コード43「嵐の前の点検」
第43話
前回、ちょび髭のおじさんを助けた日と次の日から
女がアジトへ帰ってくる。
はやく魔弾を摘出して…傷を塞がなくては。
(おかえり~って、俺も一緒に帰って来てるんだけどな)
医療箱とピンセットを手に取り、
魔弾を左手から痛みに耐えながら抉り出した。
(ひぇ~痛そ~。大丈夫?)
7発目の魔弾。これは狙撃手の意思とは関係なく
狙った場所を撃つことが出来ない。
ザミエルが代わりに撃ってくれる。
呪われた7発目の魔弾である。
そして最終的には必ず自身へと帰ってくる。
(それは仕方ない。そういうものだもの。制御が効かないって言っただろ?)
医療用魔包帯を数時間左手に巻いていると傷は塞がれていた。
多少、痺れがあるけど、明日には取れるだろう。
(はやく元気になると良いな!)
そのまま、薄桃色の髪の女は服を脱ぎ、アジトのシャワールームへと向かった。
「シャワー浴びて考え事するから。ちょっと黙っててね。」
(へいへーい。いてら~。)
シャワーを浴びながら考えている。
もしも、7発目の魔弾を相手が弾くことが出来なければ、
私は…人殺しになっていた。
人は殺したくない。だから、足や肩、車輪を撃ったんだ。
私は…できる事をした。
それにしても、初めて逃がしてしまった。
いつも政治家はダンテへ引き渡していた。
今回も引き渡せるはずだった。それなのに、
警護していた奴、かなりの強者だった。
(あぁ、あれはとんでもなくつえ~奴だった。)
何者だったんだ。
初めて、外した。
女は壁に手を置き、シャワーを浴びていた。
(ねぇねぇねぇ、水道代大丈夫か~?)
シャワーから出て、マスケットの手入れをしている。
(ほら!もっと丁寧に!そこ!汚れてるぞ!)
「ちょっとうるさい…。」
ある男が帰ってくる。
「あ、ダンテ、お帰り。ごめん…今日は逃げられちゃった。」
ボスと呼ばれた男は髭が多少生えており、ぼさぼさの金髪に
右目に眼帯をしていた。
「あぁ…見ていた。あの警護している奴がいなければ、失敗はなかっただろう。だが、あまり自分を責めるなよ。この失敗を糧にして、次は当ててくれたらそれでいい。期待してる。」
「まあ明日に備えておけよ。それから明日は別の仲間が居るから。傭兵も雇ったしな。」
女は少しだけ不機嫌になった。
「そんなの、私が全部撃つのに。」
「保険だよ。今回みたいに妨害されるかもしれない。政治家達には痛い目見てもらわないとな。」
女はしぶしぶ納得していた。
「明日に備えて今日はもう休んでおけ。おやすみ、リーナ。」
「分かった…。また明日。おやすみ。」
(ダンテちゃーんおやすみ~)
「あ、リーナ、いつも言ってるがダンテじゃなくて、ボスと呼べと。あ、まったく。」
ダンテはソファーに深く腰かけながら写真を取り出した。
そこには、幸せそうに映る妻と子。
「リーナを見てると、ラナを思い出すんだよ…。なあ、ララ…。」
ソファーに腰かけながら明るい過去の思い出に浸っていた。
もう、戻るはずもない、幸せだったあの時の事を。
次の日、天候は少々悪く、雲が広がっていた。
「今日は…天気が悪くなりそうです。2人とも大丈夫でしょうか…。」
リベラは今日も特に用事が無く、
とりあえず、学生寮の部屋を掃除していた。
遠くで雷が鳴っている。
カナリーとマナは2人でイベントへの
警備スタッフとして来ていた。
「あ、後輩!昨日は帰ってこなかったから、心配してたんだぞ。大丈夫だったか?」
ビル先輩が心配してくれていたらしい。
そういえば、あの後主任にだけ挨拶をして帰ってきたんだっけ。
「ありがとうございます。先輩。私は平気です。先輩の方こそ何もなくて良かったです。怪我とかしてなくて。」
マナと2人で更衣室で着替える。
2人で黒のレディーススーツに身を包み
身だしなみを整えた。
今日はというと、魔駆動車だけじゃなく、
様々な研究の発表会も同時にあり、
会場は昨日よりも大きく、エリア分けされており
更には、簡易的な博物館も出来上がっていた。
1日で建てれたのは全て魔術のおかげである。
カナリーとマナは外のエリアを担当しており、
ビル先輩は建物中のエリアを警備していた。
昨日、襲撃があったため、警備員の増員をしていたらしい。
昨日よりも多くの警備員の募集がかけられていた。
「あら!カナリーさん!マナさん!こんなところで出会うなんて!」
ケーシィさんがリルフ君と一緒に来ていたらしい。
「カナリーさん、マナさん、こんにちは。2人とも似合ってますね。」
「え!すごい偶然!私達、ここで警備のアルバイトをしているんです!」
カナリーは両手を合わせて嬉しそうに答えた。
今日は昨日とは違い一般開放されており
一般客もたくさん見に来ている。
「ふふ、なーんて、リベラさんから聞いていたのですわ。2人がここで警備スタッフとして来ているって。今朝あなた達のお部屋に行ったら、ここに居るだろうって仰っていましたわ。リベラさんも一緒に来ていますわ。今は、他を見ているらしいですけど。それにしても最近あまり話せてなかったので、寂しかったですわ!」
3人で軽く話した。
「あ、おふたりはお仕事中なのですよね。わたくし達が邪魔しちゃいけませんわね。」
「邪魔だなんて思ってないですよ!会いに来てくれて嬉しかったです!」
「では、また後程会いましょう。お仕事頑張ってくださいまし!」
ケーシィさんとリルフ君は2人でイベントを回っていた。
リベラさんは、食べ物の屋台を回っていた。
「あ…これおいしいです。」
会場には昨日のちょび髭おじさんが来ていた。
1日で退院とは、魔術ってやっぱりすごい。
「おや!昨日の!カナリーさん!昨日はどうもありがとう!見ての通り私はぴんぴんだ!君のおかげだよ!今日の最後に、お礼をさせてくれ!申し訳ないのだが、これから大事なスピーチがあるんだ。急いでいてね、また後で会おう!」
「はーい!頑張ってください!私達も警備して見守ってますので!」
ちょび髭おじさんが手を振りながら走り去っていった。
黒い影がイベントへ迫っていた。
「くっくっく…つい~に、この研究~がつい~に!できあがったのであ~る!ふっふっふ。あーっはっは!」
癖の強い人物が、大きな岩のような何かを点検していた。
「ふふ、それ。わっちがしばいて耐久テストしてみてもええどすか?」
角の生えた和服の女が酒を飲みながら握りこぶしを作っていた。
「おいおい!あんた何でも壊すだろ!やめとけって!なぁ?酔ってんのか?」
若くていかつい黒髪の男が角の女を止めていた。
「今日こそは、絶対に負けない。」
リーナは絶対に撃ち抜くと意気込んでいた。
(”俺たち”が本気を出せば、敵なしだぜ?)
「おい、お前ら、準備は良いか?さっさと行くぞ。」
ダンテはコートに袖を通し、ゆっくりと歩きだした。
舞台と役者は揃いました。
嵐になりそうです。
リーナ(女の子)
魔弾の狙撃手
たまに独り言を言っている。
誰かと喋っているようだが不明。
ザミエル
???
ダンテ
ぼさぼさの金髪の中年男性
右目に眼帯をしている。
政治家を狙う犯罪組織のボス
第43話、読んでいただきありがとうございます。




