番外編 彼の見た景色
最近俺のリルの様子がおかしい。
どこか熱っぽい目で見てくるし、頬を触ってみるとその手にすり寄ってくる。試しにそのまま押し倒してみても一切抵抗がない。前までは恥ずかしがってことの始めにはわずかに抵抗するそぶりを見せていたのに、それもなくすぐにキスにも応えてくる。以前朝まで愛で続けたら次の日怒って口をきいてくれなくなったため、それ以後はなるべく程々で我慢していたのに昨夜は遠慮なく可愛がっても怒らなかった。明らかに態度が変わったのはなぜなのか。龍族の番なら出会ってすぐにこの状態でも当然と言うが、彼女は妖精族だ。その現象に一切困ってはいないしむしろ望むところなのだが、理由は気になる。
「…最近、俺のリルに何か変わった様子はないか?」
「妃殿下にですか?」
誰に相談すればいいのかわからず、結局彼女と一日中一緒にいる侍女を執務室に呼び出して尋ねてみた。
「それは陛下が一番お詳しいのでは?朝までお二人で一緒に過ごしていらっしゃいますし、様子と言われましても…。妃殿下は昨日今日と日中ずっとお休みになられていらっしゃいますし」
「そ…れはそうなんだが、最近あまり怒らないと言うかその…」
艶めかしいリルのあの様子をなんと説明していいのか分からずにしどろもどろになる。
「あぁ、発情期に入られたことですか」
「はぁぁ!?」
「ひぃっ!?」
思わず大声を出してしまったため、近くで書類のまとめ作業をしていたマードリックが書類を取り落としたがそれはどうでも良い。それより今こいつ何と言ったか??
「発情期、です。花の妖精族にはあるそうで。特殊な花の花粉によって発症するとかなんとか…。妃殿下ご本人が昨日仰ってました。まぁ正確には発情期と言うより、妖精族のみに効く媚薬みたいな作用があるのかなと」
「…そんな大事なことを何故俺に言わない!?」
平然と答える侍女にイラつきながら聞き返す。こいつは愛しいリルのお気に入りだから余程の事がなければ処分しないつもりだが、慇懃無礼なところがある。
「恥ずかしいから陛下には言わないで欲しいと妃殿下から顔を赤くしながら請われましたので」
その姿を想像するともうだめだ。可愛い。確かに言わないなそれは。同意するしかない。それを見たこいつが男なら迷わず処分していたところだ。
「それに現状特に問題は発生していないかと。陛下も困っていらっしゃいませんよね?」
「まぁ…問題は、ないな」
むしろそんな花粉があるなら一年中接種していて欲しいくらいだ。婚姻制度と合わせてなんてけしからん種族なんだ妖精族!もはや“妖精”と言う字面すらいやらしく思えてきた。
「…特殊な花とはなんだ?効果はいつまで続く?」
「先日陛下が妃殿下のためにと摘んでこられた100年に一度咲く花ではないかと。効果は花が咲いている間と考えると長くてもあと2、3日くらいですかね」
100年!?これを逃すと次はまた100年後なのか??さすがに龍にとっても100年は長い時である。しかし思い返せばあの花を見せた時から確かに俺のリルの反応がおかしかった。あの時顔を赤くしたのは花に感動したからかと思ったが、発情していたのか??
