雨
ウチのクラスは二ヶ月に一回席替えをする方針らしく、もうそろそろ凛音と隣同士のこの席順もおしまいだ。思えばこの巡り合わせがあったからこそ、俺はこの二ヶ月間をびっくりするほど楽しく過ごしてこれたのだ。おそらく、席のひとつ分がズレていただけでも、俺と凛音は出会えず、言葉を交わすことがなかっただろう。そう考えるとヒヤリとさせられる。ヒヤリどころじゃない。足がすくむ。広大な海原の真ん中で、極小の足場に立ち尽くしているかのようなおぞましさに襲われる。
次が担任の授業で、おそらく席替えが実施されるから、今現在のこの授業が凛音と隣同士でいられる最後の時間だ。まあそんなことを言っておいて、運命的にまた隣同士になったりするかもしれないけれど、そうなったら面白いというかもうさすがに結婚でもした方がいい気もするが、そうそう上手くはいかないだろう。
まあ隣だからなんだ、隣じゃないからなんだというのはあるんだけれど、なんとなく寂しいっちゃ寂しい。こういうのは子供っぽいだろうか?
とはいえ、通常通りに授業を受けるしかないので受けていると、ポケットでスマホが震える。見ると凛音からメッセージが来ていて、『お客さん、活きのいいのが入ってますよ』と言われる。誰がお客さんか。間違えて送信したんだろうか? でも間違えたにしても本来誰に送られるべき文面だったのかも謎だ……と訝しく思いながらも顔を上げて隣を見ると、凛音の方もにやにやしながらこちらを見ていて、何かと思いきやブラウスの中段のボタンを外して黒いブラジャーをチラリと開帳してくれているじゃないか。何やってんだこの子は……とあきれながらも俺は目をそこへ釘付けにされてしまい立つ瀬がない。俺の好きな黒い下着。飛川ではけっきょく拝むことが叶わなかったが、凛音はやはりわざわざ購入して着けてくれていたのだ。マジか。マジか……と思いながら俺はずっと凛音の胸元を眺めている。
衣替えの時期で、凛音はもうブレザーを羽織っておらず、白いブラウスのみだ。そのブラウスのボタンを外すという危うい行為を、教科書を目隠し代わりにしながら頑張ってやってくれている。アホだ……とちょっと思うけど、あんなイタズラっぽい照れ顔でそういうサービスをしてくれるのは俺に対してだけなのだと考えると……なんというか、そのアホな行為自体は脇にどかすとしても、この関係性だけはずっと守っていきたいと強く思わせられる。凛音からずっと信頼されるような人間でいたいと思う。凛音が安心してああいうことをやってくれるような相手で。……まあ授業中のハレンチ行為はいかがなものかとも思うが。まあそれでも見させてはもらうが。
ブラにばかり注目してしまい視野が狭くなり、スカートの開かれたファスナーから黒いパンツが覗いていたことにだいぶあとまで気付かなかったんだが、勘弁してほしかった。こんな授業中に挑発しないで……。俺の表情があまりに切なかったのか、『そんな顔してたら先生に何かと思われるゾ!』と凛音に笑顔でメッセージを送られてしまう。最近欲求不満なのは否定できない。
担任の授業中にやはり席替えがおこなわれ、案の定くじ運に見放され、凛音は窓側の教卓近く、俺は廊下側の後方とバッチリ離れ離れになるが、今日のところは凛音のサービスのおかげでまだ寂しさもぼんやりといったところだった。
放課後、予報にない唐突な豪雨が降りだし、トイレを済ませてから靴を履き替えて生徒玄関を抜けると、軒下で待ってくれていた凛音がなぜか傘を持っている。
「傘、持ってきてたっけ?」と俺は訊く。朝いっしょに登校した際は手ぶらだった気がする。
