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二日目 朝


「おやすみ、ジゼル。いい夢を」



 別れ際、相も変わらぬ土気色の顔で、いつものようにシモンは笑った。


 ひだまりのようにあたたかくて、見るものをほっとさせる優しい笑顔。

 穏やかな気性と落ち着いた性格をしているシモンは、私たちにとって非常に頼りになる年長者だった。


 ちょっと気がかりなことがあるだけだよ──そう言い張っていた貴方から、強引にでも話を聞き出していれば。

 ……ううん、話を聞き出せなくても、せめて誰かが貴方の傍にいれば。


 もしかしたら、私たちは別の結末を迎えることもできたのかしら。



   ☩



「ジゼル、ジゼル! 起きてくれ、ジゼル!!」



 乱暴にドアを叩く音と、私を呼ぶ切羽詰まった声に飛び起きた。


 窓の外には依然として夜の帳が落ちており、朝というにはあまりに早すぎる時間だった。

 こんな時間に彼が訪ねてくるなんて、きっとよほどのことが起きたのだろう――そう考えた私は手早くランプに明かりをつけ、肩かけを引っ掴んで出迎えに行く。



「どうしたの、ハンス?」

「とにかく来てくれ。早くしないと、シモンが……!」



 玄関の扉を開ければ、血相を変えたハンスが私を待ち構えていた。

 冷静沈着な彼らしくない動転っぷりに、ただ事ではない『何か』が起きたのだと察せられる。


 痛いくらいの力で腕を掴まれ、早く早くと急かされたけれど、今は少しの時間も惜しい。

 ハンスに『少し待ってほしい』と頼んで、急ぎ足で自室に置いてある救急箱を取りに戻ったら、今度こそシモンの元へと向かう。


 ぐいぐい腕を引っ張られ、向かったのはシモンの家――ではなく。

 何故か、村外れにある森の中だった。



(でも、どうしてシモンが森に……?)



 シモンは昨日、夕方頃から体調を崩して家で療養していたはずだ。

 だから私も彼に夕食を届けがてら、しっかり休むように言い含めたわけだし。


 その彼が夜の森にいるだなんて、一体どういう了見だろう?

 用心深く、思慮深いシモンが体調不良を押してまで外に出るとは到底思えないのだけど……。



「ねぇ、ハンス。この臭い……」



 風を切る勢いで森を駆けながら、夜風に混じる異臭に気付いて声をかけたものの、ハンスがそれに答えてくれる様子はない。

 その代わりに、私の手を握るハンスの力がいっそう強くなって、……なんだか嫌な予感がした。



(……まさか、ね?)



 昨晩のシモンのぬくもりを、笑顔を思い浮かべ、ぐっと奥歯を噛みしめる。

 何も言ってくれないハンスの様子から頭に浮かんだ可能性を振り払い、どうか無事でいて、と切に祈って。



「シモン?」



 森の奥まった場所にある幹の太い木に、もたれかかるようにしてシモンは座り込んでいた。

 探し人が見つかったことに安堵したのもつかの間、近寄るごとに異臭――もとい、鉄錆のような臭いが明らかに濃くなっていくことに気付く。

 ドクドクと脈打つ心臓に急かされるまま、震える声で私はシモンの名前を呼んだけれど、……待ちわびた応えが返ってくることはない。


 シモンは固く瞼を閉ざしており、ピクリとも動かなかった。

 木々の切れ間から差し込む月の光に照らされた頬は青白く、腹や胸にぽっかりと空いた歪な(あな)――いくつもの刺し傷からは、ドクドクと今なおとめどなく血が溢れ出ている。



