龍の種類も様々
朝から農作業をしていたらしいリルリアーナがそこにいた。畑は町外れのこの場所に近いのだから当然でもある。カイゼルは龍族と会わせるのは危険だと思いつつも、そもそも気づいていなさそうな彼女に向かって何ごともないかのように挨拶をした。
「やあリルちゃん、どうしたの?」
「畑で作業をしてたらなんか大きな声が聞こえてきて…。よく分からなかったけどカイゼルさんの声も聞こえてきたので…」
純粋になんだろ?と思って見にきたらしい。確かにこいつらうるさかったなとカイゼルは節穴団を見ながら思った。
「あー!そうそう!この女!銀狼族にしてはなんか小せえなって思って覚えてるわー」
「お前女性相手に失礼だな」
リルリアーナを指さす赤髪の騎士を、横にいた緑髪の騎士がたしなめる。指をさされた本人はよく分からずきょとんとしているが。
そしてこの場にいる龍族は皆リルリアーナが龍帝陛下の番ということに全く気づいていなさそうだ。やはり昨日の集団との連携は取れていないとみていい。
「あんたいかにもチャラそうな見た目して、女の趣味めっちゃ意外だな!こういうタイプが好きなのかよ!」
「うるせぇな、余計なこと言ってると噛むぞ!」
カイゼルに向かって笑いながら赤髪の男が言う。傍から聞くと男同士の軽口ではある。
「あの、カイゼルさん、お友達ですか?」
こてりと首を傾げながらリルリアーナが問う。
龍帝の妃と呼ばれてはいたが、リルリアーナはほとんどの龍と面識がない。閉じ込められていたため騎士の制服すらぼんやりと見覚えがあるかないか程度だ。しかも彼女はぱっと見で種族なんてわからない。
「いや違…」
「しかも泥まみれじゃん!族長の女に全然見えないな!」
あっはっは!と何が楽しいのか赤髪の男は笑う。箸が転げても笑う年頃らしい。なんだか分からないがバカにされていることはわかるリルリアーナはむっとして言い返す。
「なによ失礼ね!農作業してたら泥がつくのは当たり前ですー!」
「お、怒った?悪い悪い、そうだよな。齢100にも満たないお子ちゃま同士お似合いだったな!」
よく分からない龍族ジョークに周りの龍族も思わずぷっ…と笑う。
「あなたこそ子供じゃない!誰だか知らないけど、大地の恵みをばかにして!」
「子供じゃねえし!今もバリバリ仕事中ですー」
リルリアーナをバカにしながら彼は己の着ている制服を指さしながら彼はドヤ顔でこう言った。
「龍族の帝国騎士団第八部隊所属、ランドル!いつか陛下の右腕になる男だ!」
「ただの下っ端だろうが」
仲間に小突かれ、今はだろー!と騒いでいる。
しかし彼は今龍族と言ったか。そういえば昨日そんな感じの服を着た人たちがいたような…とリルリアーナは考え、すすっ…とカイゼルの後ろに回った。その背中にリルリアーナは隠れながら尋ねる。
「…あなた龍族なの?」
「そうだぜ?ほら!」
ポンっ!と30センチくらいの赤龍の姿になるランドル。その姿にリルリアーナは驚き、思わずカイゼルの背中から出てくる。
「え、可愛い」
先ほどまでの姿よりよほど可愛い。うっかり撫で撫でしてしまう。龍帝よりずっと小さい姿に、一瞬だけしていた警戒をといた。
「なんだやっぱり子供なんじゃない。こんなに小さいんだもの」
「いや小さくねーし!火だって吹けるし!」
先ほどとはまるで形勢が逆転したようだ。今度はランドルが怒っている。
「リルちゃん、龍といっても細かく種族分類があって、サイズも結構ちがうんだよ」
「そうなんですか?私トゲピーしか見たことなかったから、龍族の男性はみんな無駄に大きいのかと思ってました…」
