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番外編 あの夜

第二話冒頭に続く話です。

私、リルリアーナ。花の妖精族よ。なんだかわからないけど、龍帝の番って言われてたのに偽物だったみたい!なんか最近あの人が綺麗な女の人とイチャコラしてるわ!と思ってたらあっと言う間に捨てられちゃった。あの時一緒に部屋にいたサン姉たち、兵隊さんたちに拘束されてたけど大丈夫だったかなぁ?

ん、あれ?なんか身体が…。

え!なんかフワフワ光ってる?治癒の光みたいだけど…いや、なんかむしろ身体が重いわ!え?いきなり太った私??んー??


…10秒くらい意識とんでたかも。あれ、おっぱい膨らんでる…?


「大人になってる!!」


そっか!今日がその日だったのね!そのためにサン姉がゆったりした服着せててくれて良かった!あ、そういえば最後にお金も持たせてくれてたんだわ。さっすがサン姉!よーし、成人祝いと、なんかわからないけど自由になった祝いってことで!お酒のんじゃお!


――


…と、意気込んだのは良いものの、外の世界をまるで知らないリルリアーナ。お店に入ってみるが、その喧騒に驚き固まる。たくさんのテーブルと椅子。そこに座ってワイワイ話しながら酒を飲む人々。


(す、すごい。酒場ってこうなってるんだー)


キョロキョロしていると、後ろから急に声をかけられる。


「ねぇ、キョロキョロしてどうしたの?ここらじゃ見ない髪色だねー。銀狼じゃないよね?旅行客?」

「ひゃっ!」


後ろというか、体格差的にリルリアーナからすれば真上から声をかけられた感覚だった。声のする方を見ると、にこにこした銀髪の男が立っていた。


(銀色の髪…。綺麗…)


「え!?うわっ!可愛い!えー?名前なんて言うのかな?俺はカイゼルだよ〜」

「…リルリアーナ、です」


完全に軽薄な様子で声を掛けてくる男に、素直に名前を名乗ってしまうリルリアーナ。


(なんだか分からないけど、悪い人ではない、のかな?

にこにこ笑ってるし)


リルリアーナは年頃になってから龍帝以外の男を見たことがない。しかも城内にある龍帝の私室に監禁されていたのだから、防犯対策などを教える者もいるはずもない。彼女はナンパという概念すら良く分からなかったのだった。


「お酒飲める?奢るからさ、良かったら一緒に呑もうよ」

「え、あ、は、はい…?」


すいっとリルリアーナの手を握ると、カイゼルと名乗る男は空いていたカウンター席にそのまま彼女を座らせ自身も真横に座る。まるで流れるような動きだ。


「おいおいカイゼル、またナンパか〜?」

「ってかめっちゃ可愛いじゃん!!」

「お嬢ちゃん大丈夫〜?食われちゃわないようにね〜?」


恐らく今まで一緒に飲んでいたのだろうカイゼルの友人たちが、横のテーブル席から口々に話しかけてくる。


「うるせーな、見知らぬ迷子に声をかけるのも俺の仕事でーす」

「ま、迷子…?」

「はは、冗談冗談!なーんか物珍しそうな顔してキョロキョロしてたからさ。それより何飲む?甘い系とサッパリ系ならどっち好き?」

「よ、よくわからないので、とりあえず甘い系…?」


リルリアーナがそう答えると、すぐに薄桃色のお酒が用意された。


「はい、カンパーイ!君の髪色みたいで綺麗でしょ?」

「髪色…」


その時、ふとかつてそばにいた男の顔が浮かんだ。


『君の髪は春の花みたいだな。すごく綺麗だ』

『俺には君だけなんだ。だから、どこにもいかないでくれ…』

『君は…番じゃなかった』


その顔と言葉を思い出して、いらっ!!とした彼女は一気にグラスを飲み出した。


ごっごっご!たーん!


軽快に空グラスをテーブルに置くリルリアーナにカイゼルが驚く。


「え、意外とお酒強い?ははっ!凄!マスター、どんどん追加で!」


リルリアーナの見た目に合わない呑みっぷりに喜び、更に酒を追加していく。


「で、リルリアーナちゃんはどこから来たの?領地の門から入って来たわけじゃないよね?今日の記録になかったし。まぁ飛んでくる獣人も多いからあんまり機能してないようなもんだけどさー」

「…分かんないです。なんかふらふらしてたらここにいました」


嘘ではない。実際見知らぬ龍に捕まれ連れられてぽいっと捨てられた後、フラフラ歩いていたらここを見つけたのだ。彼女はここがどこなのかすらまるで把握していなかった。言いながらまたリルリアーナはグラスを受け取り、くいくいと飲む。


