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番外編 妖精の森は

銀狼の領地を離れ龍の城へと帰る途中、遥か上空でリルリアーナは黒龍の背に座りながらぼんやり考えていた。


「ねぇ、ジーク。私、初めの頃ずっと妖精の森に帰りたいって泣いてたでしょ?」

「あぁ…」


幼い頃大鳥に攫われて、そこを龍帝に助けてもらったけれどそのまま城の奥に囲い込まれてしまった。だからリルリアーナはお母さんたちのところに帰りたいとしばらくは泣いていたのだ。そのうちに諦めたけれど。だって…。


「…でも、本当は戻れないって最初から分かってもいたの。だって、妖精の森は隠れ里だから。一度森を出たものは戻っちゃいけないって教わってたの…」


その存在を知られてはならない。力こそ全ての獣人にとって、治癒の能力は喉から手が出るほど欲しい力だ。隠し続けた結果治癒術の存在はいつしか御伽話になり、花の妖精族は見た目の美しさ故狙われているとの通説となった。


「だから、帰り道を探しちゃダメだって…2度と戻れない場所だって言われてて…探してもし悪い人に見つかってしまったら森のみんなが危険だからって…」


リルリアーナがぽつりぽつりと話す言葉を、龍帝は真剣に聞いている。


「…わがまま言ってごめんなさい。とっくに帰る場所がないことなんてわかってたのに」

「リル…」


自分の背に乗っているため、龍帝からその表情は分からない。しかしその声音が泣きそうな音をしていることは分かった。


「…俺こそすまない。本気で探そうと思えば見つけられると思う。どこかに秘密裏に匿うこともできる。だけど…君を帰したくなかったから…」


龍帝の言葉にリルリアーナはふるふると首を振る。


「ううん…、森には御神木があるから、それはだめなの。だから、いいの。もう、いいのよ」


幼い自分が帰りたかった故郷。だけど、本当は帰れない。そんなリルリアーナを龍帝がずっと守ってくれていたことは間違いない。彼女はわかっていないが帰れない以上、治癒の力なんて必要としないくらい強い彼のところにいるのが1番安全なのも事実だ。

たとえ掟がなくても他の選択肢を選ばせてくれなかったことにも違いないが。


「私は運命なんて信じないわ…だけど、あなたが私を好きって言ってくれることは、信じてみようと思って…」

「リル…」


番を失った龍は死んでしまうかもしれない。それが本当だとすれば、この泣き虫な龍を放って置くわけにもいかない。だからこの景色からもし妖精の森を見つけてしまっても、帰れないし帰らない。きっと自分の居場所はもうそこではない。もう一つ、見つけかけていたけど、そちらには蓋をして。今のところどうしたってこの龍は諦めてくれそうにないのだから。

そんなことを考えつつ、風景を見るのをやめるかのようにリルリアーナは仰向けに転がった。


「だから…」


それに自由は安心して帰る居場所があってこそだ。そして誰かの帰る場所にもなりたい。それはもしかしたらあの閉じ込められた日々にもあったのかもしれない。ただ、もうあそこまで大人しく監禁されるつもりはないけれど。だってこれからは自分のために闘うことを覚えたのだ。あの格好良くて優しい人のおかげで。

番については結局よくわからないけど、そのうち満足したり飽きたりしてまた捨てられるかもしれない。その時まで闘い続けるのもいいかもしれない。龍族程ではないが、妖精族の寿命も長いのだ。肉体はこれ以上歳を取らない。だから考えるのはゆっくりでもいい。

そんなことを彼女はぼんやり思っていた。


「私…あなたが、いつか…。……」


そう言った後、急にリルリアーナは無言になった。龍帝が緊張して耳を澄ませるとすやすやと寝息が聞こえた。


「ね、寝たのか…?え、嘘、このタイミングで??」


声を掛けても返事のないリルリアーナに戸惑い、近くを飛んでいた小型の赤龍サンディに視線を向けてみる。


「何を言おうとしていたか分かるか…?」

「いえ全く」


考えるそぶりもなくサンディは首を振る。次に近くにいた緑龍の側近に声をかける。


「マードリック…」

「へ!?いえ、私にも全く…」


いきなり質問がくると思っていなかった彼も慌ててかぶりを振る。実際全く分からない。

城に戻るまでの残り時間、龍帝陛下はずっとモヤモヤすることとなったのである。



そしてそのずっと後方。龍帝陛下たちを遠巻きにするように飛翔する3匹の龍、ランドルたちは呟く。


「俺、陛下があんなにゆっくり飛ばれるとこ初めて見た…」

「背中に乗せてるからだよな?ってか背中に乗せる自体、番じゃなきゃあり得ないよな…」

「やっぱりあの方が番で間違いないんだな…」


そして彼らは互いに目を合わせると、これ以上墓穴は掘るまいと誓ったのだった。


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