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番外編 新年祭

それは新しい年を祝う新年祭の日のこと。


「よー!カイゼル久しぶり!」

「おー」


各部族の族長たちは新年を祝う挨拶のため、龍帝の住まう城に集まっていた。毎年恒例の公式行事だ。銀狼の長であるカイゼルもその例外ではなく、普段のラフな格好ではなくきちんと礼服をきて登城していた。

煌びやかな会場でカイゼルに話しかけてきた焦茶の短髪男はヤード。彼もまた獣人の長だ。


「どうした色男?今日は大人しいみたいだな」

「ん〜、なんかそういう気分じゃないっていうかさ…」

「なんだ、こっぴどく振られたのか?それともやばい女にでも手を出したのか?」

「…いや、すげぇ勘してるなお前」


珍しく給仕の女性に声もかけないカイゼルを見て、違和感を感じたらしいヤードは恐ろしい勘をみせた。


「あと一部の龍族がお前を見て狂狼だなんだと呟いて遠巻きに見てるのもなんなんだ?」

「いやー、それは知らん」


ちらちらと自分を見てくる目線は感じたが、男の目線は一切嬉しくはない。


「陛下は相変わらずの無表情だけど、さっきぽつりと“やはり犬コロは殺すべきか…”って言ってたんだよな。青犬族の奴なんかやらかしたのかねぇ。その発言以来ずっと隅で怯えてるけど」

「なんだろなぁ…」


おそらく陛下の言う犬コロは自分のことだろうとカイゼルは思った。あの方にとって犬も狼も対して変わらぬ生き物だ。完全無関係であろうに怯えている青犬族の族長には申し訳ないが。


「ってかさっき挨拶の時陛下がめちゃめちゃお前のこと睨んでなかったか?あ、こいつ死んだなって思ったわ」

「俺ももう一回殺されるかと思ったよ」

「もう一回って…ん?」


つかつかとこちらに近寄ってくる存在に気づき、ヤードは目を見張り硬直する。カイゼルが飲み終えたグラスを給仕に返した瞬間…。


ガバァッ!!


「!!??」

「ブーッ!!」


ざわっ…!


いきなり己の服をひん剥いてきた男に固まるカイゼルと、横でそれを見て酒を吹くヤード。何がなんだか分からないが、何よりわからないのは剥いできた相手が山賊などではなくこの城の主、龍帝陛下なことである。


「!???」

「…?」


会場中がざわめきと疑問しかわかない中、カイゼルはもちろん訳が分からないと言う顔だが、ひん剥いた本人もなんで?という顔をしながら360℃カイゼルの上衣の中を確認する。


「あ、あの…??」

「違うのか…」


混乱の中ようやく疑問を口にしたカイゼルだが、一通り確かめたあと龍帝は不愉快そうにバッと離れた。そのまま会場にいた兵や族長たちに叫ぶ。


「城門を閉鎖せよ!全員許可を出すまでこの場を離れるな!」


突如の命令に、さらに会場は混乱を極めた。命を出した本人は何やら慌てて会場の外へでていってしまう。


「…え?え?」

「…内臓抉られるかと思った…」


いきなりの出来事に理解出来る者は誰もいなかった。カイゼルはもうないはずの古傷が痛むような気さえした。しかし一体己の身に何が起きたかは彼にも全くわからない。とりあえずオロオロとするヤードを尻目に、龍帝が弾き飛ばしたボタンと上着を慌てて駆けつけてきた城の使用人に渡すのが精一杯だった。