「え、もしかして本当に迷子??大丈夫?成人…は、してるよね?」

「してます!18です!」


ついさっき成人したばかりなのだが堂々と言い放つ。が、銀狼族は15、6で成人するのでカイゼル的には余裕で成人年齢であった。


「へー、結構小柄だけど何族なのかな?君みたいな可愛い子初めて見たよ〜。もしかして飛んできた妖精さんかな〜?」

「族長、酔っ払ってんのか」

「カイゼル〜、お前さっきからもう何杯目だよー」


カイゼルのふざけた発言に周りは笑いながら突っ込む。みんな楽しそうである。


「なんでわかったんですか??わたし、妖精なんです〜」

「だよねー!なーんか雰囲気ふわふわしてて可愛いもんねー!」


完全に酔っ払いの2人にしか見えないし、実際酔っ払ってもいる。さらには実際妖精でもある。


「カイゼルさんは誰なんですか〜?」

「俺〜?俺はね〜、オオカミの獣人だよー。可愛い女の子みーんな大好きなオオカミ!」


そっかぁ、オオカミかー。よく分からないけど、そういうならそうなんだなー。と、リルリアーナは普段からあまり回らない頭で考えた。


「女の子みんな好き…」

「そうそう!こいつ女好きなオオカミだから!食われる前に逃げた方がいいよー!」

「うるせーな!お前らだってオオカミだろが!」


リルリアーナがぽつりと呟く言葉に、周りがちゃちゃを入れる。が…。


「いいと思います!正直で!君が唯一とか他の女はいらないとか意味わかんない嘘つく男よりずっと!」


リルリアーナの力強くも実感のこもった言葉に、カイゼルは何かを察する。


「…ん〜、もしかして浮気されちゃった系?」

「浮気とか!別に!あんな男もう知らないからいいんですけど!だって…」


あんな綺麗な女の人とこっそり…。と、考えると酒のせいか思わずじんわり泣きそうになるリルリアーナ。ちゃんと先に言ってくれたら気にしないし祝福だってしたはずなのに。別に恋人の1人や10人くらいいてもいい。嘘さえつかなければ。


「もったいないな〜、こんな可愛い子がいるのに浮気するなんて。俺なら絶対大事にするのに〜」

「う〜、カイゼルさん優しいです〜。好きになっちゃうかもー!お酒も美味しい!」

「はは!俺はもうリルちゃん好き!じゃんじゃん飲んじゃお飲んじゃお!山虎の奴らから勝ちとった財宝有り余ってっから!」


ご機嫌にどんどんお酒を飲む2人。呑みっぷりの良さにマスターも上機嫌だ。


「お、族長、さすがだな!」

「昨日に引き続きの祝い酒だな!はははは!」

「ってか傷開いても知らねーぞー!」


周りもやんややんや言いつつも笑って止めない。なんだかんだみんな明るい飲んだくれである。そんな風にしばらくわいわい飲んでいたが…。


「うふふ!お酒美味しいし、みんな笑ってて楽しいです!」

「俺も楽しいよー。…でも、そろそろ2人きりの方が楽しいかもよ?」

「ふたり?」

「そ。楽しいことできるよ?」


おもむろに肩を掴んで顔を近づけてきたかと思うと、カイゼルはリルリアーナにキスをしてきた。


「んん…!?」


椅子の上で抱き寄せられたことによりバランスを崩し、思わずしがみつくリルリアーナ。そのまま唇をなすがままに貪られる。


「おいおいカイゼル、そういうのは家でやれよー!」

「…はっ。それもそうだな。マスター、お会計!」


横から抗議され、一旦離れるカイゼル。顔を赤らめとろんとしているリルリアーナの肩は掴んだままだ。


「…家?」

「そ!俺ん家。…嫌?」

「やじゃないです!いきます!」


よーし!じゃあ行こー!と言いながら、カイゼルは上目遣いで見てくるリルリアーナをそのまま抱き上げた。


「おいおい、お前の家は族長屋敷だろ?初対面の女の子連れ込むのはさすがに…」

「いーのいーの!りるちゃんも楽しいことしたいもんねー?」

「はい!したいです!」


1人素面のマスターが一応止めようとするも、きゃっきゃうふふと2人はご機嫌に去って行ってしまった。


「ずいぶん世間知らずっぽい子だったけど大丈夫かー?」

「まぁアイツなら無理やりはしないだろー。楽しそうだったしいいんじゃね?」


だれか明日ゼフさんに報告しとけよー。と酔っ払いたちは適当に流すのだった。


その夜。帝都で起きていた惨劇を、オオカミたちは誰も知らない。


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