コード143「ポーラ・レゾナカーン」
第143話
前回、メイスィがおすすめのお店を紹介するところから
私はポーラ・レゾナカーン。
ルナリアの諜報員でした…?だった…?なのです。
何故過去形かと言うと、
リーダーも皆も捕まってしまいました。
私の役目は、偵察及び、監視、情報収集。
船の上では前線におらず服も変えて待機していたので
私は捕まりませんでした。
私の魔術の都合上、ここアトラベルトではあまり役に立たないでしょう。
というか、リーダーも捕まってしまい、
私一人になってしまったので…。やることが…無い。
リーダーが居ないのでルナリアも解体でしょう。多分…。
ロードベルトに戻ったら、元のお仕事に戻ろうか迷います。
とぼとぼと、黒いスーツを着た小柄の女の子が歩く。
「あれは…。ひっ!」
咄嗟に口を抑えて、影に隠れる。
大型のヴィーヴルへ乗っている薄群青色の髪の少女が
私は怖い。とても、怖い。
だって、いきなりペンを投げてくるのですから。
私の魔術は、生き物と仲良くなった際に、
その視界をジャックすることが出来ます。
更に、その生き物との会話が可能となるのです。
そう、私はリーダーの指示で
虫さんと仲良くなった後、魔術学園での会議を盗聴していました。
あの時、最後に視界に映ったのは、超高速で目の前に飛んでくるペン。
私自身が刺さらないと分かっていても、めちゃくちゃ怖かった。
というか、あの子は何も悪くなかったのに…。
「はぁ…どうしましょう。」
その女の子の背後に
カナリーがしゃがみながらその子の背後をとっていた。
「ぴぃっ!?!?」
まさか、私が背後を取られるなんて。
「あ、あの、なにか…?」
汗が止まらない。大きめのメガネをダボっとした袖で元に戻す。
この少女の詳細は確か…。
「いえ、その服装って…。」
カナリーはその服装を見たことがある。
そう船の上で。
「あら、ポーラ。何をしているの?」
グラシーが声をかける。
黒スーツに大きめの上着のだぼだぼの袖、メガネをかけた
小柄の少女はポーラと呼ばれる。
「グラシーさん、あの服装ってルナリアのですよね?あれ?」
ルナリアは全体的に黒のイメージのスーツや、コートを着ている者が多い。
カナリーがグラシーの方を見、グラシーがカナリーに説明しようと
ポーラが居た所に目をやると、もう誰も居なかった。
「グラシーさん、追いかけなくてもいいんですか?」
カナリーはポーラと言う人物が少し心配になりグラシーに聞く。
グラシーは追いかけようとしなかった。
「いえ…、大丈夫です。ポーラが逃げると見つけられませんから。今見つけられたのは恐らく気を抜いていたからでしょう。彼女の名前は、ポーラ・レゾナカーン。ルナリアの構成員で…。偵察や情報収集はトップクラス、その為、監視の任にも就いていたりしていました。現在、アトラベルトに来ている彼女以外のルナリア構成員は皆捕まっているので…彼女は現在一人です。少し心配になってしまって。あくまでも、少し心配というだけなので、あまりお気になさらず。」
グラシー曰く、逃げ隠れするポーラを探すのは至難であるとの事であった。
ポーラの心配をしつつも、今できる事は何もないと、
むしろ一人でじっくり考える時間に当てる方が
良いのだろうと判断、カナリー達はお店に戻った。
(はぁ…逃げてしまった。でも、もう良いんだ。ルナリアも無くなるだろうし、私にとってはあの子達は…。)
ポーラは路地に消えていった。
カナリーとグラシーが珊瑚のマーメイドに戻ると、そこには
言い争いをしているお客さんと兵士が居た。
「てめぇ…何見てんだよ。俺が下層出身だからか?あ?」
「んなこと知らねぇよ。お前が先に睨んできたんだろうが。俺らは訓練で疲れてんだよ。昼間から酒でも飲みに来たのか?えぇ?良いご身分だなぁ。」
