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花の咲いた日常

あの夜から2日がたった。屋敷の一室を与えられたリルリアーナは、本人の希望により屋敷の庭や外にある畑の世話をしている。

正直あの細腕じゃあ難しいだろうけど、可愛いし爺婆の話し相手になればまぁいっかぁくらいにカイゼルは軽く考えていた。が、畑の責任者であるトニー爺さんがあの子はまさに畑の妖精さんじゃああ!と騒ぐほどの事態となった。

リルリアーナが元気になーれ⭐︎と微笑むだけで枯れかけていた植物が復活するのだ。農作物もぐんぐん育って味もよくなるらしい。何その特殊能力。凄。ってか妖精族ってバレてないかこれ。大丈夫?

畑担当は爺婆が多く、孫のように可愛がられながら楽しく働いているようだ。カイゼルが時々様子を見に行くと、遠くからニコニコと手を振ってくれる。


「いやー、可愛いなぁ」

「いいから仕事をしてください」


だらしなくヘラヘラと笑って手を振り返すカイゼルに側近のゼフは冷たく言う。


「ちょっとの休憩くらいいいじゃないか。癒しだよ癒し」

「はいはい。…それよりこの先どうするつもりなんですか?」


サボりの正当性を訴えるもそれは流され別の質問を返された。現実問題、ゼフは主が彼女をこの先どうするかが知りたいのだ。


「この先ねぇ…。会うたび口説いてはいるんだけど、あまり手応えはないっていうか」

「本気で妻にするつもりじゃないでしょう?遊ぶ相手として扱うのはやめた方がいいですよ」


あの夜はどうやって口説いたんだっけなー?とふざけた態度のカイゼルに対し、ゼフの口から出たのは忠告である。


「あれ?ゼフは反対派?可愛くて明るくて良い奥さんになると思うんだけどなー」

「こっちは真面目に聞いてるんです!…なんとなくですが、トラブルの予感がするんですよ。監禁していたっていう男も謎ですし」


全く真剣さを感じない、あくまでヘラヘラする主に慎重にならざるを得ないのだ。彼女について独自に調べてもそれらしい情報も入ってはこない。


「監禁男かぁ…。ひでえよなぁ。可哀想に」

「まぁそれについては同意しますが…。運命という言い方がどうも引っかかっていて…」


うーんと悩みながらゼフはぽつりと言う。


「もしかして…(つがい)とか?」

「はっは!ないない!番って龍族だけのあれだろ?運命で唯一の相手だっけ?知らんけど。にしたって己の番を間違えるアホなんて聞いたこともない!」


カイゼルはゼフの言葉を笑い飛ばしてケラケラと続ける。


「運命とか監禁とかそれっぽいけど、龍は番を得たら決して離さないっていうじゃないか。何かの勘違いがあったとしても、浮気してポイ捨てなんてあり得ないだろ」


笑いながら言うカイゼルにそれもそうですよねぇと納得するゼフ。それに、と付け足す。


「もし何かの勘違いだとしたらですよ?7年間大事に大事に守ってきて、収穫する前にオオカミに食べられちゃうとか悲惨すぎますよね」

「それなー」


いやいやそんなアホいるわけない!あっはっは!と笑う2人。この時はまだ笑い話だと思っていたのだった。


「まぁ万が一にもそうだとしても、だったらなおのことここにいた方が彼女にとっては安全だろ?」

「まぁ並の龍や獣人じゃあなたに勝てないって言うのは認めますけどね…」


面倒な事にならなきゃいいんですけど…とゼフはため息を吐くのだった。


「面倒なのが恋だろ?そしてそれを乗り越えるのが愛だ」

「ほんと適当ですよね。いつまでも乗り越えないから独身なんですよ」


ドヤ顔で適当なことを言うカイゼルに再び呆れた目で見るゼフ。族長としての実力は十分なのに、こういうところが残念だと補佐としては思っている。が、ふとその気配に違和感を感じた。


「ん?カイゼル様、お腹すいてます?」

「いや?なんだよ急に」

「いや、だってなんかいつもより…」


飢えた狼の目つきだったから…と言いかけて、もう一度先ほどのカイゼルの目線の先を追う。そこには水浸しになったリルリアーナがいた。どうやらホースを自分に向けてしまったようだ。周りにいた老婆たちからタオルを受け取って拭いている。


「いや、え、思春期じゃないんですから、そんな…。あんたそんな飢えてないはずでしょう??」

「いやだからなんの話だよ」


ゼフが驚きの目をカイゼルにむけるも本人に自覚は無さそうだ。と、そこへリルリアーナがぱたぱたと走ってやってくる。


「あはは、水かぶっちゃいましたー!着替えてきますね!カイゼルさんたちは見回りですか?」

「そうそう、見回り。リルちゃん大丈夫?まずはちゃんと拭いたほうがいいよ」


リルリアーナが先ほど受け取り頭から被っていた大きめのタオルで、そのまま彼女の髪を優しく拭いた。その表情をゼフが横でジーッと見ている。


「わ、大丈夫ですよ!カイゼルさんまで濡れちゃいますよ?」

「それも悪くないな。そしたら一緒にお風呂入る?」

「もう!入りませんよー。ふふっ」


別に透けるような素材じゃない完全な農作業着なのに、とか。手が早いのはいつもだけれどそんなに飢えた目つきでしたっけ、とか。ゼフは目の前の男に対して疑問が色々生まれたが、飲み込んだ。カイゼルのいう面倒なことになっている気がしたからだ。


「ま、乗り越えはしないでしょうしね…」


そしてそのままさりげなくリルリアーナと去ろうとしているカイゼルを掴み、仕事へと引きずり戻すのであった。

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