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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

三つ首竜とお姫様

作者: ぽ

とある国のおとぎ話の中に、「涙竜の伝説」と言うものがある。


山の頂上にくらす、とある竜は輝く宝物が大好きで、肌身離さず宝守っていた。だが、ある日隙をついて泥棒がその宝を奪ってしまった。

竜は怒り狂い、逃げる泥棒を何処までも何処までも追いかけまわした。

そんな竜に恐怖した泥棒は深い池に宝を投げ捨てたが、怒り収まらぬ竜はその池ごと泥棒を飲み込んだ。

これで誰にも宝を奪られることはない、と安堵したと同時に大好きな宝物をもう見ることが出来なくなったことに竜は嘆き悲しみ、天が大きく崩れるほど泣き叫んだ。

竜の瞳には大きな涙が溜まり滴り落ちた。

いつしか地面に溜まり、池の代わりに湖が出来るほど竜は涙を流し続けた。

泣き続ける竜の元に、ある旅人がやって来た。旅人は、竜に自分の宝物を見て泣き止んでほしいと頼んだ。

それは旅人の腕に抱かれた、小さな小さな赤子だった。

竜の宝物と違って輝いている訳ではなかった。しかし、竜を見た赤子が笑った瞬間。


竜は輝くモノをみて泣き止んだ。


そして満足した竜は自らの涙でできた湖で暮すように旅人に行った。

旅人は湖の中では生きてはいけないと断り、その代わり湖の畔で根を下ろすことにした。

竜の湖で暮す様になってからは、まるで旅人と赤子を護るように竜は大人しくなったという。


 昔々のお話です。


 大きな湖と美しい自然に恵まれた小さな国がありました。


 小さな国の民は皆のんびり屋さんで穏やかな人が多く暮らしておりました。


 そんな小さな国にも王様とお妃さまがおりました。


 小さな国の民を大事にする2人に、民はとても喜んでいました。


 穏やかで温かい日々の中、2人に初めての子供が出来ました。

 王様はとても喜びました。

 お妃さまも泣いて喜びました。

 小さな国の民達も祭りを開くほど喜びました。


 それから涼しくなった頃に、お姫様が生まれました。


 お姫様は生まれた瞬間から、沢山の祝福を沢山の人から祈られました。


 王様からは健康を。

 お姫様からは幸せを。

 民からは未来を。


 沢山の祝福を祈られたお姫様の笑顔はまるで輝く星の様だと言われておりました。


 そしてお姫様は病気や大きなけがもなく、すくすくと成長していきました。


 すくすく成長しお姫様がお転婆姫になる頃に、王子様達が生まれました。


 穏やかで、元気で、大人しい。お姫様のお転婆ぶりも大人しくなるぐらい、とてもとても可愛らしかったのです。


 国を挙げて日々祭りが行われました。

 美しい湖からは珍しい魚や貝殻、緑豊かな自然からは果実など。

 沢山のモノが湖畔のお城に運びこまれました。


 沢山の祝福の中、南の国の騎士の団体が城の中にやって来ると王様たちに面会を申し込みました。

 王様はなにか嫌な予感がして渋々ながらその騎士の団体をお城の中に招き入れました。


「何用か?」

 王様は尋ねました。


 すると騎士の団体の1人が前に出て王様たちに向かってこう言いました。

「近々我が国と西の国で戦争が起きる。この国は我が国()()援助を頼みたい、もし断るのなら姫を頂く。と、我が王の言伝である。」


 その言葉を聞いた王様は頭を抱えました。


 小さな国は今まで戦争に関わる国々に関わろうとはしませんでした。その代わり、戦争で家や物資を失った人々に援助を行っておりました。


 小さな国は国自体は他国と比べてそんなに大きな国ではありません。

 しかし、自然と大きな湖のお陰で戦争に巻き込まれる事が今までありませんでした。

 そんな中で好戦的な南の国からの申し出はとても苦しいものでした。南の国のみ援助となれば他の国の人々から厳しい批判が来るのは目に見えておりました。

 場合によってはこの小さな国に攻め込む国だってあるかもしれません。


 王様は悩みました。

 そして時間稼ぎをするために、南の国の騎士達に向かって言いました。

「姫はまだ幼い。もしも姫が成長し南の国の王が諦めななかったら、姫を南の国に嫁がせよう。」


 その言葉を聞いた南の騎士は頷き、城から去っていきました。


 祝福の中に告げられた絶望の宣告に、王様もお妃さまも嘆き悲しみました。

 お転婆でも王子たちを愛するお姫様を、

「強欲な南の国に嫁がせなければならないのでしょう。」と。


 そして王様とお妃さまは姫の身代わりとなる子供を探すことにしたのです。

 その事を民に伏せるか悩んだ2人でしたが、信頼できる数名の民に打ち明けることにしたのです。


(南の国のスパイが紛れ込んでいるとも知らずに)