「嘘……、ッシモン!!」



 この時になってようやく、ハンスが何故私を呼びに来たのか理解した。


 ……ううん。薄々、勘づいてはいたのだ。

 夜の香りにほんのり血の香が混じったことを尋ねた時、ハンスは何も答えてくれなかったから。

 もしかしたら、シモンの身に何かあったんじゃないかって、そう思って。


 ……だけど私は、自分が感じた嫌な予感を気のせいだと思い込もうとした。

 現実的な可能性から目を逸らして、一縷の希望に縋ろうとしたんだ。


 あの臭いはシモンが原因ではなく、この辺りに生息する動物が原因なんだと思いたかった。

 狩人であるハンスが、見回り中に仕留めた鹿や猪の血が理由だと思いたかった。


 だって、仕方ないじゃない。

 考えたくなんて、ないじゃない。


 親しい間柄の相手が、それも、数時間前に話したばかりの友人が死んでいるかもしれない、なんて……そんな恐ろしいこと、私は想像するだけで目眩がしてしまうくらいなのに。

 いざその場面に直面したら、心が現実を受け入れられずに逃避を図ろうとしてしまうのも、仕方のない防衛反応だって思うの。



(――ああ、でも、良かった)



 大丈夫、シモンはまだ生きている。


 手の震えを必死に抑えて脈を取れば、弱々しいながらも命の拍動が感じられた。

 そのことにほっと安堵の息をつきかけて、……途中で私は慌てて我に返り、気を引き締め直した。


 安心するにはまだ早い。

 なにしろ、シモンの命が風前の灯火だっていう状況には何一つ変わりがないんだもの。


 このまま血を流し続けたり、適切な治療を受けられなければ、その灯火はきっとすぐに吹き消されてしまう。

 だから私にはぼうっとしている暇なんてないんだと、心の中で未だに取り乱している自分に言い聞かせれば、自然と救急箱を掴む手に力が込もった。



(できれば、傷口を洗いたいところだけれど……)



 それすら難しい現状、とにかく何にも優先して止血をしたい。

 それから急いで山の麓にある町まで降りて、ちゃんとしたお医者さまに診てもらわなければ。


 私たちの村はとても小さくて閉鎖的なので、お医者さまなんてご大層な人はいない。

 ちょっとした怪我の治療や風邪くらいなら自分たちでどうにかできるし、日常的にはなんの問題も不自由もなく過ごしているからだ。


 だけど流石に、生死の境をさ迷うほど大きな怪我の対処を、突発的に行うことはできないから。

 備えができている時ならまだしも、できていない時に今のように火急の用がある時は、私たちは自力で麓の町のお医者さまの元まで向かうしかない。



「ハンス。犯人は?」

「わからない。俺がシモンを見つけた時は、もう……」



 ――シモンを襲った犯人が近くにいるかもしれない、というのは、私とハンスに共通する危惧だ。

 ハンスが見回りをしていてくれたおかげで、シモンが刺されてからそう時間が経たないうちに見つけられたのは運が良かったけれど……それはすなわち、犯人が遠くまで逃げていないことの裏返し、とも言い換えられる。


 私たちは視線だけでお互いがやるべきことを示し合わせ、すぐさま取りかかった。


 周囲の警戒と手がかり探しをハンスに任せ、私は私で、シモンの命を繋ぎ止めることに尽力する。

 なんせ村の中で誰よりこの手の知識があるのは私で、だからこそハンスは私を呼びに来たのだから、至極当然の役割分担というもの。


 夜闇で視界が悪いため、救急箱をがらがらとひっくり返して応急処置に必要な薬の瓶を探す。

 地面に散らばった薬瓶をランプで照らして目的の物を見つけたら、すぐさまコルクを引っこ抜き、地面に横たえたシモンの傷口へとぶっかける。


 大丈夫、大丈夫。絶対助ける。

 そう繰り返し呟くのは自分のためか、シモンのためか。

 ……それすらわからなくなるくらい、ただただ私は必死になっていて。



(――どうしてシモンは外にいたんだろう)



