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三日目 夕方


 村に戻ってハンスの怪我を手当てしたあとは、みんなで遅めの朝食兼昼食(ブランチ)をとりながら、これからのことについて話し合った。


 ひとまず、バチルダについてはこのまま納屋に閉じ込めておいて、死なない程度に様子を見ておくか……ということで話をまとめてみた。

 本当なら今すぐにでも()()()()()でお別れしたいのが正直なところだけど、ハンス以外の被害者であるレナードとシモン(どうやらハンスが襲われた時、『自分がシモンを刺した』とバチルダが自白したらしい)の意見も聞かなきゃいけないよね? という意見が出たので、いったん処遇を保留することになったからである。


 まあ、確かに二人もバチルダに怨みごとのひとつも言いたいだろうし、『目には目を、歯には歯を』の原理でやられたぶんをやり返すくらいはいいんじゃないかなぁと思うので、私も賛成。


 様子見をする際に、もし必要そうならば睡眠薬や麻酔薬を調合するからいつでも言ってねと伝えたのは、ひとえに私がバチルダの様子見係を免除されることになったから。

 ……というのもお察しの通りで、ヤンデレというかメンヘラというか、とにかくバチルダが私に対しておかしな執着を持っていることが原因だ。


 ノックスさんがどさくさに紛れてバチルダの愛の告白(仮)をハンスたちにバラしてしまったため、悲しいかな私は問答無用で様子見からお役御免にされてしまったのである。

 彼らの気遣いがありがたいような、申し訳ないような、それでいていたたまれないような気持ちがごちゃ混ぜになって、口がもにょっとしてしまったのはお目こぼしいただきたいところ。


 直後の話し合いで、有事に備えてバチルダの様子見は基本的にハンスかノックスさんが行い、アドリアーヌとクリセルダがサポートする方向で落ち着いた。

 目が覚める頃にはおおよそ怪我も完治しているはずなので、レナードには副作用から復帰次第、様子見の当番に入ってもらう予定。


 バチルダが見た目のわりに力が強く、身軽に動くことを知らなかったので今回は不意を打たれてしまったけれど、次からはそうはいかない――とはハンス談。


 ……案外口が悪いところについてもそうだったけど、バチルダには私たちが知らないこと、あの子が私たちに隠していたことが意外に多そうだ。

 そういった背景もあったので、有事の際にはバチルダを制圧できるだけのタッパと純粋な腕力がある男の子たちがメインで様子見をすることになったはさもありなん。

 なるべく彼らの負担が少なくなるよう、私にできることは全力を出さなくちゃ。


 それから――



「ねぇ、ハンス。本当に一人で大丈夫なの? 頭の怪我だし、やっぱりノックスさんについていてもらった方が良いんじゃ……」

「そこまで大袈裟にするほどじゃない。それに、ジゼルの傍にアレがいるのに、守れるヤツがこの村から誰もいなくなる方が困る」

「んじゃ、せめて双子ちゃんのどっちかとか、双子ちゃんたちに付き添ってもらうのは?」

「三人も馬には乗れないし、そもそもあいつらはお互いと離れることを嫌がるだろう」

「あの子たち、どっちかが熱を出すだけでもかなり不安定になっちゃうものね……」

「そういうことだ」



 応急処置をしたとはいえども石で頭を殴られているので、念のため、ハンスは麓の町の病院で検査を受けておいた方がいいんじゃないかという話になった。


 最初は『そこまでする必要はない』と渋っていたハンスだけど、私とノックスさんが二人がかりで頭の怪我による危険を説けば、最終的には渋々ながら頷いてくれて。

 どうせ病院に行くならついでにシモンの様子の確認と、デリーとの情報共有(シモンの怪我に関することやバチルダの話など)を済ませてきてくれる様子。


 今から行けば遅くとも明日の朝には戻ってこられるはずなので、くれぐれも無理をせず、ゆっくり往復するようにとハンスには言い含めたけれど……うーん、どこまで聞き入れてくれるかしら。



