コード217「私は魔王だから」
第217話
前回、魔物の特性に気が付き
ナイアを担いで一度、魔物の範囲外へと退避するヒツカイ。
当初、ただ方向感覚が狂うだけだったのだが、
魔物の能力が進化しており、方向感覚のみならず、
感覚の全てが乱れ、狂ってしまう事が分かった。
「ナイアさん、大丈夫ですか?しっかり。」
ナイアは目を見開いてパクパクと口を動かす。
(意識はしっかりしてるけど、体が上手く動かせない。一応は大丈夫って伝えなくちゃ。)
だが、体を上手く動かせない為、ぴくぴくと痙攣した動きになってしまう。
(なんでぇ~!?もう!感覚が…もう少しで…)
「はぁっ!はふぅ~~…。戻って来れた…ヒツカイさんは大丈夫でした!?」
ヒツカイも同じ症状だったらしく、戻って来るのが大変だったという。
「でも、ナイアさんみたいに、意識があったわけじゃなくて、気が付いたら、正常になってたって感じで、どう説明したらいいのか…。」
どんなに考えても、答えにはたどり着けなかった。
私達が出した答えは、
「ナイアさんは、魔王だから、人間種と少し違うのかもしれないですね。」
という事になった。
未だ解明されないし、この先もきっと分からない。
重要な事は、あの魔物をどう攻略するか。
それが今は大事だった。
攻略しなければ、この森から出る事も会議に戻る事も出来ない。
意識…、精神…、魔力の…塊…。
「とにかく、作戦を考える必要がありそうです。私のミスでした。」
「いやいや!そんな!誰にだってミスの一つくらいありますし、それに未確認の魔物なんて、不規則な事も多くあるでしょうから。なので、顔を上げてください。」
手を差し伸べる。ヒツカイはその手を取り、
「ありがとうございます。一緒に頑張りましょう。」
しばらく2人で話しあっていると色々な案が出てきていた。
片方が囮となった際、遠距離攻撃で即座に攻撃をするという方法。
何かで釣って、魔物をこちらに呼び寄せる方法。
狂わないような対策をする。
魔物に直接触れてみる等。
どれもピンと来なかったが、一番安全かつ現実的な作戦が、
遠距離攻撃をするという事だった。
果たしてうまくいくだろうかと、不安になってしまう。
「今は時間がありません…。何でも試してみましょう。」
範囲内へ入ろうとすると、ヒツカイが先に持っていかれてしまいそうになる。
(どうして!?ここは前まで、範囲外だったのに!範囲が広がってる…?ここは一旦引くしか…、いや、時間が無い!私だけでも、やらないと!)
魔力をたくさん込めて、走る。
魔力がどんどんと剥がされていく。
(ぐっ…!このままじゃ、私も…!)
腕部分の魔力が剥がされ、そこから浸食が始まる。
(これは…なんとなく分かったかも…!魔力塊の魔物。この子は、他者の魔力を弄るんだ!魔力は、精神に多く関わってるとかなんとか聞いたことがある!魔力が層となって…、防御は出来るんだ!でも、この浸食が頭にまで来たら、感覚も全部おかしくなっちゃうんだ。)
その間も、浸食が続き、左肩から、首に差し掛かる。
(私に浸食が来てるって事は、ヒツカイさんはきっと元に…!)
そう思い、ヒツカイの方をちらっと見るのだが、
(そんな!この魔物、やっぱり前より強くなってる!ヒツカイさんも、私も同時に…!)
もう、チャンスが無い。
この一度きりしか。
ナイアは魔力玉を込め、魔物の方へ向け飛ばす。
(効いてるのかな…?ううん、続けながら、今度は直接!)
浸食が、肩から首へ稲妻のように枝分かれしてくる。
走りが、遅くなってしまうが、
(こんっの!!!このまま終われない!!!)
今出せる全ての全力の魔力を解放させると、
進んでいた浸食が逆に押し返す事に成功した。
行ける!それなら、直接私の魔力を注げば!!
走り、そして、魔物前に辿り着いた。
宙に浮かぶ小さな影。
それは、見た事のある形状だった。
「はぁ…はぁ…、感覚を狂わせる魔物、正体は……、魔術書だったのね。」
宙に浮かび、魔力の圧を放っていたのは、
黒く、禍々しいが、無数の星空を込めたような、
表紙に、鍵付きベルトを閉じられた、謎の魔術書だった。
ぶるぶると、苦しそうに、開こうとしているが、
ベルトのせいで開かれない。
「この子…もしかして…、内に溜まった魔力のせいで苦しんでる?」
それなら、もしかしたら、この鍵を壊せば、
元に戻れる…?確証は正直ない。
でも、やってみる価値はある!
ナイアは、魔術書へ手を伸ばす。
魔力層のバリアに弾かれてしまうが、
「今、助けるから!!!」
全魔力を込め、両手で魔術書のバリアに入ろうとする。
バチバチと、衝撃がナイアを弾き飛ばそうと抵抗しているようにも見える。
私が魔王になったから、たくさんの魔物達が、
私のせいで苦しむ結果となっている。
もしかしたら、この子もそのせいで苦しんでるのかもしれない。
だったら、私はこの子達を助ける義務がある。
嫌だ嫌だと、ずっと駄々をこねてはいられない。
手の届く範囲の、救いを求めている誰かを、
私は見捨てない。バエリア様が、私にそうしてくれたように。
「必ず、助ける!!!!だって…
だって、私は魔王だから!!!!!」
その瞬間、全身に謎の線が走り、その線が、
体の中心へ集まっていく。
自身の持つ魔力核に、その線が接続され、完成する。
魔王魔力。
ナイアの体から、赤、緑、紫色が混じったオーロラのような魔力が解き放たれ、
その魔力がヒツカイの体に直撃すると、ヒツカイは狂い状態から、
元に戻っていた。
「…これは、一体…。」
更に、その魔力の波動が、この一帯の、全ての魔力を飲み込んでいく。
ニブルティスの森の空に、大きなオーロラが観測される。
魔術書のバリアは、ナイアの魔王魔力に当てられ、
ヒビが入り、そして、バリアが破壊される。
バリアが壊れ、ナイアは体勢を崩し体が前のめりに倒れる。
宙に浮いていた魔術本に覆いかぶさる形となってしまった。
森の異変は止まり、吹雪が止まる。
空には、綺麗なオーロラがかかっていた。
謎の魔物の正体は、魔術書。
たった一冊の魔術書の魔力塊が
意識を、認識を、感覚を狂わせていた。
ナイアは魔王になった時点で魔王魔力を
扱う事が本来出来ていたはずなんです。
しかし、彼女の魔王になりたくないという思いから、
魔力を、魔王としての自分自身を拒絶していました。
今、魔王としての責任を再確認し、
自身を魔王として認めた事で、魔王魔力を出す事が出来た。
そして、ナイアは魔術書の暴走を止める事に成功しましたね。
第217話、読んでいただきありがとうございます。