 どうしてシモンが、こんな目に遭わなくちゃいけなかったんだろう。


 疑問は尽きず、不安もあるけれど、今はそのどちらも横に置いておかなくちゃ。

 なにしろ今この瞬間、彼の命は私の手にかかっているのだから。


 責任の重さに押し潰されそうなところを、どうにか瀬戸際でこらえて。

 シモンを助けたい一心で、呼吸も忘れた私は応急処置に励んだのだった。











 処置を済ませたあと、意識を失っているシモンはハンスに運んでもらった。


 村に着く頃には空が薄く白んでおり、もうすぐ日の出を迎えることに気付く。

 ……思ったより長い時間を過ごしていたのか、あるいはあたりが暗かっただけで、元々夜明けが近かったのか。

 緊迫した空気とただならぬ緊張感のあまり、私とハンスの時間感覚は完全に狂ってしまっていて、残念ながら正確なことはまったくわかりそうにない。


 村に戻ってからは、私とハンスは二手に分かれた。

 私はデリーにシモンを町まで連れていくよう頼み、ハンスは残りのみんなに何が起こったのかを説明するためだ。


 本当なら、ひとまずデリーだけに声をかけて、町まで向かってもらうつもりだったのだけど……普段よりもかなり早い時間にもかかわらず、ハンスが私を呼びに来た時の騒ぎで既に全員起きていて、いったい何が起きているのかと不安そうにしていたから。

 状況を説明しつつ、デリーにすぐさま町に向かうよう頼むには、こうするのが一番だった。



「デリー。シモンのこと、お願いね」

「うん。任せて」



 ぽやぽやと年の割に子どもっぽいところのあるデリーも、今日ばかりは神妙な顔つきだった。

 間延びした話し方もせず、表情さえひどく強ばっている。


 けれどそれも、当然のことだろう。

 何故ならデリーには、これから負傷したシモンを連れて最速で山を下りてもらう……という大役が控えているのだから、緊張や不安、焦りなどを感じてしまうのも仕方のない話なのだから。



「もし治療にお金が足りないようであれば、この薬を売って賄ってちょうだい。焦る気持ちもわかるけれど、シモンのために、安く買い叩かれないように注意して」

「大丈夫だよ、ジゼル。シモンのことは絶対、死なせたりなんてしないからさ〜」

「……くれぐれも気を付けて行ってきてね」



 これぐらいあれば治療費は足りるだろう、という分のお金と、万が一足りなかった時のために資金繰りに使える『秘薬の軟膏(とっておき)』を渡す私の手を包み込むように握り、わずかに引きつった笑顔でデリーは言った。


 話し方はいつも通りに近くなったけれど、声音は普段の何倍も力強くて……きっと、シモンを必ず助けてみせる、という決意が声に表れているのだと思う。

 いびつな笑顔をつくろったのも、たぶん、不安と動揺の渦中から抜け出せずにいる私を安心させようと考えてのことで……。



(まったく、デリーはいつの間にこんなに頼もしくなってしまったのかしら?)



 まだまだ甘ったれな皆の弟分だとばかり思っていたのにと、非常時にもかかわらず、デリーの成長を感じて自然とまなじりが下がってしまう。



「行ってらっしゃい」

「行ってきます。……気を付けてね、ジゼル」

「わかってるわ」



 シモンを乗せた荷車を馬に繋ぎ終えたデリーは、そのまますぐに村を発った。

 ……誰よりも馬の扱いが上手なデリーなら、安全かつ最速に麓の町まで向かえるはず。



(どうか何事もなく二人が町まで辿り着き、シモンが治療を受けられますように)