(でも、病院に行くことを頷いてくれただけ良かったわ)



 もしもノックスさんがこの場にいなければ――ノックスさんがあの子の信頼を勝ち取っていなければ、きっとハンスは絶対に首を縦に振らなかった。

 そもそも私だって、レナードだって、あの小屋でバチルダに刺されて一貫の終わりだったかもしれない。


 そう考えるとノックスさんの存在の大きさを改めて思い知り、彼が今、この村にいてくれて本当に良かったなぁと思う。

 あの日、私が行き倒れていた彼を見つけて拾ったことが、たとえ世界の強制力が働いた予定調和だったとしても……それでもノックスさんがこの村に辿り着いて滞在していてくれたことは、今の私たちにとって紛れもない幸運だ。



「ジゼル、お待たせ! お茶が入ったわ!」

「ありがとう、クリセルダ」

「ハンス、これから町へ降りるの?」

「ああ。ついでにシモンたちの様子も見てくる。……言っておくが、今回は土産はないぞ」

「もう! ハンスったら、私もクリセルダもそんなお子様じゃないのよ!」

「二人とも小さなレディなんだもんなー?」

「「そうよ! よくわかっているわね、ノックス!」」



 食後のお茶を用意してくれたアドリアーヌとクリセルダがふふん、と胸を張る姿に、自然と私たちの顔に笑顔が浮かぶ。


 ……そう、もしもこの村にノックスさんがいてくれなかったら、私たちはこんな風に笑い合うこともできなかったんだ。

 朝に起きた出来事との温度差が、このあたたかで穏やかなひとときの貴さをよりいっそう痛感させて、私は幸福な時間を噛みしめるようにそっと目を細めた。











「ねぇ、ジゼル」

「うん? どうしたの、二人とも?」

「あのね、ひとつお願いがあるの」

「「今日は私たち、ジゼルのおうちに泊まってもいいかしら……?」」



 双子がもじもじしながらお願いを口にしたのは、町に向かうハンスを見送った直後のこと。


 普段は『私たちだって大人なんだから!』と二人で力を合わせて自立した生活を送っているけれど、昨日、今日と、今までの暮らしからは到底かけ離れた物騒な出来事が立て続けに起こっているので、どうやら彼女たちは不安になってしまったらしい。

 気恥ずかしさと不安がない交ぜになったような表情で、今晩だけでいいから一緒に寝させて欲しい……と控えめにおねだりしてくる二人を突き放すなんて、私にはとてもじゃないけどできなかった。



「「……やっぱり、駄目?」」

「まさか! もちろんいいに決まっているわ」

「本当!?」

「嘘じゃないわよね!?」

「ええ。……ふふ、三人で眠るなんて本当に久しぶりね」



 迷うことなく私が頷けば、アドリアーヌはパッと大輪の花が咲いたような笑顔を浮かべ、クリセルダは木陰にひっそりと咲いている花のようにほわりと笑った。


 正反対の印象を受ける笑い方は、まるで彼女たちの性格をそっくりそのまま表したかのよう。

 可愛らしく、無邪気な二つの笑顔に私はほわほわとした気分になって、気付けば手が動いて二人の頭を撫でているところだった。

 ……わあ、反射って怖い。



「そうと決まれば、お泊りの準備をしなくっちゃ!」

「すぐに準備してくるから、待っていてちょうだいね!」



 くふくふ笑ってそれを享受した二人は、それからすぐに荷造りのために自分たちの家へ向かった。

 同じ村のご近所さんなんだから、足りないもの・忘れものがあると思えばすぐに取りに戻れるのに、わざわざ荷造りに向かったのは『お泊り』の雰囲気を楽しみたいからなのかもしれない。


 キャッキャとはしゃぐ双子の小さな背中を思わずにこにこ笑顔で見送っていると、……。

 ……、……。……えええ?



