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番外編 やんちゃな彼女

何度かの闘いを経て、リルリアーナは城の中なら自由に歩き回っていいという許可をなんとか勝ち取った。

龍帝は心底嫌そうではあったが、そうしなければ彼女が窓から逃げ出そうとするからだ。勿論侍女たちも目を光らせているのだが、妖精族は元々隠れるのが上手い。自覚なくその特殊な力を使っていつの間にか抜け出してしまうのだ。

本人的にはちょっとした散歩のつもりらしく、龍帝にバレないうちに戻るつもりだったらしいがさすがにそんなことは無理だ。龍の加護があるため無傷だが、先日は窓から落ちて龍帝や周りを青ざめさせた。たまたま真下にいて、突然空からきらきら光を放ちながらゆっくりと女の子が降ってきたのを見た騎士も死ぬほど驚いた。察しのいい彼はきっと素敵なことが始まったわけではないと確信していたので、『隊長!空から女の子が!!誰かー!!』と全力で周囲に自身の助けを求めた。


龍帝としては若干やんちゃになってしまったリルリアーナも可愛いとは思いつつ、さすがに危ないのでやめてほしい。いっそ窓を無くすかと思ったが、その考えがばれた途端そんなのは嫌よと泣かれた。番の涙には弱いのだ。しかも、そこまでの監禁は約束が違う!と怒られた。その後2日間、目も合わせず口も聞いてくれなくなった愛しい番に龍帝こそが少し泣いた。

故に、譲歩せざるを得なかった。城の外には絶対出ないことと、侍女と護衛は必ず伴うことを条件に。


そんなこんなでリルリアーナは今日は堂々と城内を散歩している。


「あ!この前の!」

「わ!」


以前銀狼の領地であった龍族の若い騎士たち。それを廊下で見かけて思わず声をかけた。

しかしなぜか向こうはぎくりとしたような何かに怯えたような反応だった。


「あの…確かランドル君?だっけ…?この前はありがとう」

「ひ、妃殿下に名前を覚えていただき光栄です。しかし、私のようなものなどお構いなく…」


以前と全然違うオドオドした様子にリルリアーナはきょとんとする。


「いえ、妃殿下じゃないし。どうしたの変な態度して。何かやらかしたの?」

「やらかしてるのは現在進行形でもあるんだよ!俺の目と耳の危機だ!」


ついつい素になってしまい、叫ぶランドル。今では一応リルリアーナから声をかける分には受け答えをして良いことにはなっている。不自然に避けるとリルリアーナから龍帝自身が問い詰められるからだ。怖いのは嫌いと言う彼女に、恐怖政治をしているなどと思われたくないらしい。まったくその通りの恐怖の帝王なのだが。

しかも周りとしては陛下が番を奪われたあの惨劇の夜は記憶に新しく、やはり絶対的恐怖が身についてしまっているのだった。


「目と耳…?よく分からないけど…あなたたちのおかげでトゲピーと話ができてお友達になったし、一応お礼を言っておこうかなって…」

「いえいえ礼など…え?友達?」


ランドルはまたなんとか取り繕おうとしたが、聞こえたワードに思わず聞き返す。


「友達?え?番…恋人や夫婦でなく?」

「うん?トゲピーとはお友達」


先ほどからきょとんとした顔のまま言うリルリアーナ。会話が噛み合わない。あれ、陛下の番…なんだよな?とランドルは疑問に思った。目の前のアホっぽい少女に対して一体どういう認識でいればいいのだろうか。


「ちなみに…この前の銀狼の、あれとは?」

「え」


聞かなきゃいいのに抑えきれない若者の好奇心。同僚たちも思わずランドルの横腹を小突く。

その小突きと、聞かれた瞬間に顔を赤くしたリルリアーナを見て、あ、これヤバいこと聞いたと自覚したランドル。


「べ、べつに、それは、その、なんでもない、かな…」

「そ、そっか!なんでもないか!」


ダメだ、この話は終わらせなければ!そう本能が告げている。ランドルは不自然な返事に絶対なんでもなくないだろと思いつつも頷くことにした。

リルリアーナ自身もその話題は避けたかったのか、別の話にする。


「…あ、ところでトゲピーってあだ名はひどいって言ってたでしょ?だから呼び方変えてみたら喜んでくれたわ!」

「へ?呼び方?いやいやべつに俺は何も…」


2人に関わる何か。そんな責任を負わされたくはない。お前のトゲピー怖すぎるんだよ。そんなことをランドルが思った矢先、さらなる爆弾を投げられる。


「そういえばあなたの番はまだ見つかってないの?」


ざわっ…!


「妃殿下!それは…」


リルリアーナの発言に周りにいた者たちは騒めき、横にいた青髪の侍女は止めようとした。が…。


ズシン…

瞬間空気が重くなる。この城の主が現れたのだと誰もがわかった。


「へ、陛下…」

「あ、ジーク!」


侍女が頭を下げ騎士たちが片腕を胸の前に出し一斉に敬礼する中、リルリアーナだけが平然と話しかける。


「リル、今の言葉は2度と言ってはだめだよ?」

「え?言葉?」


リルリアーナにはあくまでも優しく笑顔で対応しようと努める龍帝。何を言われているのか彼女はわかっていない。彼女が先ほどいった言葉は、龍族からしたらとんでもない意味となるのだが。


「おい…」

「申し訳ありません!後ほどお伝えしておきます」


龍帝は不機嫌にじろりとリルリアーナの侍女を睨み、何かを目で訴えた。


「何よ怖い顔して。怖いのは嫌よ?」

「リル…!怖くないよ!大丈夫!俺は心優しき王だ!」


すすす、と後ずさるリルに慌てる龍帝。優しい訳ないだろう!と誰もが思ったが口には出さない。廊下一帯に緊張感が走る中、急に間の抜けた音が鳴り響く。


きゅるる〜…


「あ、お腹鳴っちゃった…」

「リル…!」


ぽっと照れるリルリアーナに、可愛い過ぎる…!と龍帝は身悶えしている。

この状況で空腹感じるの…??と辺りにいた騎士や侍従たち含め全員が胃を痛めながら思ったが、陛下の機嫌が直ったようでほっとする。


「こうしてはいられない!すぐにフルコースを用意しろ!」

「昼間からそんなに食べないわよ!もう!」


わあわあ騒ぎながらそのまま去っていく2人を見届けると、ついて行ったお付きのもの以外の周りの者たちは安堵してへたり込んだ。


リルリアーナが先ほど世間話のつもりで言った言葉。

“あなたの番はまだいないの?”を異性に言うのは、龍族にとって“今夜遊ばない?”という夜のお誘いだった。リルリアーナが全く意味を分かっていなかったのは誰の目にも明らかだったが、龍帝が気分を害すのも無理はない。


「勘弁してくれ…。おれはあの命知らずの狂狼じゃないんだよ〜」


命が助かって良かったと、へたり込むランドルなのだった。



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