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決闘

族長同士の決闘に横槍を入れるのは許されない。

それ以前に怒り狂った黒龍を止められるものなどはいないのだが。瞬殺ではないものの、力の差は明らかだ。黒龍の爪や牙によりカイゼルの白銀の毛並みはみるみる血に染まっていく。


「いや…やめて…」

「リル様、族長同士の決闘です。止めてはいけません」


ふらりと手を伸ばし近寄ろうとするリルリアーナの腕をサンディが掴む。が、リルリアーナは引き下がらない。涙を浮かべながらもキッ!と睨む。


「せめて一撃加えればいいのでしょう!?見て!彼は王様相手に爪をくらわせてやったわ!」


族長決闘がなんだ。男の闘いがなんだ。そんなの知らない。これはそもそも自身で闘って得なければならない事だった。あの優しい狼は出会って間もない自分のために闘ってくれた。だったらそこからすべきことは一つ。


「あの勘違い王に次の一撃を食らわせてやるのは私よ!」


瞬間リルリアーナはサンディの腕を振り払い駆け出した。あの格好良くて優しい狼を守るため。そして他でもない自分のために。


――

ドシャッ…!


血まみれで倒れながらぼんやりとカイゼルは考えた。


あー、俺死んだな。ほんと馬鹿なことしたわ。でもあの子の笑顔のためなら仕方ないよなぁ…。リルちゃん、守れなくてごめん…。


すでに起き上がる力すらない。

そして龍がトドメの一撃を放とうとしたその時。


「だめーっっ!!」


バァーーンッ!!


カイゼルを庇うように2人の間に割って入ったリルリアーナ。その瞬間龍の攻撃と己の加護がぶつかり合い弾け飛んだ。


「リルちゃんっ!?」


ずさぁっ!と転ぶリルリアーナ。


「…なん…てことを…怪我は?」

「カイゼルさんこそ…!血だらけじゃないですか!」


もはや身動きすらできない状態の狼に近寄りながらリルリアーナは泣く。その膝はわずかに擦りむいている。


「り…る…りあーな…。俺は…俺は…」


血すら出ていないわずかな擦りむきでも、自身が大事な番であるリルリアーナに牙をむけてしまった。その事実に愕然とする龍帝。


「すまない…!君に…俺は…!」


そう言いながら龍は人型に戻り、今にも泣きそうな顔で走り去って行く。


「あ…!」

「り、るちゃん…?」


走り去る龍帝を引き止めようとしつつも、あきらかに致命傷を負っているカイゼルの方に慌てて向き直るリルリアーナ。彼のその目はもう見えていないようだ。


「ははっ…格好、つかないな〜…。でも、まぁ、こんな最期も、悪くない、かな…」

「最期なんて言わないで!…絶対、助けますから…!」


死を悟りつつも笑う狼に、リルリアーナはそっと手を伸ばす。その瞬間、カイゼルは暖かくも柔らかい光に包まれる。


「カイゼルさん…大好きです」


龍帝の加護とはまた違う、その柔らかな光は妖精族が他部族から狙われるもう一つの、そして最大の理由。


「治癒術…!?」


初めて目の当たりにするそれを、ゼフはあり得ない御伽話か何かのように思っていた。隣でサンディがしーっと微笑みながら人差し指を立てる。内緒ですよ、と。


きらきらとした光に包まれてカイゼルの傷が全て塞がってゆく。それを見届けて、涙をぬぐいながらリルリアーナは言う。


「…ありがとうカイゼルさん。本当に、大好きです。…でも、だから、ごめんなさい。私、あの泣き虫な王様のこと、放っておけないみたいです」


拭いきれない涙を浮かべながらリルリアーナは無理やり笑う。


「…うん、知ってたよ。行っておいで」


命からがらの身で、こちらも笑ってみせた。これはもう格好つけというか男の意地だ。


ありがとう!と言って他の男を追いかけ走り去る彼女の背を見つめながら、ひとりごちるようにつぶやくカイゼル。


「…これ、俺振られた?」


ゼフを含めた一同、無言で頷くしかなかった。



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