「は?え??何?何が起きたいま??」

「いや、今のは本当にわけわからん…」


上着のボタンを縫ってもらいながら、カイゼルは呆然とする。ヤードもだが、周りも突然の事態に混乱するしかなかった。


「ってか、え?お前本当に何したの??陛下があんな感情的になることある??」

「ん〜、何だろなぁ…」


問い詰められながらも理由は一つしか浮かばない。恐らくかの方が取り乱すのはただ一つ。番である彼女に関することだ。自分が半裸にされた理由はちょっとわからないが。


「申し訳ありません、お待たせいたしました」

「いやいや、全然大丈夫…」


と、ボタンを縫ってもらった上着をカイゼルが受け取ろうとした瞬間…。


「絶対ここだろ!間違いない!」


と言いながら走ってきた龍族の若い騎士にさらにシャツをガバっと捲り上げられたたカイゼル。形の良い腹筋が丸出しである。


「は!?」

「えぇ?なんで??」


先程の龍帝のように、ひん剥いておいて逆にこちらに理由を問うかのような視線にさらに混乱を極めた。


「な、何?銀狼狩りか!?」


混乱した結果、ヤードはささっとカイゼルから距離をとる。いや分かる。分かるがなんだこの薄情者めとカイゼルは思った。


「いやもうほんと何でだよ!」


陛下には絶対出来なかったが、己を上裸にしてきた騎士、ランドルには首根っこを掴んで理由を問いただす。新年早々に公式行事でひん剥かれた理由を聞くのは当然である。


「ぐえ!悪い!悪かったって!」

「じゃあまず理由を言え!でないとこのまま締め落とすぞ!」


ぎーっ!と後ろから締めるカイゼルの腕をバンバン叩きながらランドルは騒ぐ。


「ここに!逃げた!番が!いるかと思ったんだよ!」


バシバシとカイゼルの腕を叩きながら言うランドル。その言葉を聞いてカイゼルはふと彼女の笑顔が浮かび、思わずその腕を緩めた。その隙に慌ててランドルは離れる。


「げっほげほ!」

「番…?なんでカイゼルの懐にいると思われるんだ??お前の番は小鳥の獣人か何かなのか??」

「げほっ…、いや、俺のじゃ…」


そこでみなの注目を集めていることに気づき、ランドルは慌てて言葉を止める。


「逃げたって…本気でか?」

「や…違うから!しょっちゅうある痴話喧嘩だよ!コミニュケーションの一種だ!別に泣いてないし仲良く過ごしてるから!」


だから頼むから下手に関わって陛下を怒らせないでくれとランドルは言外に含めた。あの日、龍帝陛下に喧嘩を売った時と同じ目をしている狂狼に。


「あー、とにかく悪かったな!…お前、今回は知らないんだよな?」

「何のことかは分からないが、知らないな」


ランドルは雑に謝罪をしながらも一応確認をする。恐らく陛下の番である彼女のことだとカイゼルは察していたが、あれ以来全く会っていないため実際何の心当たりもなかった。


「じゃあ俺は行くけど、もし見つけても絶対触るなよ!新年早々炎上なんてごめんだからな!」

「炎上?何が??」


そのままバタバタと去っていくランドルとその同僚たち。ヤードは状況が全くわからないまま何が燃えるんだ?と呟いている。


陛下をあんなに振り回すだなんて、流石だなリルちゃんは。なんて考えて、カイゼルは服を整えながら思わず口元が緩む。


「ん?何にやにやしてるんだよカイゼル?俺には何がなんだかさっぱりなんだが?」

「いやー別に?俺にだってよく分からねーよ。あいつ女の扱いが下手なんじゃね?」


えらい目にあいながらも笑っているカイゼルにヤードは首を傾げる。


「まあ…よく分からんが新年早々逃げられるとか、甲斐性ねぇ奴だよな…」

「ふはっ!お前も言うなぁヤード!今日死ぬとしたらお前も一緒な!」

「なんでだよ!絶対いやだよ!?」


とんでもない発言をヤードから引き出したことに笑うカイゼル。とりあえず王様から全員会場からの退出を禁じられたし、飲むしかないわなと笑いながら彼は新しいグラスを貰う。


その後入れ替わり立ち替わりやってきた龍族数名にひん剥かれるカイゼルを見てヤードは、もうお前今日は裸でいた方がいいんじゃないか?と真面目にアドバイスしたという。



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