 祈るように手を組んで、荷車が見えなくなるまでじっと二人を見送る。


 ……もちろん、そんなことをしたって馬車が早くなるわけでも、町までの道のりが短くなるわけでもないことはわかっている。

 わかっているけれど、それでも何かせずにはいられないこと・いられない時は誰しもあるわけで――私にとってはそれが今だった、というだけの話。


 でも……この世界の、遥か大昔の魔女や魔術師ならきっと、本当にそんな奇跡を起こすことだってできたんでしょうね。

 空を飛んだとか、悪魔を呼んだとか、そういう荒唐無稽な伝承もしっかりと残っているから。

 せっかく異世界転生をしたのに、私にその手の特殊能力がないことが本当に悔やまれるわ……。



「ジゼル!」

「うわあああん、ジゼルー!!」



 デリーたちの見送りを終えて広場に向かうと、大泣きしているクリセルダとアドリアーヌが飛びついてきた。

 小さな身体を可哀想なくらい震わせて、グリゼルダはえぐえぐと控えめに、アドリアーヌはわあわあと癇癪を起こすように泣いている。


 ……正反対な泣き方の双子の涙につられてしまったのか、私も目の奥がじんと熱くなった。

 喉の奥がきゅう、と締まった感覚がして、視界がゆらりと涙の膜に滲む。


 今更になって、『誰かに悪意を持ってシモンが傷つけられた』ことに対する恐怖が、じわじわと湧き上がってきたからだろう。

 黒い泥が足元から這い上がって絡みついてくるかのような感覚に、ギリギリのところで保たれていた心の均衡が崩れるのを感じて、とっさに小さな二人の身体をぎゅっと抱きしめる。

 すると双子も、ひしっと私の首に腕をまわしてしがみついてきて……子どもの体躯に似合わない力で、ぎゅうぎゅうと抱きしめ返された。



「ひっぐ、シモンが、シモンがぁ……!」

「うん」

「どうしてシモンが、あ、あんな酷い目に遭わなきゃいけないのよぉ! っ、ううう……!」

「うん、うん。そうだね……」



 本当に、どうしてシモンが。

 悲しさと、悔しさと、苛立ちと……色々な感情がない混ぜになって、双子を抱きしめる腕に力がこもった。



「悪い、ジゼル。やはり俺ではコイツらを宥めきれなかった」

「ううん、大丈夫よ。辛い説明をさせてしまってごめんなさい。……レナードとバチルダは?」



 泣きじゃくる双子を追いかけてきたのだろう、説明を任せていたハンスが駆け足でこちらにやってきた。


 いくら同じ村で暮らしていると言えど、どうしたって性差や本人たちの相性というものがあるので、泣き止まない双子に関しては気にしないよう伝える。

 それよりも気になったのは、何故か姿が見えないレナードとバチルダのこと。


 レナードはシモンを実の兄のように慕っているし、バチルダなんかはこの村に来てから日が浅い。

 だからきっと、二人ともこの状況に不安がっているに違いない、と心配したのだけど――



「レナードは比較的落ち着いてる。狼狽えてはいたが、どうにか事実を受け止めようとしていたから。だが、バチルダは……」



 渋面で言葉を濁すハンスに、ざわざわと胸騒ぎが大きくなっていく。



(バチルダに何かあったの?)



 ぶわり、と心配が一気に膨れ上がり、心の中が焦燥でいっぱいに満たされる。


 シモンのことがあった直後、というのもあるのだろう。

 『彼女に何かあったのではないか』という心配は、不安とも恐怖とも言い換えられるほどにごちゃごちゃで、曖昧で、不安定で。

 一刻も早くバチルダの様子を見に行かなければと、そう思った時。



「ちょっとバチルダ! 駄目だってば!!」

「ジゼルさん!」



 引き留めようとするレナードを振り払い、バチルダがこちらに駆けてきた。

 表情を険しくしたハンスが立ち塞ごうと動くも、彼女はひらりと身軽に避けて私の元へと辿り着く。


 ……おっとりふわふわとした普段の彼女とはかけ離れた、鬼気迫る勢いと血走るが如き目。

 その異様さに気圧されそうになるが、それではバチルダを落ち着かせることができないからと、怯む心はぐっとこらえる。


 それから私は、ガタガタ震えながら――先客の双子を突き飛ばすほどの勢いで――胸元に縋りついてきたバチルダに、努めて優しい声音になるよう心がけながら問いかけた。



「どうしたの、バチルダ?」

「私、見たんです!」

「バチルダ!!」

「バチルダ、やめろ」



 レナードだけでなく、ハンスまでもが語気を荒げてバチルダを咎める。

 けれど私は、その様子がまったく気にならなかった──否、気に留められなかった。



(だって、今、バチルダは『見た』って)



 縋りつくようにぴったりと寄り添うバチルダを見つめ、震える声で問いかける。



「……見たって、まさか」



 シモンを襲った犯人を?