凛音が言う。「ここでぼーっと博希のこと待ってたら、雨で困ってるんだと勘違いしたっぽい男の子が傘貸してくれた」
「ふうん」まあここで棒立ちしていたら雨を前に呆然としているように見えるよな。「男の子って何? お化け?」
凛音は笑う。「普通に芳日高校の生徒だよ。私らとおんなじところから出てきた気がするから一年生だと思う」
「で、走って行っちゃった?」
「行っちゃった」
「心優しい」と俺はコメントする。「まあもしも突っ立ってたのが俺だったらシカトだったろうけどな」
「男子は濡れても平気でしょ?」
「まあ女子も平気だと思うけど」
「服がスッケスケになる」と凛音。「今日はインナー着てきてないから、雨に降られたらスッケスケだったよ」
「なんで着てこないんだよ」
「あんたに見せたかったからでしょ」
「ああ……活きのいいやつ」
「活きよかったでしょ?」
「あれ以来悶々なんだけど」
「あれだけで悶々か」と凛音は頭を抱える。「私のこと好きすぎじゃない?」
「黒い下着が好きなのよ」黒は刺さる。
「はあ」ため息のような返事。「帰る? せっかく傘、貸してもらったし」
「待っててもなかなか止みそうにないしな」俺は空を仰ぐ。暗い雨雲が一面に広がっている。「そう考えたら、よかったな、傘借りれて。俺のトイレも無駄じゃなかったってことだ」
「うん」凛音は傘を開く。ビニール傘ではなく、紺色のしっかりしたやつだ。「行こう」
「おう……俺は走って帰ろうかな」
「なんで? 二人で使おうよ」
「ん? うーーん。でも、心優しい男の子は凛音に傘を貸したわけだし。俺入りづらいんだけど」
「なに?その実直さ」と笑われる。「私が借りた傘を私がどう使おうと勝手じゃない?」
「男の子が見たらどう思うだろうか」
「見ないよ。もう走って帰ったし」凛音が俺の腕を引っ張る。「ほら、いいから。いつも通り私のカバン持って。で、博希の方が背ぇ高いから傘も持って」
「持たせたいだけじゃん」
「んなわけないでしょ。こんな中を走って帰ったら風邪ひいちゃうよ」
「まあなあ」心優しい男の子は風邪をひいてしまうかもしれない。「まあいいや。はい、カバン貸して。傘も」
「お願いしまーす」と凛音は持ち物をすべて俺に渡してくる。
で、マシンガンのような雨の中を進む。梅雨はこれがあるから憂鬱だ。この時期だけでも折り畳み傘を持ち歩くようにした方がよさそうだ。
「相合い傘」と俺はつぶやく。「クラスメイトに見られたら何か言われるかな?」
「今更」とあきれられる。「なんて言われるの?」
「うわー夫婦だ夫婦だ!」
「ぶっ、小学生か」
「まあいいか。なに言われても」
「なに言われたって私は構わないよ」
「うん」友達同士でも相合い傘くらいする。
「相合い傘あるあるなんだけどさ」と凛音が言う。「私を庇うあまり、半身びしょびしょにならないでね?博希」
「もうびしょびしょだわ」
「やっぱりか」凛音は腕を広げて範囲を示す。「私はこれだけ余裕あるんだから、博希、もうちょっとこっち来なよ。濡れちゃうって」
「家帰ったら着替えるし平気だよ」
「ダーメ。じゃあ私が傘持つよ。貸して」
「いいよ」
「いいから」
「凛音を守りたいんだ」
「それ絶対いま言う台詞じゃないから」
「とにかく大丈夫だから」
「嫌だ。貸しな」凛音が俺から傘を奪おうとして、取り零してしまう。傘が地面に落ちて雨が俺達に降り注いでくる。「いひゃーー! 冷たい!」
「うえぇ、早く拾って!」
風が吹いてきて傘が数メートル転がる。「あー! 博希拾って!」
