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現れた龍帝

銀狼族の族長屋敷。その一室のソファに悠々と腰掛けているのは黒髪の青年、龍帝陛下だ。その向かいに立ち臣下の礼を取るカイゼルとゼフ。龍帝の周りを取り囲む龍族たち。さらに廊下には様子を伺う銀狼たちがいた。物々しいこの状況を理解しているものは銀狼族はもちろん、龍族の中にもいなかった。ただ1人、不機嫌そうな顔をした龍帝陛下を除いて。

カイゼルはいきなり現れた龍帝に、訳もわからないままとりあえず挨拶をする。


「畏れ多くも龍帝陛下に拝謁いたします」

「よい。殺す」


挨拶をしただけ。いきなりやってきた目の前の美丈夫による理由なき突然の殺意に目が点となるカイゼルとゼフ。そして周りの銀狼族一同。


「へ…?」

「いや、一応確認は取ろう。視界に入れたか?ならばまずその目をつぶそう」


何の話かも分からない。悠然とソファに腰掛けながらも、ぶつぶつと呟き全く会話にならないご乱心の陛下に二の句が継げない。


「同じ空気を吸ったか?ならば肺をつぶそう。まさか手は触れてないな?しからば切り落とす」

「あ、あの陛下いったいなんのはなしを…」


と、そこへ廊下から何かが走ってくる足音が聞こえた。その瞬間なぜか龍帝から殺気が消え、身体が強張る気配を感じた。

ぱたぱたぱた!


「あ!ちょっと今は…!」

「カイゼルさん!見てください!面白い模様のトカゲが…」


庭に花祭りで貰った種を撒くんだと張り切っていたはずのリルリアーナが、頭にハート柄の模様のあるトカゲを掴んでやってきた。廊下にいた銀狼の1人が止めようとしたが間に合わなかったようだ。緊張感など気づかない彼女は部屋に飛び込んできてしまった。


「リルちゃん!?待って今は危ない…!」


訳のわからない殺意に晒されていたカイゼルだが、それでもリルリアーナまでもを巻き込まないようにとひどく慌てた。

しかし先程まで殺意を放っていたはずの龍帝が彼女を見て急に固まったかと思えば、次第にふるふると震え出す姿に目を見張ることになる。


「へ、陛下…?」

「り、リルたん…!そんな、まだ心の準備が…」


先程まで冷酷な殺人鬼のような目をしていた男とは思えないほど、今はキラキラうるうるした瞳でリルリアーナを見つめていた。え?誰だこの人。さっきと違う人になった??と誰もが思った。


「い、やぁぁぁぁぁ!!」


混乱した男たちの空気を裂いたのはリルリアーナの悲鳴だった。持っていたトカゲを手放すと、びゅんっ!とカイゼルの後ろに隠れた。

龍帝陛下が怖いのか?わかる。俺も怖い。いっそ気絶したい。心の中でカイゼルは呟きつつも、背中でぎゅうぎゅうと己の服の裾を引っ張るリルリアーナをたしなめる。


「いやいや、そんなに引っ張ったら…」

「カイゼル様!今はそれどころでは!」


油断するとこいつらこんな状況でもいちゃつくのではと思ったゼフが、カイゼルを止める。

今目の前にはなぜか龍帝がいる。黒き殺意。圧倒的武力で龍族だけでなく獣人全てを制する男。絶対に怒らせてはいけない。何故か最初からめちゃめちゃ殺意を向けられているのだが。

そう。先程までは子犬みたいな目でリルリアーナを見ていたかと思ったら、今度は最初よりも怒りと明確な殺意の籠った目でカイゼルを睨んでいた。やはり超怖い。


「あの、陛下…?」

「もはや今生に救いはない。死ね」


あ、死んだ俺。とカイゼルは思ったが、その背後からリルリアーナがにゅっと顔を出す。両手はカイゼルの腰にしがみついたままだ。


「やめてよ!!カイゼルさんに何かしたら許さないんだから!」

「ちょ…!?」


空気を読まないリルリアーナの発言に、龍族含めて先ほどから恐怖で微動だにできていない周りはさらにぞっと青ざめた。あ、これこいつら新手の心中かな?


「はぁ…リルたん…可愛い」

「申し訳ありません!すぐに下がらせ…へ?」


とにかくリルリアーナだけでも助けなければとしていたカイゼルは己の言葉に重なった龍帝の発言に再び耳を疑う。今この人なんて言った?みんなの頭に疑問符の浮かぶ中、さらに頬を赤く染めつつ少し屈んで話しかけてきた龍帝に対しリルリアーナは畳みかける。


「リルたん、怪我はないか?さぁ、こっちに…」

「気持ち悪いのよ!今さら何よ!さっさと帰っ…」


がし!とリルリアーナの口を手で塞ぐのは真っ青になったカイゼルだった。

確かに!なんか気持ち悪いけども!と思いつつ。


「ちょ…!命は大事にしよう!?」

「ふがふがふが!」


口を塞がれてもまだ何か言っている。何か分からないが彼女は怒っているらしい。こんなに喧嘩っ早い子だったっけ??


「小僧。その手を離せ」

「は、はい…っ!?」


再び膨らむ殺意に反射的に手を離すカイゼル。すでにその圧だけで銀狼の何人かは気絶している。


「貴様如きが彼女に触れるな。言葉を遮るな。むしろ見るな聞くな殺す。」

「え、ええ…?」


手は離したし、なんなら抱きつくように腰を掴んできてるのはその彼女の方だし、後半は無茶だし。というか、今陛下こそが罵られていなかったか??遮らなくていいの?とカイゼルだけでなく周りから見ていた殆どが思い混乱した。

しかし龍帝が告げた次の言葉は一同を更に驚愕させた。


「それは俺の(つがい)だ!今すぐ返せ」

「番…?」

「違うわ!あなたが違うと、そう言ったでしょ!偽物は追放するって!」


まるで小動物のようにキャンキャンと反論するリルリアーナ。その姿を目に映すときだけ龍帝は殺意を引っ込める。完全に別人のように。


「本当にすまない!俺はあの時魔女の道具に騙されていたんだ。でも魔女は始末した。もう大丈夫だ!だから戻って来てくれ!頼む!」

「嫌よ!私はもう自由なの!絶対戻らない!」


なんだかよくわからない2人のやりとりに、間に挟まれたまま混乱するカイゼル。


「陛下の番…リルちゃんが?」

「違いますー!こいつの番は、そう!そこのトカゲです!トカゲ同士お似合いよ!それあげるから帰ってよ!」


不敬の極みである。いくらなんでもこれは怒るだろう。一同は次に来るかもしれない龍の炎に身をこわばらせた。…が。


「えぇ?リルたんが握ってたトカゲを俺にプレゼント…?そんな…そんなのもはや2人の愛の結晶じゃないか…」


目をハートにせんがばかりのテンションではわわ…と赤面する龍帝。その姿を見て勘のいい者たちは悟る。

何がなんだかさっぱり分からんが、どうも始まったのは痴話喧嘩らしい。そう気づいた瞬間、無関係な一同は思った。


なんでもいいから早く帰ってくれ…と。


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