酩酊の夜
「別に私が名乗ったわけじゃないんですよ」
「うんうん、そーだよねぇ。りるちゃんだっけ?可愛いもんねー」
酔っ払い相手に同じく酔っ払っているリルリアーナは語る。赤ら顔の2人は誰が見てもへべれけ状態だ。
「なのに故郷にも帰らせてくれず!君がいないと生きていけないとかいいながら!簡単に他の女に引っかかって!」
「うんうん、これどうやって脱ぐの?あ、解けた」
明らかに2人の話は噛み合っていない。怒り状態のリルリアーナと上機嫌の見知らぬ銀髪イケメン。
「さんざん囲い込んでおきながら、あんなあっさりポイ!とか!別に?望むところですけどね!」
「うんうん、りるちゃん小さくて細いのに大きくて柔らかいよねー」
そんなやりとりがずっと続いていたが問題はみっつ。
ひとつ、2人は酔っている。
ふたつ、2人は年頃の男女。
みっつ、2人がいるのはベッドの上。
お分かりだろうか。この条件にて導き出される答えはひとつなのである。
割愛!
――
ちゅんちゅん…ちちち…
「誰これ…?」
翌朝。銀髪の男、カイゼルは隣に眠る見知らぬ少女に気づき目を見張った。
朝露に輝くストロベリーブロンドの髪。張りのある肌に布団からややはみ出て見える柔らかそうな膨らみ。彼女が目を瞑ったままでもわかる、まだ幼さを残しつつも端正な顔立ち。そして裸。己も彼女も裸。
「あー…これはやっちゃったか。しかしえらい可愛い子連れ込んだな俺…」
誰にともなく呟きつつも痛む頭を抱えて、昨夜の記憶を思い出そうとしたその時。
「ん〜…?」
もぞもぞと彼女が動き出し、目を薄く開いた。
「あ。起きたかい?」
カイゼルが声をかけると彼女は気だるげに答えた。
「ん〜、身体だるい…水飲みたい…」
「オッケーオッケー。今用意するからちょっとま…」
ばたばたばた!ばんっ!
廊下を走る音が聞こえたかと思うと、勢いよくドアが開かれた。
「カイゼル様!酒や女遊びは程々にと言っているのに!とうとう初対面の少女を屋敷にまで連れ込んだと聞きましたよ!」
怒りながら入って来たのは20代くらいの青年。いかにも賢そうな顔をした、しかし苦労人顔の青年である。
「きゃあ!」
「あ〜。ゼフ、ノックぐらいしろって」
慌てて布団を頭からかぶる少女と慣れた反応のカイゼル。ゼフと呼ばれた青年は女性の反応にしまったという顔をしてやや気まずそうにしつつも部屋に散乱した衣服を見てため息をつく。
「とにかく…まずは服を着てください。風呂も用意させてます」
「さっすができる男だな。じゃあかーのじょ、お風呂どうぞ?抱っこで運んであげるよ?」
なーんて、と付け加えつつカイゼルが軽口を叩くと、布団の中からくぐもった声が聞こえた。
「はい、お願いします…」
「あれ、思ったより積極的」
今も恥ずかしがっているし、抱っこは断られると思っていたため、逆に面食らってしまったカイゼル。続け様に彼女は言う。
「初めてだったから…。身体が怠くて…」
その発言に2人の青年は凍りついたように固まったのである。