「もー!」と叫びながら俺は傘を追いかけ、なんとか拾う。「けっきょくびしょびしょ! 凛、早く傘に入れよ! 濡れる!」
「あはは! もう濡れてるし!」
数秒、傘を失っただけなのにずぶ濡れになってしまう。たしかに、この状態だともう傘があってもなくても同じだった。「最悪~」
「最悪~」と凛音も口を揃えるが、でもなんか楽しそうだった。
「ひどい目に遭った」
「しょうがないしょうがない」
「まったく」雨を吸って肌に取りついてくるシャツはもはや衣服ではないってくらい不快だった。これなら裸の方がマシだ。
凛音が猫のように顔を振り、髪の水分を弾く。「ねえ博希、さっき、凛って呼んだ?私のこと」
「ん? ああ……呼んだかな? 急いでたから、少ない文字数で呼びたくて……って感じ?」
「そう」
「なに?」
「いや、『凛ちゃん』はあるけど『凛』って呼ばれたのは初めてだったから」
「ふうん……」
「そんだけなんだけど……」
「そっか」俺は改めて傘を差し、歩き出す。「凛」
「は、はい!」
「凛って呼ばれると嬉しいの?」
「嬉しいっていうか……わかんない。呼ばれたことないから。恥ずかしいかも。なんか変な感じ」
「凛って呼んでいい?」
「い、いいよ……」
「そんな真っ赤にならなくても」凛音の顔面は暗雲の下でもはっきりわかるくらい赤らんでいる。
「恥ずかしい……」
「おもしろ」
「面白くはないよ」
「じゃ、可愛い」
「そ、そう言えば喜ぶと思って……」凛音はうつむき、声もだんだん小さくなる。
もういっそ不要な傘をそれでも差しながら歩いて、俺の家の前まで来る。いつもならここを通り過ぎて凛音を送ってから改めて戻ってくることになるため、今は無視すればいいんだけど、「雨宿りする?」と俺は申し出ている。
「え、博希の部屋入ってもいいの?」
「いいよ」
「えぇ、どしたの? 他人に入られるの嫌がってたじゃん」
「まあ」プライベートなゾーンだし、抵抗はある。「でもちょっと掃除したし、それに他人じゃないし」
「…………」凛音は口元を押さえるほど驚いている。
俺は苦笑するしかない。「そこまでじゃないだろ。俺の部屋、どんだけ開かずの間よ」
「はは。いや、入りたい。嬉しい」
「うん、どうぞ」
俺は凛音を玄関先に入れ、傘を閉じる。水分を飛ばしてとりあえずウチの傘立てに突っ込む。
母親がいるのでリビングを覗き、友達が来たことだけを告げ、凛音をそのまま二階の自室へ連れていく。部屋に他人を入れる習慣がないから緊張するというか、居心地の悪い気分になるのだが、凛音だし、凛音を招くために事前に整理整頓もしているので大丈夫だ……と自分に言い聞かせて腹を括る。
まあ俺個人の心の問題なので、凛音からすると別にどうということもないのだ。俺の部屋を見渡して「おお、普通」と言う。「普通の片付いた部屋じゃん」
「まあ」
「恥ずかしがることないじゃん」
「恥ずかしいっていうか、他人に立ち入られるのが嫌なだけだし」
「私は他人だよ?」
「うん、まあ……」
「ちょっとは他人じゃないって思ってくれるようになったってこと?」
「他人じゃないよ。他人じゃないだろ……」
「どれくらい他人じゃない?」
「まあ、けっこう」
「なんかぼんやりしてんね」と笑われる。
いや、ブラウスがスケスケでたじろいでいるのだ。生徒玄関のところで凛音も言っていたけれど、本当にスッケスケだった。ブラウスは雨に濡れ、溶けてしまったかのように今は地肌しか見えない。
