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番外編 故郷

それはよく晴れた日のことだった。


「リル、今日は出かけよう」


朝食の最中にいきなりそんなことを言い出したジークにリルリアーナは驚いた。自身に予定などないから別に問題はない。そうではなく、普段あまり自分を部屋から出したがらない彼からこんなことを言うのが意外すぎたのだ。これはまさかまた追放されるのか?場所のリクエストまだ決めてなかったわ!と慌てる。


「ジ、ジーク?どうしたの急に?また魔道具とか使われたの?」

「違う!あれは俺の黒歴史だ!二度と同じ失態はしない!…そうじゃなくて、君の故郷に行こう」


ぽかんとするリルリアーナに彼は微笑んだ。


「人身売買組織は全て潰した。それに龍帝の俺が行くんだ、誰も後をつけてなどこないさ」


――


8年ぶりに会いに行った大勢の家族たちは、すぐにリルリアーナだと気づいた。大人になったから分からないかもと思ったけれど、会うなり泣いて抱きしめてくれた。

攫われてすぐにジークに助けられたこと、今は城で暮らしていることなど話すことはいっぱいあると思っていたのだけれど…。


「ジークはすでに会っていたのね?」

「可愛いリルを貰い受けるんだ。挨拶するのは当然だろう?」


そんな真摯な挨拶をしたとは到底思えない態度でジークは言う。そもそも貰い受けるなんて勝手に決めているが、一方的に言われたとて龍帝に逆らえるわけがない。それに家族たちの様子では話をしたのは昨日今日ではなさそうだ。いったいいつからリルリアーナの故郷を把握していたのか…。


「…で、どうだった?」

「え?」


どう、とは?唐突な質問の意図がわからず首を傾げるリルリアーナ。


「君の父親と俺は似ても似つかないだろう?」

「え?そうね?私のお父さんはそんな偉そうじゃなかったわ。ジークみたいに嵩張らないし」

「嵩張っ…!?君は俺をそんな風に思ってたのか?」


妖精族はみな成人しても基本的に小柄だ。見た目は一度成人したらそれ以上は変わることがない。たくさんいた兄も父も祖父も皆年齢が分からないくらいだ。闘う文化もまるで無く、男も中性的で細身の者が多い。高身長で筋肉質の龍族とは違う。しかしまさかの嵩張る発言にジークは新たなショックを受ける。


「龍の姿だとさらに大きいし…、ってあれ?これから城に帰るのよね?そろそろひらけた場所に来たのだし、龍にならないの?」


家族たちにはまた来ると行って森で別れた。みんなはジークに頭を下げて見送ってくれた。それからしばらく歩いていたのは龍の姿になるために広い場所を探しているのかとリルリアーナは思っていたのだ。しかし花畑まできてジークはじっ…とこちらを見ている。


「…君は、俺の城を帰る場所だと呼んでくれるんだな」

「え?」


何かにほっとしたように、ジークはいつになく柔らかく笑って言った。そしてリルリアーナの手を取り口付ける。


「リルリアーナ。君が好きだ。だから俺の恋人になって欲しい」

「こっ…!?」


1年少し前に告げた時とは明らかに違う動揺を見せるリルリアーナ。さらに龍の追撃がおそう。


「この気持ちは父性なんかじゃない。君を抱きしめたり、キスしたり、色んなことがしたいんだ。リル、君は?君は俺とそういうことするのは嫌?」

「…わた、私、は…」

「好きだよ、リル。愛してる」

「…嫌じゃ、ないわ…」


顔を真っ赤にしてようやく答えるリルリアーナ。それだけ聞くと、ジークはそっと彼女の額に口付ける。


「ちょっ…待って、ジーク!」

「あぁ、待つよ。8年待ったんだ。まだあと2年くらいなら待てるよ」

「そんなに待たせないわよ!」


真顔で言うジークに思わず突っ込むリルリアーナ。キリッとしたその顔は、冗談か本気か分からない。でも、ちゃんと言わないと。だって彼は幻と言われた妖精族の故郷にまで連れてきてくれて、ちゃんと言葉にしてくれたのだから。意を決してリルリアーナは告げる。


「その…私も、ジークが…、好きよ。抱きしめたいし、キスだって、したい…わ」


照れながらも言うリルリアーナに、ジークは無言で目を見開いた。


「な、何よその顔は!?何か言ってよ!」

「いや、夢だなと思って。また手痛く振られることを予想してたから」


だってリルはまだあの男のことを…と言いかけてやめた。目の前の彼女が言うことを信じよう。例え自分に都合の良い夢だとしても、覚めないように願おう。


「抱きしめても…壊れない?」

「壊れるわけないでしょ!」


いや、力加減によっては本当に骨や内臓ごと潰してしまうのだが。そうならないよう細心の注意を払ってそっと彼女を抱きしめるジークに、全力の力で持ってぎゅっと抱きつき返すリル。


「ほら、ね?大丈夫でしょ?むしろ私の方がジークを潰しちゃうんだから!」

「ほんとだ。リル、すごいな君は」


その細腕じゃあ全然潰れる気はしないけど、その可愛いらしさでジークの胸ははち切れんばかりだ。あぁ、本当に好きだ。愛しくて大切なリル。


「俺の(つがい)が君で…本当に嬉しい。大好きだよ、リル」

「私も…好きよ」


そして2人は見つめ合い、どちらともなく優しいキスをした。


評価ブクマコメント等ありがとうございます!

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