共に出された物だろう。小腹がすいてきたリルリアーナはそれが視界に入り、気になっていたようだ。


「君が座るのは俺の膝の上だ。俺よりクッキーが好きでもいい。離れないでくれ」

「食べにくいから嫌よ。だいたい話の邪魔になるじゃない」

「君が邪魔などあり得ない!あとできれば俺よりクッキーが好きというのを否定してくれないか??」

「あ、これ美味しい」

「俺を認識してくれ!」


もう何でもいいからとにかく早く逃げ出したい…。そんな赤豹たちの願いが届くのは、もうしばらく後のことになりそうだった。


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― 新着の感想 ―
更新、ありがとうございます! リルリアーナが龍帝をブンブン振り回す様が楽しいです。 二人に子供が出来たら、それも面白そうですねー。 楽しいお話、ありがとうございます。 この2人+銀狼の物語、大好きです…
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