「あ?お前が先に俺を見て鼻で笑ったんだろうが!海から上がったばかりの魚人種は喋らない魚と同じように臭いとでも思ってるのか?あ?」
「被害妄想激しすぎなんだよ。てめぇが勝手に人種差別してんだろ。魚は臭いってさぁ、魚人種は無臭だろうが興味ねぇ。国を守る兵士様にたてつくな愚民が。」
その言葉で魚人種の客が完全にブチギレ、
殴りかかろうとした。が
「おい、お前ら。俺の店で喧嘩するんならどっちも出禁にするぞ。ぶち殺されたいか?それから、子供の前でみっともない。もっと周りをよく見ろ。恥が。」
店長が一瞬で2人の間に立ち、両者を止める。
「ちっ。はいはい、分かったよ。帰れば良いんだろ。」
兵士小言を言い、魚人種の方も、何も言わずに帰っていった。
「あ、スイちゃん、いらっしゃい。すまんなぁ、うちの店であんなもの見せてしまって。…てか、あの野郎。金置いて行ってねぇ!くそが、食い逃げか。あいつは出禁決定だ。」
しかし、メイスィもああいう光景は前にも見たことがあった。
「いえ、私は良いんですけど、今は観光案内中でして…。」
カナリー一行も少し驚いていた。
ここで、カナリー、マナやモニカ、グラシー、リベラは
アトラベルトの情勢になんとなく察していた。
「そうか…旅行者さん?うちの料理で良いならたくさん食べてってよ!あんた!腕によりをかけて料理を出しな!特別サービス、安くしとくよ!」
店長とおばちゃんが場を和ませようとしてくれ、
メイスィにとってはものすごくありがたかった。
「すみませ~ん。お会計お願いします。」
別の魚人種と海人種の客が席を立つ。
「はぁ~い!あ、みんな好きな席に座っててね!今行きま~す!」
お店の看板娘さんがお会計に向かう。
それぞれが席に座り、メニューを見ている。
メイスィは観光案内中にあのようなアトラベルトの闇を見せたくなかった。
観光案内失敗だと、悔やみ、顔を伏せていた。
「スイさん。大丈夫です。全然気にしてませんよ。怪我が出なくてよかったです。どうか、顔を上げてください。」
カナリーはメイスィの手を取る。
カナリーの手も声も温かくて、優しい。
「すみません。ありがとうございます…。そういって頂けて良かった。」
気を取り直して、みんなで珊瑚のマーメイドの料理を楽しんだ。
一方その頃、お店の外では、先ほどお会計を済ませた魚人種と海人種が
珊瑚のマーメイドの中を建物の影から見ていた。
「あいつか、店の看板娘で良くないか?もしくは、旅行客からでも…。」
「そうだな。若ければ若いだけ良い。だが、旅行客はやめておけ。他国だし、どの国の奴らか分からねぇ。もし、ロードベルト国の客だと…政治的な問題が起こる。それに魔力の質にも関係してくる。だろ?先生。」
2人組の前には、メイスィが以前乗せた事がある客が現れる。
「えぇ…、そうですね。まあでも最悪どちらでも構わないのです。旅行客だろうが行方不明扱いにしてしまえばいいのですから。そうですねぇ…最有力候補はあの娘です。顔も良い、スタイルもなかなか…。あの子を…あの方に…くふ、くくく!」
更にその様子をポーラが影から聞いていた。
(ホテルに戻ろうと思っていたのに…。この会話…怪しい匂いがプンプンです。少し調べた方が良さそう…。)
ルナリア構成員
ポーラ・レゾナカーン
小人種。見た目が小さく幼女であるが、その実、成人済みである。
初対面時に子供とよく間違えられてしまう事もある。
魚人種や海人種は基本無臭です。なんなら人間種と何も変わりません。
女性の俗にいう人魚達は逆に甘い香りを感じる事が多い。
しかし、今回、カナリー達がそのような店に行くことは万に一つもないので雑学程度になります。
第143話、読んでいただきありがとうございます。