「……あの、ノックスさん?」

「ん?」

「そんなに見られると、その、さすがに気になるといいますか……」



 何故かわからないけど、めちゃくちゃノックスさんに見られていた件について……!


 ゆるく弧を描くノックスさんの瞳は穏やかに凪いでいるのに、同時に、じりじりと焦げ付きそうなくらいの熱を孕んでこちらを一心に見つめていた。

 熱心に注がれる視線はもちろんのこと、ちぐはぐな瞳の熱情にも驚いた私の肩がびくん、と大きく跳ねる。


 けれどそんな私の反応すらも楽しむように、ノックスさんはとろりと笑みを浮かべた。

 優しくて、穏やかで――それでいて、()()

 そう表すのがぴったりなくらい、ノックスさんの笑みは明らかに蕩けていた。


 たとえるなら蜂蜜のような、あるいはたっぷりのお砂糖を入れて限界まで煮詰め、凝縮させたジャムのような。


 そんな表情を向けられたことなんか前世を含めて一度もなくて、居心地が悪いというか、いたたまれない、というか……。

 胸の奥が妙にむずむずして、そわそわと落ち着かない心地になった私は、気分が落ち着くことを祈ってノックスさんからふいっと視線をそらした。


 でも。



「……ふ、」

「……なんでしょう?」

「ジゼルちゃん、ほっぺが赤いぜ。……かーわい」

「!?」



 思わず、といったように笑ったノックスさんが気になって、ついチラリと視線を向けてしまう。

 すると彼は、私の視線が自分に向いたことを理解した上でトン、と軽く己の頬を示して――とんでもないことを言い出した。



(なになになに、なにこれ、え、なに??)



 アドリアーヌや、クリセルダや、デリーから言われる時とはまったく違うそれに頭の中が真っ白になって、思考は混乱を極め、おまけにぼっと顔が火を噴いたように熱くなる。

 からかわないでとか、冗談はよしてとか、抗議のひとつも言いたいのに。肝心の口ははくはくと開閉を繰り返すばかりで、声を発することさえできないでいる。



(……いや、あの、ほんとに何? どういうこと?)



 アドリアーヌたちは褒めてくれるけれど、私は自分の顔が特別秀でたものではないことを知っている。

 あの子たちが私を褒めてくれるのだって、一種の刷り込みというか、ものすごく仲の良い親戚のお姉ちゃんに対する身内贔屓的な部分が大半だってわかっている。


 だから、そう、何が言いたいかと言えば、『可愛い』なんて言葉が私に相応しくないことは私自身が一番よく理解しているってこと。


 なのにノックスさんが、か、かわ……かわい、なんて。

 そんなことを言ってくるし、蕩けているお顔や依然として熱を孕んでいる瞳が『俺は本気でそう思ってるんだよ』って言外に私に伝えてくるようで、『そんなこと言われるなんて有り得ない!』と思う自分とぶつかり合ってせめぎ合っている。


 ……正直、どちらが優勢かと言えば圧倒的にノックスさんの方で、まっすぐ私を見つめるまなざしに頭がくらくらしていた。



(やだやだ、やめてったら!)



 そんな風に、他人から好意的な視線を向けられることに――まるで告白をされているんじゃないか、と錯覚してしまいそうになるくらい熱のこもった視線を向けられることに、私は慣れていない。


 ううん、慣れていないどころか、たぶん前世も含めてこれがまったくの初めてで。

 私の意思とは裏腹に心臓はどきどきと高鳴るように鼓動を刻み、心がぐらぐらと揺れているのがわかる。


 ……お願いだからちょろいとか言わないで?


 私、恋愛経験なんて皆無なのよ?

 乙女ゲームで疑似恋愛を楽しんだ経験すらほとんどないのよ?


 そんな恋愛偏差値ド底辺を這っているような人間が、こんな笑顔を、視線をとびきりの美形に向けられて、あまつさえ『可愛い』なんて言われちゃったりなんかしたら、どう考えたって冷静でいられるわけがないでしょう……!?