 南の国のスパイは直ぐにその内容の密書を国に送りました。

 南の国の王様はその内容を見て激怒しましたが、小さな国を攻め込む理由としてはまだ足りないので、南の国にお姫様の()()()()が来たら、小さな国を攻めようと企てました。

 小さな国の資源欲しさに、攻め込む理由が欲しかっただけなのです。

 南の国の王様は豊富な資源も手に入り国の領土も広がるの未来を思い浮かべ高笑いをしました。


 手に入れようとしているモノが()()()の逆鱗だというのに。


 小さな国の王様たちは南の国のスパイの事など気づかず、姫の身代わりを探し、姫に似た子供を持つ人と接触し、協力を仰ぎました。

 その子供の親は我が子の安全が第一であるなどの様々な条件を王様たちに約束させ、協力してくれることになりました。

 直ぐに王城に招かれた子供は両親と一緒にお城に住むようになりました。


 お姫様は遠い親戚の妹であると紹介された身代わりの子をとてもとても気に入り、歳も一緒なので月日を跨がずとも姉妹から親友へとその仲を深めました。


 そうして歳月は流れ。

 お姫様のお転婆が懐かしい過去になったある日。


 遂に運命のその日がやってきました。


 南の国の使者がお姫様を迎えに小さな国にやってきました。

 既に南の国にはお妃さまがおり、既に何人もの御子がおりましたが、南の国の王様は資源と領土が欲しいが為、お姫様を諦めてはおりませんでした。


 小さな国の王様とお姫様は身代わりの子を自身の子の様にも思っており、こんな日が来ない事をずっと祈っておりましたが、終ぞ叶うことなく身代わりの子を差し出すことになったのです。


 哀しみと苦しみと恐怖。負の雰囲気の中、お姫様は最後の別れになるからと花嫁衣裳に着替えた身代わりになる親友と「2人きりで話したい」と王様とお姫様、親友の両親に言いました。

 涙を流しながらお姫様と身代わりの親友だけが部屋の中に残されました。勿論、王子様も王様たちに連れて行かれる形で出て行きました。


 数分後、ベールを被り啜り泣きながら俯いて身代わりの子が最初に部屋から出てきました。

 お姫様はまだ泣いているからそっとしておいてほしいと枯れたガラガラ声で皆に伝え、重苦しい雰囲気の中、使者の用意した天馬の馬車で南の国へと嫁いでいきました。


 天馬の馬車が城の頭上へ行く最中、血相を変えた王子様が城から飛び出て、馬車に乗っている身代わりの花嫁に向かって必死に叫んでいました。

 身代わりの花嫁はその光景を窓越しに見ながら王子様に向かって微笑みました。

 その笑顔はまるで、姉である本物のお姫様の様に・・・。


 泣き崩れる王子様に異変に気付いた城内の人間たちは泣き崩れました。王様もお妃さま、身代わりの子の両親。そして親友の()()()も。


 こうして、身代わりの花嫁によって南の国の王の強欲さを鎮める事ができ、他国の侵略もなく穏やかな日々が流れていきました。


 数年後に、南の国が攻めてくるまでは・・・。


 小さな国の街に突如押し入ってきた怒号の騎士の大群に、皆為す術もなくその命を狩られていきました。元々争いを恐れ、嫌がった人々が集まってできた国の為、防衛は他国と比べても遥かに劣ってはいた事ではある。しかし、それでも国として侵略されなかったのには誰にも知らぬ理由があったという。


 燃え尽くす炎と命が消える嘆きの中、攻め込む南の騎士の軍に立ち向かう人影があった。

 それは絶えず南の国の花嫁に文を送っていた王子だった。王子は剣を持って城に攻め込む者たちを一騎当千のごとく薙ぎ払う。王子を知る人物が普段の王子を例えるなら、穏やかな眼差しでまるで宝物を護る温かな瞳の持ち主と答えた事だろう。


 だがしかし、今の王子の瞳は烈火の如く怒り、全てを破壊し尽くす狂気で溢れかえっている。

 城にも火が放たれ落とされるのも時間の問題と見ていた南の国の者たちは、王子の姿を見て震え上がった。


『怒り狂う竜の様だ。』

 南の国の古文書と思われる文献にそう記されたものもあったという。


ーーー 小さな国に攻めて来る数時間前に、南の国の使者があるモノを王様たちに送ってきた。


 それは小さな木箱だったという。

 使者はその箱を無造作に投げ捨て宣戦布告をしたのち城から去ろうとしたが、王子の投げた槍によってこと切れた。

 不思議な事に剣や槍、弓など一切触った事のない王様とお妃様から生まれた王子は武器を手にすると万夫不当の強さを誇ったそうだ。


 王子様は嫁いだ花嫁に何度も何度も文を送った。

 最初の内は返事が届いた。

 元気にしている、平穏である、と。

 しかし、月日が経てば経つほど文が帰ってくることもなくなった。もしもを考えてあえて送り先を別の場所に指定しているにも関わらず文は帰ってこなかった。王子も南の国の王の強欲さは知っている。嫁いだ花嫁に命の危険が迫る場合、密に逃がせるように準備はしていたのだ。


