それから
「本当に嵐みたいな方たちでしたねー」
その嵐により壊された建物の修繕を指揮しているカイゼルにゼフは言う。街のど真ん中でなく端で決闘が起きたため被害が少なかったのが幸いだ。勝敗は妖精が舞い込んだため有耶無耶になり、無効試合扱いであるが。
ちなみに修繕費と職人は龍族から過分に送られてきた。それが迷惑料なのか、例の件の口止め料なのかはわからない。まぁありがたく受け取ってはおいた。
「ほんと、死人が出なかったのが奇跡なくらいだよな」
何なら一瞬死んでた男が笑いながら言う。その姿を見て、誰もが懲りて無さそうだなこいつと思うことだろう。
「あーあ、可愛かったなぁリルちゃん。また来ないかなー」
懲りてない。こいつは絶対に懲りてない。
しかしあの時龍帝相手に勝てぬ闘いを挑んだカイゼルに対し、銀狼たちからの評判は鰻登りだった。もともとが血気盛んな一族である。二頭の色もあり、恐怖の黒龍王からお姫様を救い出す白銀の勇者というような扱いだった。最終的にお姫様に振られたというとこまで含めてある意味美味しい。
闘いのさ中、誰とも知れぬ龍族が叫んだと言う『族長イカれてるって!』というカイゼルへの言葉が刻まれた衣服が流行るのもそんなに遠くはない。
また、一部の龍族からは“命知らずの狂狼”だとか“不死身の狼”だとか呼ばれて密かに一目置かれていることは知らずにいる。
「あともう少しいてくれたら絶対落とせたのになー」
「…カイゼル様、割と本気だったでしょう?」
相変わらずヘラヘラした様子の主にゼフは問う。
問われたカイゼルは、いやいやまさかそんなわけないだろー?と笑って言ったかと思うと、次の瞬間には真顔になり声を低くして答えた。
「割と、程度で龍帝相手に喧嘩売るわけないだろ。あの瞬間、あの子のために死んでもいいって思ってたよ」
珍しく低いトーンで言う彼の言葉に、ゼフは目を見開く。
「…なーんてな」
次の瞬間にはまたいつもの調子に戻り、いやめっちゃくちゃ強かったよなー!全っ然牙も爪も通らなかったわ!と言いながらケラケラ笑っている。
そんな主人に呆れたような笑いを浮かべ、ゼフは言う。
「ま、なんにせよ振られてますしね」
「ひでぇ!傷つくわー!」
格好付けの狼は、けれど格好つかないのだった。
一方、傍迷惑な龍帝たちはどうしているかと言うと…。
――
城内の広々とした龍帝の私室にて。2人は向き合っていた。
「ジーク?」
「…り、リル…」
リルリアーナの差し出す手をプルプルしながら掴もうとする龍帝。掴もうとはする、が…
「だ、駄目だ…!やはりかよわい君を壊してしまうかもしれない…!」
「壊れないってば!」
リルリアーナを壊さないか心配して差し出されたその手を掴めないでいる。もうこんなやり取りが何度も続いている。
「そんなんじゃもし崖から落ちそうな時どうするのよ!?掴まなきゃあなたを引き上げて助けてあげられないじゃない!」
「いやその時は飛ぶし、愛しいリルを危険に晒すくらいなら死ぬし…」
「例え話でしょー!」
さすがにそれは無茶な例えですリル様…と後ろに控えるサンディは口に出さずに突っ込んだ。
「お友達から始めるのよ?まずは手を繋ぐことからよ!」
ふわふわな妖精さん発言をするリルリアーナ。いやまあ妖精なんだけれども。
「でも…そんな…君が可憐すぎるから…」
しかしそれに輪をかけてふわふわしているのは拗らせ龍帝だ。
「もう!だから1000年ド……ラゴン、なんて言われるのよ…」
危うくこの前聞いたとんでもない渾名を言いそうになるが、ギリギリでとどまるリルリアーナ。龍帝は1000年は生きてないよー?と言いながらよくわかっていなさそうだ。
「とにかく!街に連れて行ってくれるのでしょう?早く行きましょう!」
「うぅ、やはり君が心配だ…」
そう。なんとか説得が成功して、絶対に離れないことを条件に帝都に連れて行ってくれることになったのだ。
「あなたが一緒なら何も起きないわよ。守ってくれるんでしょう?」
「勿論だ!どんな危険からも守ろう!」
上目遣いで見てくる愛しい番に、勢いづいて答える龍帝。そんな姿を見てリルリアーナはふふっと笑って言う。街に出れるため上機嫌らしい。
「じゃ、行きましょ?」
自分から龍帝の手を取り歩き出すリルリアーナ。はわわ…と言って顔を赤くしながらも彼はされるがままだ。
この調子では何年かかることやら…。とサンディは2人の後ろに付き従いながら思った。
そして事前に男たちを家に閉じ込めもしくは閉め出した異常な帝都に気づき、リルリアーナが怒り出すのは時間の問題だろうな、とも。
お付き合い頂きありがとうございました!
本編はとりあえずここで完結し、番外編にてあの夜やその夜の話、ifやその後の話など上げていきます。