「はは、顔真っ赤」

「だ……誰の、せいだと……!?」

「ジゼルちゃんが可愛いのはホントのことだろ? 双子ちゃんのことが可愛くて仕方ないなぁって顔とか、めちゃくちゃイイなと思ったし」

「そっ……れは、そうですけどね!? あの子たちが可愛いのはこの世の真理ですけど! 紛れもない真実ですけどね!!」

「んはは、めちゃくちゃ謎のキレ方するじゃん」



 ばんばんテーブルを叩いてムキー! となる私なんてどこ吹く風。

 何がおかしいのかノックスさんはケラケラと笑っていて、私の言いたいことの一割どころか一厘さえも伝わっていないような、そんな気がする……。



「ジゼルちゃんは本当にこの村のことが――この村で一緒に住んでるヤツらのことが大好きなんだなぁ」

「当然です! だって私はあの子たちが小さな子どもの頃から一緒に暮らしていて、その成長をずっと見守って来ているんですよ? 愛情や愛着を持つのはごく自然なことだと思います」

「……へー、そういうもんなのか」

「何も私とシモンの二人で暮らしていた頃の生活が『悪かった』とか、『寂しかった』とか言うつもりはないんですけどね。でも、今はもうここでの賑やかな暮らしが当たり前で、この賑やかな暮らしがとても楽しいことを知っているので。守りたいし、大切にしたいし、これからもずっとシモンやあの子たちと一緒に暮らし続けることができたらって思うんです」



 しみじみ呟くノックスさんには、もちろん! と食い気味に頷いた。


 そのあとに続けた言葉がつい長ゼリフになってしまったのは、この村に対する熱い思いがつい溢れ出てしまったから――というのがほとんどだけど、実はほんのちょっぴり、別の思惑もあった。

 その思惑というのは、ノックスさんの関心を私から別のものにシフトさせたいとか、会話の話題を別のことにすり替えたいとか、要はそういうこと。


 少しでもこの空気感を変えたくて、あの熱っぽい琥珀色(アンバー)の瞳で、甘く蕩ける表情で私を見ないで欲しくて、ここぞとばかりに話に勢いが増してしまう。

 なんなら、勢い余って最後の方は自分語りっぽくなってしまってちょっと、いやかなり申し訳なかったなと思うくらい(元はと言えばノックスさんが原因ではあるんだけど……)。


 だけどノックスさんは特に気にした様子もなく、うんうんと頷きながら最後まで耳を傾けてくれるものだから、本当に良い人すぎていかんせん心配になってきた。


 ……ねぇ、本当に大丈夫?

 ノックスさん、あまりにも人が良すぎるせいで、悪い人に騙されたりとかしてない?


 前に行き倒れていたのも(たち)の悪い詐欺に遭ったとか、冤罪をかぶせられたとか、そういった理由で追われていたからだったりしない……?

 ノックスさんが自分から言わない限り、私からここに来るまでの経緯を訊くことはないけれど、ここまでくれば心配のひとつやふたつはしたくなるものよ……?



「なぁ、ジゼルちゃん」

「? はい」

「昨日も少し聞いたけどさ、シモンとはずっと一緒にいるのか?」

「そうですよ。私もシモンも子どもの頃から、ずっと一緒にここで暮らしてるんです」



 ノックスさんの問いかけにこくん、と頷く。


 ひとりぼっちの私とひとりぼっちのシモンが出会って、なんとなく一緒に生活するようになって。

 ある時は手分けして、またある時は協力し合って家を作ったり、畑を作ったりして、なんとか生活の拠点を作り上げた。


 そうして作った拠点で、二人きりで暮らしているところへ最初にやって来たのはハンスだった。

 その次がアドリアーヌとクリセルダの双子たちで、五人で過ごすようになってしばらくした頃、デリーとレナードが立て続けにやってきた。


 ……本当に少しずつ少しずつ、けれどここ十年くらいの間で急激に、この村は賑やかになっていったのよね。



(ふたりぼっちだった頃の方がずっと長い期間だったのに、本当に懐かしい……)