「あー……どうしよ? 雨宿りする?って言ったけど、既にメチャメチャ濡れてるな。寒い? やっぱりさっさと家帰った方がいいかもな」
「やーだよ、せっかく入れてもらったのに。まだ帰んないよ?私」
「寒くない?」
「寒いは寒い」凛音は自分の体を抱くようにする。「バスタオルみたいなものない? それだけ貸してほしいです」
「わかった。見てくる」
バスタオルバスタオル。母親に訊けば何か出てくるだろう。俺は凛音を部屋に残して一階へ下りる。母親に確認して浴室の方から厚手のバスタオルを一枚いただいてくる。
自室に戻ると凛音はベッドの下を覗いていた。「うわ、戻ってくるの早っ」
「ないから。何も」
「どこに隠してるの?」
「持ってないし」俺は凛音にバスタオルを手渡す。
「ありがとう。申し訳ないです」凛音は肩をすくめ、「申し訳ないついでに、ちょっとだけ目ぇ瞑っててもらっていい?」と言う。「制服脱いで、体拭きたい」
「ああ、うん」なるほど。「でも途中で目ぇ開けちゃうかも」
「それはルール違反だから」
「透けてるし、既に裸ん坊とあんまり変わらないよ」
「スカートも脱ぐし」
「でも……」つって、バカな押し問答はやめよう。凛音の体が冷えてしまう。「わかったよ」
「……博希のベッドに乗ってもいい?」
「いいよ」
「ホントに? 嫌だったらちゃんと言ってね?」
「全然。いいよ」俺は凛音に背を向ける。「早く拭きなよ。風邪ひく」
「うん……」で、凛音が服を脱ぎ始める。「ひゃー、気持ち悪い。べっとべとだ」鈍い衣擦れの音がする。「博希、ごめん。床にも水滴落ちてる。服も雨水でぐっしょり」
「気にしないで」
「博希は平気? 博希も濡れてるけど……」
「まあなんとか」
「シャワー浴びてきたら?」
「凛に部屋漁られるからいい」
「ふふ、漁んないよ」
「漁られても別にいいけど。何もないし」
あ、勉強机の引き出しに未開封のゴム箱が入っているけれど、それくらいか。見られて気まずいアイテムは。
「よかった……下着はそこまで濡れてないや」と凛音が独りごちる。「夕方までには止むかな?雨」
「天気予報では雨なんてそもそも言ってなかったしな。止むんじゃない?」
「よーし」と凛音が言う。「博希、もういいよ」
「ん」俺は振り返るけど、凛音は俺のベッドに潜り込んでいるし、凛音の制服はブラウスもスカートも床に置かれているし……。「凛、今なに着てるの?」
「なんにも着てないよ」と凛音は告げてくる。「下着は着けてるけど」
「ちょ……!」マジで?
「あ、体はきちんと拭いたから博希の布団が濡れたりっていう心配はないよ」
「いやそんなのどうでもいいよ」濡れたって構わない。「俺はどうすればいいの?」
「電気消して。カーテンも引いて」と指示される。
俺は言われた通りにする。「凛さ、どうやって帰る? 制服はびしょびしょでもう着れないだろ? 俺の服、なんか貸そうか?」
「うん。でもそんなことよりこっち来て」
ベッドに近づいていくと、布団の中から凛音が上半身だけ体を出し、手招いて俺を屈ませる。そうして俺の襟元に手をかけ、何をするのかと思いきやカッターシャツのボタンを上から順に外し始める。
「…………」
俺はもう、薄暗い部屋と凛音の雰囲気に呑まれてやばい。電気も消えて外の光も遮断したとはいえ、真っ暗闇なわけではなくて、凛音の白い肩だとか慎ましやかな乳房を覆う黒い下着は見えてしまっているのだ。凛音は俺の布団に包まっているものの、全然隠せていない。
凛音は俺のボタンを全部外し、「あとは自分で脱いで」と言う。
「凛、もしかして今日……」ついに念願の最後まで?
