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一方その頃

リルリアーナたちが節穴団と会う少し前の時間。

復旧した龍の城にて無言で書類にさらさらとペンを走らせる龍帝に、側近は話しかけるタイミングを伺いそわそわとしていた。そして、龍帝はふと手を止めてぽつりと呟いた。


「やはり…贈り物が必要か」

「はっ…」


突然の発言に側近たちは反応できなかったが、そもそも独り言のつもりなのか気にもせず龍帝は続けた。


「いやしかし、これまで何を贈っても殆ど喜ばれたためしがないからな…。謝罪ならばやはり彼奴らの首を残しておいて、盆にでも乗せて彼女に捧げるべきだったか…」


灰にするまえに考えるべきだったな…と本人は反省しているようだが、絶対それは喜ばないだろうなと部屋にいた全員が思った。そして自分は絶対その盆に乗るような愚かな真似はしないようにしよう、とも。


そして再び無言で書類にペンを走らせる龍帝。物騒な発言も怖いが、沈黙もそれはそれで怖い。

そんな状態が繰り返し続く中、側近の一人が勇気を出して話しかける。


「あの…陛下」

「なんだ」


こちらも見ずに仕事に専念しながら龍帝は答えた。


「その…よろしかったのですか?ようやくお会いになられたのに、あのような所に置いてこられたままで…?ひっ!」


側近の言葉の途中で龍帝が握っていたペンがぼきりと真ん中から折れた。


「良いわけがないだろう!あんなよくわからん犬コロ共のところに!可愛いリルたんを!しかも大人になってさらに魅力的になってしまっていた!あんなに美しくては獣たちが何をするか…!?」


言いながら次はバキィッ!と机が壊される。


「無理無理無理だ!今すぐ連れ帰りたい!安全な部屋に隠したい!あぁでもでも、そんなことをして今度こそ本気で嫌われたら俺は…!俺は…!」


叫ぶ龍帝に、家来たちはまただ!消火部隊を呼べ!と騒いで次にくるであろう炎に備えた。氷龍たちによる火消し団が最近発足されたことは有名だ。十頭がかりでも龍帝が吐いた炎を沈静化するのはかなりの時間を有するが。

しかし側近が懐からささっと何かをさし出す。その厳重に布につつまれている何かを見て龍帝は止まる。


「それは…?」

「お手紙です。お妃様付きの侍女の1人を派遣して、書いていただいたものです。先程侍女から受け取りました」


あくまで侍女を通してで、私は決してお妃様に話しかけてなどいません!と強く主張することも抜かりない。命は大事なのだ。


「リル、たんの…?」


ぎ、ぎ、ぎ、と動く龍帝に、側近はこくりとうなずく。もちろんその名を呼ぶことはしない。彼はなかなかに有能だ。


次の瞬間、バッ!と手紙を奪い、布から出す。そして、封筒に書かれていた宛名を見て、近くにいた龍たちは目を点にする。


『トゲピーへ』


「はぁぁぁ!リルたんが書いた俺へのご褒美だ…!」


歓喜にむせる龍帝に一同は思う。

いやまてこの方なんて呼ばれ方してるんだ、本名と全然違うだろう!?と。

とは言え本人は喜んで封筒の匂いまで嗅いでいる。リルたんの匂い…!と言っているが、分からんだろ。別に龍族は特別鼻の良い種族のわけでもない。なんならさっきまでそこの男の懐に入ってただろ。奴の顔を見ろ、なんとも言えない複雑な顔してるだろう。

と、思っても誰も絶対言わないが。


そしてしばし匂いを堪能したのちいそいそと手紙をひらくとそこには…


『ばーかばーかばかへーかー』

とだけ書いてあった。ベタかよ…!と、皆思ったが、龍帝だけは違った。


「俺のために12文字も書いてくれてる…!?」


推しに対する過激派オタクである。よもやの燃費の良さで大喜びだ。


「なんて健気なんだ…!今すぐ行くよリルたん…!」

「あ」


側近たちが気づいた瞬間にはすでに窓から飛びたち龍の姿になって空のむこうだ。

さっすが龍帝。俺たちよりずっと速い…!という感想で精一杯だった。


「もう少し穏便に話を進めるはずだったんですが…」

「いや、燃やされるよりはずっとマシですよ…」


側近は陛下を落ち着かせる作戦の失敗に落ち込みつつも、慌てて氷龍たちを連れて後を追うのだった。

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