 それなのに、どうして。どうして。


 嫁いだ花嫁の()が木箱に入っているのか、王子には理解できなかった。


 中身を見た王様は慟哭した。

 お妃様は頭を掻き毟って乱心した。

 親友のお姫様は崩れ落ちて放心した。


 木箱の底に文が入っていた。

 それは南の国の王からの文だった。


 文の内容はこうだ。

「花嫁が王の子ではなく誰とも知れぬ男の子を身籠った。よって命をもって贖ってもらう。無論この国にも代償を支払ってもらう。」


 王子は知っていた。花嫁が南の国でどのような扱いをされていたか。強欲でおぞましい王の一族に大事にしていた宝物の様な花嫁に、惨たらしい行為を行っていた事。花嫁が身籠った子は南の国の王子との子供だという事も。

 王子は密に行動していた。尊い花嫁に恐怖、屈辱、危害を加えた者。花嫁に触れた者の命を大地に返してやったこと。


 王子は、王子たちは、花嫁を攫うはずだった。


 小さな国の平穏のため、皆のありふれた日常の為に花嫁は笑って嫁いだというのに。花嫁を大切にするという条約までつけさせたというのに。


 小さな国の護りを破る為に、()()を惨たらしい姿で粗末な木箱に入れてきたことで竜の隙を突く形となった。

 そのため、木箱が送り付けられて数時間後に南の国の軍隊が攻めてこれたのだった。


 城下は炎に包まれ、悲鳴が飛び交う地獄と化した。城にも炎が放たれ、崩れ落ちるのも時間の問題であった。王子達は身内や城内に避難してきた人々を隠し通路で逃がし、時間を稼ぐことにしたという。


 これまで見つかった文献は逃げた所までで終わっている。

 王子達がどうなったのかは、いまだに判明しておらず謎のままだ。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 あるところに、大きな大きな湖に浮かぶボロボロな古城がありました。そこは地図にも載らず不思議な森に護られた誰も知らない場所。かつて栄えたであろう城下町は今や湖に沈む廃墟と化しています。そんな古城にはなんと幼い子供が1人で住んでいるのです。

 ボロボロな場内を遊び場の様に駆け回る姿がどことなく誰かに似ていることでしょう。

 そんな子供に影を指す様に首の長い竜が湖から出てきました。子供は竜に驚く事無く顔に乗って遊び始めました。竜は怒ることなく穏やかにしていました。

 すると湖から首の長い竜がまたでてきました。

 ひとつ、ふたつ、みっつ。

 この瞬間だけは永遠に失われた穏やかさと似た空気で満ち溢れたいた。


 例えこの子供以外の全てが滅んだ世界でも、三つ首竜達はいつまでもいつまでも、子供を護り続けるのでした。


                                             おしまい

お姫様は幼い頃に誰にも言えない秘密を持っていました。

それは、南の国のスパイがいるという事を。

偶然にも見てしまった書の内容が幼い頃は理解が出来ずに話さなかったが、成長するにつれて書の内容が理解できてしまった事を。

もしも何も知らずに親友を南の国に嫁がせてしまったら、親友もこの国も家族も全て失うことになってしまう事を。

だから、親友が南の国に嫁ぐ日に、親友を眠らせて本物の姫である自分が南の国に嫁げばいいと計画を立てました。

本物の姫である証拠を持って、もしもの場合は直ぐに逃げれる様に隠し道具を持って。

お姫様は恐怖を隠し、秘密を隠し、平穏になりますようにと願って計画を実行したのでした。

穏やかな日々を願って・・・




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とある亡国には「竜の加護」があったのではと憶測が度々上がる。

その国のおとぎ話には竜が出て来るものもあったというが、嘘か真か誰も真相を知る者はいない。

しかし、国同士の争いが多い時代に滅ぶまでただの1度も戦禍に見舞う事が無かったという資料が見つかり一層亡国の謎が深まる中、憶測の信憑性が増すとはこの事である。

竜について目撃例は少ないが、気に入ったものに対しては守護する性質を持っているという。

・・・もしも、亡国が本当に竜に護られていたのなら何故滅んでしまったのだろう?



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三つ首竜は子供を内側で守る為。

()()()の竜は外部から守る為。


三つ首竜と子供が暮す古城のとある部屋には1枚の写真が飾られている。

笑顔の王様とお妃様。緊張している身代わりの子と両親。

輝く笑顔のお姫様。

そしてお姫様を護るように囲む五つ子の王子達。


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