 震える唇はそこまで言葉にしなかったけれど、バチルダにはきちんと伝わったらしい。

 涙で潤んだ真っ赤な紅玉(ルビー)の瞳で私を一心に見つめて、彼女はしっかりと頷く。



「シモンさんを襲ったのは人狼です。間違いありません!」

「──人狼?」



 バチルダの言葉に、ガツン、と頭を殴られたような衝撃が走る。



「人狼だなんて、そんな、まさか」

「本当です! だって、私──」

「黙れ。いい加減にしろ、バチルダ」



 なおも言い募ろうとするバチルダをハンスがぴしゃりと一蹴した。

 背筋がゾッとするほど厳しく鋭い視線が、バチルダへと一心に注がれる。


 およそ仲間に向ける目ではない感情のこもった目に、さしものバチルダもびくっと震え上がった。

 怯えたように小さくした身体を私に寄せ、本当なのに、と涙声で呟くのが耳に届く。



「ジゼル?」

「ジゼル、どうしたの?」



 ――そんなやりとりの傍らで、黙り込んだ私の異変に、真っ先に気付いたのは双子だった。



「ハンス、大変!」

「レナード、ジゼルの顔が真っ青だわ!」



 双子からのSOSを受けた二人はすぐに動いた。


 ハンスは強引に私からバチルダを引き剥がし、彼女の首根っこを掴むようにして引きずって行く。

 当然、バチルダはじたばたと抵抗しながら何かを叫んでいるけれど、ごそりと表情の抜け落ちたハンスがそれを気に留めることはなく。ずるずると引きずられたあとが、轍のように地面に残っていた。


 その一方でレナードは私の隣に膝をつき、気遣わしげに顔を覗き込んできた。

 青ざめて震える私の背中をさする小さな二つの手は、きっと、アドリアーヌとクリセルダのものだろう。



「ジゼル、大丈夫だよ。シモンが人狼に襲われたなんて、どうせバチルダの見間違いに決まってるよ」



 レナードはそう言って、ふにゃっと私に笑いかけた。

 人懐っこくて、それでいて愛嬌のある、可愛らしいレナードの笑顔。


 ……普段であればその癒し効果を存分に受けるところだけど、今はそういうわけにもいかないらしい。

 何故ならバチルダが発した『人狼』という言葉がぐるぐると頭の中を堂々巡りして、何か──妙に引っかかりをおぼえるのだ。



(……シモンを襲ったのは、人狼だった?)



 人狼が村を襲うなんて、別段珍しい話ではない。

 幸運にもこの村が被害をこうむったことはないけれど、麓の町やよその村などでは、年に数回ほど無惨な死体が発見されることもあるという。


 だからこそどこの集落にも狩人がいるし、規模が大きな場所では占い師や霊能者がいるわけで。

 でも、シモンが人狼に襲われるなんて、()()()()()()()()()()()はずで、


 ――チリ、と何かが、私の思考をかすめた。



「っ、痛……!」

「ジゼル!?」



 その時、突然、頭が割れるような激痛を感じた。

 痛みは一瞬で大きく広がり、我慢しようのないそれに頭を抱えてうずくまる。


 明らかな異常事態に陥った私に、三人は口々に心配の声をかけてきた。


 大丈夫かと。どうしたのかと。

 ……その気遣いがありがたいと思う反面で、頭に響くからやめて欲しいと思う私は薄情だろうか。


 脂汗が滲み、次第に呼吸が荒くなる。

 息を吸うこともままならず、喘ぐようにしながら空気を肺へと取り込もうとして、──失敗した。



『ジゼル!!』



 テレビの電源を落とすように、私の意識はプツリとブラックアウト。

 全身の力が抜け、崩れ落ちるようにして地面へ倒れ込んだのだった。


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