「あの、今日は」と凛音が口を開くが、勢いづいた俺は歯止めが利かず、カッターシャツを床に放り投げるとベッドに上がる。凛音に口付けをしつつ、その間にズボンも脱いでしまう。これで俺も下着だけとなり、凛音と同じ格好だ。
「凛……」俺は名前を呼びながら、防壁になっている布団をゆっくり剥がしていく。
「あんまり体見ないでね?」
「なんで?」
「恥ずかしいし」
「大丈夫だろ。スタイルいいし」
「普通だよ。胸ないし……」
「胸はないけど」
「…………」
「……貶してないよ?」
「わかってるよ……」
「胸なくても別にいいし」凛音のお腹に触れ、そのまま手探りで上へ向かうと、指先がブラの生地に当たる。その辺りを手の平でそっと包む。「……胸あるじゃん」
「……そりゃ、ちょっとはあるよ」
「もっと触っていい?」
凛音はこくんと頷き、「あの、でも」と何か続けようとするが俺は辛抱できずに揉んでしまう。「……っ」
手はそのままに口付けも繰り返し、俺はだんだんと自分のペースを取り戻していく。凛音の唇を舐めてから、顎、首筋、と順番に舌先を下ろしていく。凛音が押し殺したような切ない声を漏らす箇所を見定めて、首筋の、その箇所ばかりを唇で擦る。舌先で撫でる。
ブラジャーの表面ではなくその内側に指を潜り込ませると凛音が大袈裟に体と声を震わせ、俺自身もそれで一気に堪らなくなる。凛音の体を徐々に慣れさせて、満を持して下腹部に手をやったとき「ご、ごめん」と言われる。「下はごめん」
「あ、恐い……?」
「じゃなくって、あの、生理で……」
「ああ……」
「ごめん。言おうとするたびに博希がチュウしたり触ってきたりして……」
「あ、ごめん。俺も鬼気迫ってたかも……」
「ううん。こっちこそ、最後までできないのに誘惑してごめん」
「や、全然。最後までできなくても全然大丈夫」できないもんは仕方ない。「生理って、平気なの? 痛くない?」
「あ、うん。ベッドも汚さないから安心して」
なんかよくわからないけど……「うん」
「ごめんね」
「いや、いいって」拍子抜けはしたけれど。「あの、抱き合うくらいならできる?」
「できるよ」
「じゃあそれでいいよ」
俺は凛音の隣に寝転がり、腕を広げる。凛音は布団に包まれたまま俺の方へ倒れてくる。俺は抱き止めてから改めて凛音の布団を剥ぎ、注文通りあんまり体をじろじろ見ないようにしつつ抱きしめる。いつもは服を着たまま抱き合うから、肌と肌が触れ合う今日のハグは素晴らしく心地がいい。凛音の滑らかな肌はもちもちと俺に吸いついてくるかのよう。だけど雨のせいでしっとり冷たくもなっているので、暖めてやらないといけない。
「暖かい」と凛音は安心したような声を漏らす。さっきまでと比べてずっとリラックスしているふうだった。「博希、メッチャ体温高いね。気持ちいい」
「気張ってたせいもあるかも」
「ふふ……肩透かし食らわせてごめんね」
「謝んなくていい」キスする。「……やっぱり緊張する?」
「……そりゃするでしょ」
「するよな」
「全部初めてなんだから」
「うん」
「……とうとう触られちゃった」
「触ったな」
「ホントは大きい方がいいんでしょ?」
「そんな余裕ないし」
「あはは。そっか」
「そんなの気にしなくていいから」
「うん。ありがとう」
「ふう……」
「期待してたのにごめんね? 苦しいでしょ?」凛音が俺を抱きしめたまま、腰の位置を少し動かす。「生殺し状態?」
「ちょっとね」と俺は無駄に強がる。
「出したい?」
「…………」
「手でならできるけど……」
「やった」思わず内心ガッツポーズ。「ホントに?」
「うん。でもちゃんと見せてね?」
「えぇ……まあ、そうなるか」
「見せてくれないとしてあげないよ?」
「自分のときだけワガママ……」
「ふふ。私も見たいもん」
「見たいんだ……」
「見たいでしょ。私だって興味あるし」
「そっか」
「恥ずかしい?」
「当たり前」
「大丈夫だよ。見せて?」
「わかったよ。つまらないものですが……」
「うん。いいよ。今日は博希が満足するまでご奉仕するね」凛音がより強く俺を抱く。「でも、もうちょっと、カラダ暖めてからね」
いくらでも待てる。俺は薄暗い部屋の、さらに薄暗い布団の中で、誰の汚れもまだ知らない凛音の細くて柔らかな指をじっと待ち受ける。