コード267「天龍とある少女の話」
第267話
前回、飛石袋の中身を確認して
翼竜会社を後にした5人は、街を歩く。
「にしても、真っ黒だ。この石。」
桃谷が飛行魔石を空に透かして見ると、
中の黒い部分はまるで霧のようになっている事に気が付いた。
「煙というか、霧というか、分からないけど、何かしらの影響を受けてるって事なのかしら。」
5名は考えるのだが、分からない。
「それ、一旦、ターミナルベースに持ち帰って、検査してみるとかどうでしょう。何の成分で黒くなっているのか、分かれば、何かわかるかもしれませんし。」
現地だけで調べようとして何も分からないのなら、
変化ある物を徹底的に調べてみるのも良い手かもしれない。
「それなら、一度、手分けしますか?その袋を持ち帰る人が必要…ですかね?」
カナリーが提案する。
「いえ、その必要はありませんよ。私には従魔が居るので、この魔石をターミナルベースの近くまで届けてくれるはずです。先に手紙を出せば、見つけて貰えるでしょうし。」
そう言うと、なにやら、発信機のようなものを取り出し、
月見里はボタンを何回か、押していた。
「それって、なんですか?」
サイファー、ミアリーゼは何のことかさっぱりな様子であり、
桃谷とカナリーは心当たりがありそうだった。
「これは、モールス信号って言うんです。と言っても、本当のモールス信号とは少し違うんですけど…。あ、えーっと…勇者魔力の波長を音に乗せて、受信してもらうって感じの仕組みでして…。解読はマターシステムにお任せして…。」
通信魔具と同じような仕組みだと、カナリーが2人に説明した。
「なるほど。独自の通信用の魔道具でしたか。勇者の皆さんは面白い事を考えますね。マターシステムというものも良く知りませんが。」
桃谷は現実の便利な物をパクっただけであり、
カナリーが何故知っていたのかは、ただ単に
理解力が良いだけなのだろうかというところに落ち着いた。
モールス信号では、ターミナルベースから了解と返事が返ってきており
指定された位置にて待ってくれるようだ。
月見里はフクロウを二羽召喚し、その二羽で袋を運んでくれるように頼んだ。
パタパタと二羽が飛び去って行ったのを確認し、一旦落ち着く5名。
「さて…、進んだと思ったら、止まっちゃいましたね。どうします?」
桃谷は分かりやすく顎に手を置く。
「ん~、それなら、ハイブヘイヴンの有名な教会にでも行きますか?少し大きくて、観光名所にもなってるんですよ。」
ミアリーゼが案内してくれるようだ。
一行は、ミアリーゼの後に続く。
光鐘教会 ベルセレス大教会。
ハイブヘイヴンの中でもかなり古く、格式高い教会であり、
大きな礼拝堂がある事で有名である。
5人はそこへ入ると、正面に真っ白な大きな竜とベールをかぶった剣を持つ少女の石像があった。
「ここが、ハイブヘイヴンの中でも有名な場所、ベルセレス大教会です。ハイブヘイヴンに旅行に来る人なら誰でも絶対立ち寄ると言われるほど、ここは有名なんです。」
あらゆる種族の旅行者とすれ違う。
目の前に大きな石像があり、圧巻であった。
「あの石像はなんですか?竜と…少女?」
桃谷がミアリーゼに聞くのだが、
ミアリーゼは、両手を組み、祈りを捧げる事に集中していた。
「…。」
しばらく経ち、ミアリーゼが顔をあげる。
「あ!すみません!祈祷中は私、集中してしまって…。」
「あれは、天龍様と、初代天女様を模した石像なんです。我が国がハイブヘイヴンになる前、かつて、天龍と呼ばれた伝説の龍が居ました。」
ハイブヘイヴンは、かつて空には無かった。
昔々、心優しき少女が居ました。
その少女は、誰に対しても分け隔てなく、接してくれるような子であった。
また、飢饉が続いた時代でもあり、その少女もお腹を空かせているだろうに、
国民に食べ物を分け与えていました。
そんな中、天から光が差し込む。
そこに現れたのは、頭に輪っかのある白き天龍であった。
汝らに光を恵まん。
天から舞い降りた白き天龍は、その地域の飢饉を救ってくださったおかげで
皆が救われた。
しばらくが経ち、5つの国を巻き込む戦争があった。
多くの犠牲が出てしまい、それぞれの国は国としての機能を失いつつあった。
少女は悲しみ、天龍に願った。
争いを無くしてください。お願いします。と。
天龍は言った。
争いを終わらせる事は簡単だ。だが、人間は愚かだ。
また争いを始めるだろう。ただ、願うだけ願って、終わり。
人とは、願いというものに執着しすぎた。
我が願いを与え過ぎた。
人とは、悪魔に近い生物なのかもしれない。
私利私欲に願いを求める。
少女よ。そなたもそうなのだろう。
もう、願いを叶える事は…。
私は、争いを…止めたいんです。
少女は三日三晩、頭を下げ続けた。
天龍は困り果て、少女に問う。
本当に、願うだけか?
私の事はどうなったって良いんです。
死んでしまった人たち。関係の無かった人達まで死ぬのは、
胸が苦しい。戦争を無くしたい。
戦争を止めたい。
少女の声はか細く、それでも力強かった。
だが、天龍は高らかに笑った
戦争を止める等、願いの代償が重すぎる。
それこそ、人々を根絶やしにする方が簡単だと、
天龍は言う。だが、天龍は思った。
この少女はどこまで出来るのかと。
どこまで、耐えられるのかと。
天龍は少女の願いを叶えるべく、ひと振りの剣を与える。
その剣には何の効力も付与されていないただの白い剣だった。
天龍は言う。その剣を使い、戦争を止めてみせろ。
何の変哲もないちっぽけな剣一つで変えれるものなら、
変えてみせろ。もし、本当に戦う意思があるのなら、我も少しは手助けしよう。
少女は、剣を抱きしめながら言う。
必ず、変えてみせます。
そうして、天龍と少女は共に戦い、戦争を止めた事で、人々は喜び、彼女を崇め、
いつしか、少女は天女と呼ばれるようになった。
誰が言い出したか分からないが、皆が天女に言う。建国して欲しいと。
あなたについていきたい。天女様を女王として、国を立ち上げて欲しいと。
「そうして、5つの国だったものは一つの国となり、ハイブヘイヴンが出来たのです。と言い伝えられています。」
ミアリーゼは嬉しそうに語った。
「でも、その話って、地上の話なんですよね?なんで、空に浮かぶことになったんですか?」
「それに関しては、文献がその部分だけなくなっているらしく、何も分からないらしいのです。評議会がとても知りたがっているそうですが、今や、天龍様しか知らないかもしれませんね。」
その天龍はどこで何をしているのか、
そもそも生きているのかさえ、分かっていないと話を聞いた。
ハイブヘイヴンになる前の話の言い伝えの話をしましたね。
天龍という存在が大昔に居たようです。
補足として、天術というものがまだない時の話となります。
第267話、読んでいただきありがとうございます。




