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説得ではなく

ゼフとの話し合いの後、龍帝の来襲に混乱した街を落ち着かせに行ったり周囲の警戒をしたりでなんだかんだで再び屋敷に戻るのが遅くなってしまったカイゼル。肝心のリルリアーナ本人に話を聞こうと思い階段を上がると…。


「あ!お帰りなさいカイゼルさん!」

「リルちゃん、その格好は…?」


この時間ならてっきり寝支度でもしているかと思ったが、最初に出会った時と同じ服を着ていることに首を傾げる。


「城に連れ戻されたくないし、夜のうちに逃げようと思って…。でも、カイゼルさんにはお世話になったのでご挨拶したくて待ってたんです」

「いやいやいや!危ないって!こんな時間に外にでるのは自殺行為だよ?夜盗もいるし、オオカミたちは危険だって言ったろ?」


リルリアーナの意外な行動力にびっくりしつつ、慌ててカイゼルは引き留める。いや危ない。どこまでも世間知らずな彼女は本当に色々な意味で危ない。


「…陛下のところに戻るつもりはないの?」

「…説得するつもりですか?」


カイゼルの言葉に対し、珍しく警戒するような反応をみせるリルリアーナ。


「いーや?俺はリルちゃんの意思を尊重するよ。番だなんだなんて俺には理解できないしね。知ってるだろ?狼は可愛い子ならみーんな口説くからね?」

「ふっ…!カイゼルさんたら…」


少し警戒した自分に対して、いつものようにふざけるカイゼルの言葉に思わずリルリアーナは笑ってしまう。


「戻れって意味で聞いたんじゃないよ。ただ闇雲に逃げても危ないから、特に行くあてがあるわけじゃないならここにいなよって言いたかっただけ」


最初に会った時と同じ、ただの意思確認だよ?と言って、リルリアーナの頭を撫でる。その手の温かさにリルリアーナは安らぐ。


「…私、閉じ込められるのももちろん嫌なんです。でもそれだけじゃなくて、番だから好きになるなんてこと納得できなくて…。優しくするのも甘やかすのも全部番だからで、私の考えや性格なんてどうでもいいなんて嫌で…だから…」


ふてくされたような顔でぽつりぽつりと話し出すリルリアーナ。それはずっとあった、自分の中で言語化しきれていない感情だった。そんなリルリアーナを見て、カイゼルはニコッと笑う。


「俺はリルちゃんが可愛いから好き!見た目もだけど、素直で真っ直ぐ好意を伝えてくれるとこも可愛い。かと思ったら意外と辛辣なとこもアクセントになってて正直好き。よく笑うしすぐ照れるとこも可愛いし、かと思うと意外とえっちなとこもたまんないし…」

「ちょちょちょっ!?カイゼルさんっ…!?」


矢継ぎ早になんか凄いこと言ってくるカイゼルに、リルリアーナは動揺して赤くなる。


「会って数日の俺だってこんなにリルちゃんの好きなとこ出てくるんだよ?陛下ならもっと知ってるんじゃないかな。番だっていうのはたくさんある理由の一つなだけで」

「でも、番じゃないって認識したら捨てられました」

「あー、ね…。それは〜、…龍族の特性、とかだから?」

「…ふっ!あははっ…!」


フォローしきれずに返答に詰まるカイゼルを見て、なんだか悩むのも可笑しくなってきてリルリアーナは思わず笑う。この人は根本的に人が良いのだろう。


「本能には逆らえないって言うし…魔道具?のせいもあるみたいだし…。うーん…」

「…私がよく笑うのは、カイゼルさんがいるからですよ?えっちなのもカイゼルさんしか知りません」


好きって言うのもあなただから。そう言うと、リルリアーナはどこか挑発的にカイゼルを見上げてくる。その目つきに惑わされそうになるも、なけなしの理性で彼は本能を抑える。


「んん?…いやぁ、リルちゃん?いくら俺でも陛下がいつ飛んでくるか分からない状況で手は出さないよ?」

「本能には逆らえないんですよね?カイゼルさんは誰なんですか?」


リルリアーナは両手をカイゼルの前に出し、さあこいの体勢だ。どや顔が可愛い。


「…オオカミ、です」


本能に逆らえない彼は、思わず目の前の可愛い生き物を抱きしめる。待ってましたとばかりにその背に手を回し、ふふっ!と満足そうな声をあげるリルリアーナ。


「…リルちゃん、あんまりこんな時間にこんなことしてたらさすがに我慢できないよ?」

「あれ?我慢する必要あるんですか?随分と意気地なしのオオカミさんですね」


ええー??何これ?なんで今日はこんなに攻めの姿勢??

とカイゼルは驚きながらもなんとか理性をかき集める。落ち着け。俺は大人だ。なんで今日はこんなに迫ってくるのか考えるんだ。


「んー…リルちゃん、なんかヤケになってない?」

「…少しだけ。めちゃくちゃにして欲しい、って言ったらしてくれます?」


カイゼルの理性は爆裂霧散した。


「リルちゃ…」

「はい!お邪魔しますよ、と!」


ダンダンダンダン!と階段を駆けてきたのはゼフだった。


「お前っ…!なんでここに!?」

「2人きりにさせたらすぐこうですよ!油断も隙もないんですから!」

「ゼフさん!」


驚く2人を引き離し、カイゼルを部屋へと押し込めようとするゼフ。


「いつ陛下が飛んでくるかわからないんですから、危険な真似はやめましょう。カイゼル様、いいですね?」

「…ハイ」

「リルリアーナさんも、夜は危ないので大人しく寝てください。その格好から察するに、逃げようとしてました?やめてください。あなたに何かあれば我々は八つ裂きですよ」

「…は、はい…」


それぞれに説得されては、恥ずかしそうに大人しく部屋に戻るしかなかったのだった。


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