「妃殿下からその花を別の場所に移すように言われましたが、陛下のお気持ちなのだからとお止めしております。下げたほうが宜しいですか?」
「いや、よくやった。そのままにしておけ」
必要な仕事はちゃんとこなすようだ。やはり処分はしばらく見送ろう。
いや待て。その言い方だと俺が“気持ち”で媚薬を贈るような奴だと純真なリルに思われてないか?いやしかしそれより。
「マードリック、話は聞いたな」
「はっ…はい」
こちらの目つきに怯えるように返事をする側近に告げる。
「今から3日休暇を取る。これは次代にも関わる最重要事項だ。誰にも邪魔をしないように伝えておけ」
「はっ!畏まりました…!」
こいつは中々に優秀な奴なのですぐに理解したらしい。今は部屋で寝ているであろうこの世で1番可愛いリルをうかつに他の男の目に触れさせる訳にはいかない。急いで部屋に戻らねば!これは番を守るためであって、決して助平心などではない。決して。
――
部屋の前で護衛をさせていた兵も中にいた侍女たちも全て下がらせ、ソファにもたれながら眠っている愛しいリルに近づく。ああなんて可愛いんだ。そっとほほに口寄せると小さく愛らしい声が聞こえた。
「…ん、あれ、ジーク…?」
「ただいま、リル」
「お帰りなさい…?…あれ、まだ夕方にもなってないけど…」
外がまだ明るいことに気づいたのだろう。不思議そうにこちらを見ている。
「今から3日間休みにした。たまにはリルとゆっくりしようと思って」
「私と…?」
こてりと首をかしげる様まで愛らしい。俺が可愛い君以外の誰とゆっくりしたいなどと言うと思うのか。しかし次の瞬間頬を染めながら言われた言葉に心臓を鷲掴みにされる。
「えへへ…嬉しい」
もう100年くらい休もうかな!?
「ま、まずは着替えるかな。この服で寛ぐのも変だしな??」
仕事着ではゆっくりできないなと思い、まずは上着を脱ごうとすると横から可愛い小さな声が聞こえた。
「え…脱ぐの…?」
「リル…?」
愛らしく華奢な手が伸びてきて俺の上着のボタンを掴む。
「脱がせていい…?」
「もちろん!」
くそう可愛い。やはりいつもとは様子が全然違う。慣れない手つきでボタンを外す様まで扇状的だ。うまく外せない姿に、まるでこちらの方が焦らされている様な気さえしてくる。
「…リル、脱がせてどうしたいんだ?」
「ん、触りたい…かな」
こんな服は適当に千切ってくれて構わない!!
そう心の中で叫ぶも、頑張ってボタンを外してくれている健気なリルの邪魔もしたくない。愛しいリルの願いは全て叶えたいのだ。耐えていると、可憐なリルが邪魔なボタンを外してゆるゆると俺の服の前を開きそっと擦り寄ってくる。
「ふふ…ジーク、好きよ」
致死量の可愛さ!圧倒的愛らしさの暴力!愛しいリル、君がこの世のヒエラルキー最上位だ!
「リル…君は俺から逃げるのを諦めただけじゃなくて、好いてくれているのか?」
今すぐ押し倒したいのを我慢して、この状態で本音を
聞いてみる。正気なのかは分からないが。
「好き…よ。龍族とは考えが全然違うけど、ジークなりに、私に誠実であろうとしてくれてることは分かるもの…」
「リル…」
「だから、私なりに、誠実であろうとしてるんだけど…」
可愛いリルはそう言いながら俺の体に小さく口付けを繰り返す。これ放っておいたらどこまでしてくれるんだ??
「リ、リル…何でそんな…」
「ん…ジークの腹筋が好きだから…」
そこ??そういえば俺の体も好きとか言っていたな。あぁ愛しいリル、君はなんて蠱惑的なんだ!
しかしそこで少し正気に返ったのか、瞳をうるうるさせたリルは愛らしく頬を染めたままはっとする。
「ち、違うの!そうじゃなくて、誠実に…話を…したいん、だけど…」
「…けど?」
ぷるぷると顔を赤らめながら何かを耐えている愛くるしいリルを見ても堪えている俺。我ながら凄まじい理性だなと思う。だってどうしても彼女から言わせたい。こんな状態じゃなきゃ絶対言わないであろうことを。
「その…朝までしてたし、まだ明るいし…ジークはお仕事もあるし…疲れてるとは思うんだけどっ…」
「うん?」
「…うぅ…」
もじもじしている彼女が可愛くて、耳を触ってみるとビクッとした。なんて素晴らしいんだあの花の効果は。
「…リル?何でも叶えるから言ってみて?」
「その…今すっごく、したいの…!」
「奇遇だな!俺もだ!」
本当はもっと具体的な言葉も言わせたかったが、さすがにこれ以上は俺の鋼の理性も保たない。可愛いリルからのおねだりは存分に聞き入れることにした。
評価ブクマコメント等ありがとうございます!
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