朝に
「で、どうするんですか」
「決まってんだろー。責任はとるさ」
リルリアーナの“初めて”発言に硬直した後、我に返るととりあえずゼフを部屋から追い出し服を着て彼女を風呂へと運んだカイゼル。そこでゼフが呼んでいた屋敷の使用人へと彼女を預けて、自身も別部屋のシャワーを使い身なりを軽く整え部屋に戻った。
そこで待ち構えていたゼフに捕まり冒頭である。
「責任って…だいたいどこのどなたなんです?」
「さあ?起きたらいた。でも超可愛いだろ?」
ヘラヘラしたカイゼルの発言にゼフは頭を抱えるしかない。
「さあ?って…。昨夜あなたは街の酒場でご友人たちと飲んでいました。そこへ現れた少女をナンパして、意気投合。そのままご機嫌に屋敷に連れ帰ったとの報告を受けています」
「まじかー。やるなぁ俺」
ゼフの報告にある自分に思わず関心してしまうと、ジロリと睨まれた。
「族長ともあろう方が!身も固めずいつまでもフラフラ遊んでるといつか痛い目みますよとあれ程言っていたじゃないですか!どこの誰かもわからない少女を拾って来て!昨夜の記憶もろくにないとか!だいたい成人してるんですかあの子!?誇り高き銀狼族の長がロリコンとか勘弁してくださいよ!?」
「いやいや、酔っててもさすがに子供には手は出さないさ。それに、かの龍帝陛下こそ幼い番を何年も大事に育てて囲ってるんだろ?ロリコンにはレベチがいるって」
説教が加速して止まらないゼフにヘラヘラしながら軽く返すカイゼル。しかし龍帝の名が出た瞬間ゼフの血相が変わる。
「!そこで畏れ多くも龍帝陛下の名を出さないでください!下手なこと言って八つ裂きにされても知りませんよ!」
「へいへい」
そこでコンコンとノックの音が聞こえた。
返事をすると、入ってきたのはやはり件の少女。しかし身なりを整えていて、チラリと見た先ほど以上に美少女に見えた。
「あの…お風呂ありがとうございました。それと…すみません着替えまで」
「…可愛い」
眩さに惚けるカイゼルだったが、気のいい女好きを自負する男だ。すぐに取り繕って笑顔に戻る
「あ〜、服はこの前嫁に行った妹が昔着てたやつだから気にしないで。それより君、その…」
「成人してます。18歳です。その、ごめんなさい。会話聞こえちゃってました」
どこから聞いていたかはわからないが、ゼフの説教は廊下まで響いていたらしい。きまずそうに彼女は続けた。
「リルリアーナといいます。昨夜も名乗ったんですけど…覚えてませんか?」
「ご、ごめんね。その…君、リルリアーナちゃん、記憶…は?」
俯きつつも名乗る美少女に念の為確認する。すると顔を赤らめ、二つに結んだ髪の先をいじりながら彼女は言った。
「…ばっちりあります」
「サーセンした!!」
「うちのあほが申し訳ない!」
勢いよく男たちが頭をさげるも、それを見てリルアーナは慌てる。
「いえ、酔ってたから仕方ないです。私も酔ってたし…。でもまさかあんなとこあんな風に触って。あんなになっちゃうなんて恥ずかしかったから忘れてくれてよかったかも…」
「次は!次は絶対忘れないから!本当に!」
真っ赤になるリルリアーナにそんな至福の記憶を無くした己を殴ってやりたいカイゼルであった。
「えー、と。それでリルリアーナさん?私はゼフです。カイゼル様の補佐のようなことをしています。カイゼル様について知っていることは?」
色ボケ空間になる前にゼフが咳払いをして話をもどす。
「カイゼル…さん。なんか獣人?で、とにかく女の子大好きなオオカミさんで、ん〜と、お酒いっぱい飲む人?」
「めっちゃふわふわした情報ー!ばっちりある記憶でそんな解像度なの俺!?」
「一夜なんですからそんなものでしょうこの色ボケ狼が」
リルリアーナが頑張って捻り出したカイゼルの情報だったがほぼ無いに等しい。
今日何度目かのため息をつきつつも、ゼフは続けた。
「彼はカイゼル。21歳。我ら銀狼族の長です。そしてあなたが今いるのは銀狼族の族長屋敷ですよ」