カイゼルが横から一応フォローをいれるが、リルリアーナの言葉に彼の脳内で疑問が駆け巡った。トゲピー?トゲピーってなんだ?まさかとは思うが、話の流れ的に陛下のあだ名か??しかも無駄に大きいって。
と、そこへすぐ何も知らないランドルが笑いながら聞いてくる。
「トゲピー?なんだよ変な名前!めっちゃ弱そうじゃないか!」
「え?弱くは…いや弱いのかしらあの人?」
いや、んな訳ない。カイゼルは声には出せずに無言で突っ込みを入れた。
リルリアーナが暴力を泣いて嫌がるため、龍帝は彼女の目の前では殺傷をさけていたのだ。だから彼女はよくわかっていない。
「そういえば私のいうことに時々泣いてたし、実は弱かったのかも…」
泣くのかよあの男が!とカイゼルはまたも無言で突っ込む。
偉そうにしてただけなのかなぁ…と呟くリルリアーナとの認識の違いはでかそうだ。
「まぁ何にせよどんな奴も陛下の足元にも及ばないけどな!」
ふふん!と何故か得意げになりながらリルリアーナの頭にちょこんと乗るランドル。その姿を見てカイゼルは思った。
あ、こいつもあの世行き仲間だなと。
「陛下…」
「お前も話くらい聞いたことあるだろ?めちゃくちゃ強くてめちゃくちゃクールでカッコいいんだぜー!」
めちゃくちゃ怖いけどなーと言って周りも笑う。
強い?クール?うん、違うわね。もしかしたら自分の思った陛下とは別の人かも?龍でも色んな種族があるっていうし。と、リルリアーナは曲解しだした。
違う。龍の王は一頭だけである。
「で、トゲピーって何龍なんだよ?本名なのか?」
「本名じゃないけど…初めて会った時私がまだ子供で上手く発音できなくて、だから渾名つけたの。トカゲに似てるからトゲピーって…」
なぜかトゲピーに興味津々になってきたランドル。聞かれるままぽつりぽつりと話し出すリルリアーナをカイゼルはそろそろ止めるべきか否か迷う。
「いや子供だとしてもめちゃくちゃ失礼だろ!龍として俺ならそんな呼び方絶対やだわ!」
「トゲピーは私に怒ったりしなかったわ…。外に出たいって言ったら泣いて止められたけど」
少ししゅんとしながら言うリルリアーナをカイゼルは無言でみつめる。やはりなんだかんだ情はあるようだなと思う。
「外に出さないって…それって番ってことじゃなくてか?」
「ん?でもそこの銀狼のにーちゃんとできてんだろ?」
勘のいい龍族たちが周りでヒソヒソ話し始める。やめろ、余計なこと気づくんじゃない。
「え、外に出さなかったのにお前が今ここにいるってことは、トゲピー死んじゃったのか…?」
あっちゃー悪いこと聞いたな、みたいな顔をするランドル。いや違う。生きてるよ。お前らの恐怖の帝王だよ。
「さーてと!そろそろ行こうかリルちゃん。お腹も空いてきたろ?街で何か食べよう」
「カイゼルさん…」
これ以上話をさせたらヤバそうだなと思い、カイゼルが不自然ながらリルリアーナをとめる。しっしと龍になったままのランドルをその頭から追い払いながら。
「…はい!行きます!カイゼルさんと!」
ぎゅっ!とその腕に抱きついてくるリルリアーナ。あら柔らかい。
「あー、なんだ。死んだやつのことは忘れろよ!お前らお似合いだぜ!」
己がとんでもないことを言っていると気づいていない。根は悪いやつじゃないランドルは、彼なりにフォローをしたつもりだった。だめだ、こいつももう助からないなとカイゼルは確信した。
「ようこそこちら側へ!」
「な、なんだよ!?」
急に自分に向かってにこっ!と笑うカイゼルにランドルはびくつく。
「お前らも無駄なことしてないでさっさと帰れよ。聞いて回っても何の情報もでないぞー」
そのままリルリアーナを腕に巻きつけたまま、カイゼルは去って行ったのだった。その状態は大丈夫なのか?という目で見てくる銀狼たちを引き連れて…。