「……ふーん。てことはやっぱ、シモンと仲が良いんだな」

「んん、改めてそう言われるとちょっと気恥ずかしいものはありますけど、仲が良いのは間違いないと思います。……だからと言って、恋人だなんだと言われるのはちょっと遺憾なんですが」



 ノックスさんの質問に答えながら昔のことを思い出していれば、またひとつ新しい質問されたので、それにも素直に答えて。

 『もっと色々この村のことを聞かせて欲しい』とせがまれるかたちで、そのあとも普段の過ごし方とか、冬の越え方とか、あれこれノックスさんにお話しすることになった。


 ……もちろん、みんなのプライベートな話とか、センシティブな情報については伏せた上でのおしゃべりよ?


 たとえどれほど私がノックスさんを信頼していたとしても、彼はまだ、あくまでもこの村にとっての部外者(滞在客)でしかない。

 そんな相手にものすごくデリケートな話を、それも自分が知らないところで勝手に話されるのは誰だって嫌だもの。


 本人が自分から既に打ち明けているのなら、話は違ったかもしれないけれど……少なくとも、今の時点では誰も打ち明けていないようだし。

 それなら私も口を閉ざしておくべきだ、と思うのよね。



「ただいま、ジゼル!」

「おかえり、ふたりとも」

「何をお話していたの、ノックス?」

「ん? この村の昔話とか、色々とな~」

「「まあ!」」

「そういうことなら、私たちもお話しできるわよ!」

「そうよ! こう見えて私たちはこの村の古株なんだから!」



 すっかり変わった話題に安心してノックスさんとのおしゃべりを楽しんでいれば、お泊りの荷物を抱えたアドリアーヌとクリセルダが戻ってきた。

 おしゃまな二人は私たちのおしゃべりのテーマを知ると、『自分たちも一緒におしゃべりする!』とさっそく参加表明。


 ノックスさんもよりたくさんの話が聞けるととても乗り気で、アドリアーヌとクリセルダ、二人に順番に話題を振っていくところはとてもお上手。


 どちらか片方が優先されると『どうして自分ばかりなの!』……といった具合で優先された方が怒る双子だから、ノックスさんの対応はドンピシャ大正解。

 さすが、警戒心が高いハンスと早々に打ち解けたコミュ力の化身は小さなレディたちの扱い方の見極めもお早い……!


 三人がにぎやかに、和やかにおしゃべりを始めたのを確認したところで、私はそっと輪から外れた。

 双子の荷物を部屋に運び入れておこう、と思ったのと、あとは夕食の仕込みのため。

 たくさん食べるノックスさんのためにも、早めに下ごしらえを始めておけば夕飯づくりにも困らないだろう、なんて。そんなことを考えながら、私は双子の荷物をそっと回収して自室に一度引っ込んだ。



(……あ、そうだ。ついでに調合室も片付けておかなくちゃ)



 朝、バチルダが尋ねてきた時からそのままになっている道具たち。

 本当は今夜も使いたいから、使用済みのものだけ洗っておいて、道具のセッティングが済んだ状態のままにしておきたいところ。


 でも、あの子たちが今夜うちに泊まるなら、いったん片付けておかなくちゃ。


 物によっては触れただけでかぶれたり、爛れたりしてしまうこともある。

 だから特に、薬草の(たぐい)を収納しているケースはきちんと引き出しの中にしまっておかないとね。


 ……私が取り扱うものは安全なものばかりではない、とあの子たちもわかっているはずで、やたらめったに物に触れることはないけれど。

 それでも事故が起きる時は起きてしまうものだから、事故の可能性を極力減らすためにも、整理整頓には普段からきちんと気を遣わなくちゃね。



「もうひと仕事するのは、あの子たちが寝静まったあとでも十分間に合うしね」



 ――ひとりごとに聞き耳を立てている人がいたなんて、この時の私は知る(よし)もない。


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