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抱えた火薬の重さは

「え、会いません」


街の食堂で昼ごはんの最中に声をかけられたリルリアーナはさっくりと断る。


「あのでも、外で龍帝陛下が探していて…」

「やです。塩でもかけとけばいいんですよあんなの」


とうとうナメクジ扱いである。

運悪く龍帝に出くわしただけの青年たちは、困った顔をしてリルリアーナの向かいの席にいたカイゼルを見やる。助けて死にたくないという顔をしている。わかる。わかるよ。


「あー…、リルちゃん…」

「誰が名を呼んでいいといった」


人の形をした恐怖がそこにはいた。わぁおっかない。

いつの間にいたのか。目も鼻も気配察知能力も良い狼たちが誰1人気づけなかった。ようやく気づいてから慌ててカイゼルは椅子から立ちあがり礼を、辺りにいた銀狼一同は片膝をついて平伏する。しかしそんな皆の恐怖をよそにリルリアーナはサンドイッチをもぐもぐと食べつづける。そしてごくりと呑み込むとこう言った。


「私が呼んでって言ったの!トゲ…あなたには関係ない!」

「リルたん…!きちんと飲み込んでから喋るところも相変わらずいじらしい…!」


トゲ…?何か言いかけたリルリアーナにも気になったが、椅子に座っているリルアーナの横にうっとりした顔でしゃがみ込む龍帝にも一同は慌てた。


こちらは膝をついて首を垂れているというのに、あんたにしゃがまれたらどうすればいいのだ…!地面か?もはやめり込むしかないのか?

幾人かが覚悟を決めたその時、リルリアーナはささっとカイゼルの背後に移動した。


「リルちゃん?」

「私、これからは狼として生きていくわ!カイゼルさんについていくの!」


カイゼルに抱きつきながら宣言するリルリアーナだったが、その瞬間びしり…!と空気が凍った。


「ワァ、頼モシイ新入リダナァ」


ともすれば地獄への超特急のような発言と行動に、棒読みで答えながらもかろうじて笑顔を保っているカイゼルはやはり強いのである。族長になるだけはあるのだ。すでに平伏したまま龍帝の圧だけで気絶している者もいるというのに。


「お、狼…??」

「そうよ!近寄ったら噛み付くわよ!ガウガウ!」

「そ、それは是が非でもお願いしたいが…」


ショックを受けたが、リルリアーナに噛んでもらうことを想像すると龍帝は顔を赤らめた。しかし横にいるカイゼルの存在については相変わらず不快そうな目で見る。


「昨日も一緒にいたな、そこの男…。銀狼の族長か」

「そうよ!私たちの頼れる族長よ!」


え、こっち?本気でこっち側なんですか?と平伏した銀狼たちが混乱する。


「あ、でもどうすれば狼になれるのかしら…。筋トレすればなれますか?」

「…や、多分筋トレじゃあ無理かなぁ…」


真面目に明後日な方向に向かった質問をする彼女に、カイゼルは可愛いなと思いつつもなんと答えれば良いのかわからない。獣化するのは後天的にはもちろん無理だが、各部族の一員になるのは族長が認めればいいだけなので簡単ではある。しかし問題は目の前にいる最高権力者だ。


「君は龍族の、俺の番だ。狼になどさせるものか!」

「龍なんて勝手な一族嫌よ。ムキムキに鍛えて立派な狼になってみせるわ!」


いやだから筋トレじゃ無理だって、とカイゼルは思ったが続く発言に顔色を変えることになる。


「リルたん、そいつに脅されて言わされてるのか…?」

「違うわ!カイゼルさんは嫌なことなんてしないもん!あの時だって優しく…」

「おおああああ!」

「「あおおおおおん!」」


超特大爆薬を投げて来そうになるリルリアーナを大声で制すカイゼルとなんだかんだで結束の強い銀狼一同。


「あの時…?」

「陛下!大変です!帝都近くの橋が崩落したようです!今すぐお戻りを!」


何か余計なことに気づきそうな龍帝だったが、瞬時にズサーッ!と飛び込んできた龍の側近に思考を遮られる。主を追いかけてやってきたようだ。息が上がっている。


「橋…?そんなもの飛び越えればいいだろう。それより…」


龍にとっては至極当然の答えである。


「飛べないものもいるのです!直ちにお戻りを!」


何かを察した有能な側近が必死の形相で説得する。これは駄目な予感がする話題だ。このままでは世界が破壊されかねない。

次第にあっちも壊れた!帝都でいまにも流行りそうな流行病が!とありとあらゆる理由をつけて騒ぎだす龍族たち。


「流行病…」


そしてその中でも流行病という言葉に龍帝は食いついた。病はだめだ。かよわいリルたんが帰る場所を守らねばならない。病の沈静化ができなさそうならいっそ一度全て焼き尽くしておこうと。相変わらずの危険思想ではある。


「…リルたん。名残惜しいが一旦戻らねばならない。安全を確認して、次こそ必ず連れ帰る」

「な、なんか大変そうだけど大丈夫…?気をつけてね?」


いや流行りそうな流行病ってなんだよとカイゼルは思ったが、リルリアーナは本気で心配していた。根が優しいだけなのか龍帝自身への情なのか…。


「リルたんが俺を心配している…!?必ず、必ず生きて君の元へ帰ると誓うよ…!」


ともすれば何かのフラグのようにも聞こえるが、この男を殺せるものなどこの世にほぼ存在しない。


「いや私のとこに戻られても困るから。早く行って。もう会いにこないでね」

「り、リルたん、せめてこの鱗を…」

「いらないわよ。貴方の皮膚みたいなもんでしょ?きも」


押し付けてきた龍の鱗をポイ捨てし、しっしっと追い払うリルリアーナの姿はどこまでも不敬だ。


「リルリアーナ、次が最後だ。次は何があろうと君を絶対に連れ帰る」

「じゃあ次が最後で諦めて。私が帰るのはあなたのところじゃないの」

「ぐうぅ…」


意を決したような龍帝の言葉にも冷たく明確な拒絶で返すリルリアーナ。龍帝はその言葉に呻きながらも名残惜しそうにしていたが、側近たちを引き連れ去って行った。


「リル様…」


そこに潜んだ1匹の赤龍を残して。

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