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散歩

 紫蝶(しちょう)女子大学のキャンパスがある丘の方から二玄堂(にげんどう)へと流れ込んでくるか細い水流こそが飛川(とびがわ)の先っぽで、そこから川幅を拡大させながら三玄堂に至り、我々のよく知るカップルの散歩道になる。


 六月最初の晴れた休日、俺と凛音(りんね)は飛川沿いを二人で歩く。立ち入り制限でもあるかのごとく男女のカップルしか歩いていないのだが、そういう観点で言うと、互いに互いを愛していない仮初めのカップルである俺達にここを散歩する資格はあるんだろうか?


 本当に好きな人が出来るまでの間、寂しさを紛らわせつつウォーミングアップを図る暫定的な恋愛関係。ただし、俺達の行動自体に制約はなく、俺は凛音を、凛音は俺を正式な恋人としてきちんと扱っている。機械的じゃない。愛情はなくても友情はあるのだ。この関係の特筆すべき点は、本命と付き合える兆しが見えてきたとき、即座に解消できるという箇所だろう。愛情が伴っていないゆえに、後腐れもない。都合のいい関係なのだ。そう思う。そのはずだ。


 凛音が歩きながら言う。「もう少しで、付き合い始めて二ヶ月だね」


「そうか」と俺も逆算してみる。「丸々二ヶ月付き合ったことになるのか。で、これから三ヶ月目ってわけか」


「けっこう長持ち」


「ま、気軽な暫定恋愛だからじゃない?」


「それでも、やってることは普通の彼氏彼女といっしょじゃん?」凛音は少し不服そうに目を細める。「もっと雑でいいよって言ってんのに、博希(ひろき)はいい彼氏を演じようとするんだから」


「演じてはないよ」俺は肩をすくめる。「人徳が滲み出てくるんじゃない? まあそれは冗談にしても、暫定とはいえ恋人なんだから、ちゃんと向き合わないと失礼だろ?」


「うん……」凛音はちょっとうつむく。「私もちゃんと真剣にやってるからね?」


「わかってるよ」


 ただ、手は抜いていないものの『暫定』という前提が俺を気楽にしているのは間違いなかった。凛音と正式な恋愛をするというのはそもそもありえない話なんだけど、もしもそういうことがあったとしたら、その『正式』さだけでプレッシャーを感じてしまい上手くいかなくなるかもしれない。内容自体は変わらないはずなのに。気持ちの問題だ。


 とはいえ、暫定で気楽なのだと言っても、だからって一筋縄じゃいかない。四月に関係を結んでから五月、そして六月と来て、俺のスタンスも微妙に変わりつつある。


 凛音はただの道楽で暫定恋愛を試したかったわけではなく、どうも、中学校時代の経験から恋愛に対して、男子に対してネガティブになっているようで、それの克服も兼ねているふうなのだ。そういう事実を知ってしまったらスルーなどできない。俺は自分の本命も探しつつ、凛音の心にかかる靄をも取り払ってやりたい。当面は、たいていの男子はまともなんだぞってことを凛音に知らしめてやりたい。問題のある人間なんて、ごく少数であるはずなのだ。


「高校生活、慣れた?」と凛音が訊いてくる。


「そだな。もう入学直後からイレギュラー的だったからな」凛音からの暫定恋愛のお誘いのせいで。「あっという間に二ヶ月経ったって感じ」


「友達できた?」


「できてなくはないけど、凛音といることが圧倒的に多いからな。あと、俺……岡部博希といったら白都凛音の大親友……みたいなイメージがみんなの中にあるから、喋りかけづらいってのもあるのかもしれない。いや、男友達もいることはいるけどな?」


「あはは。友達が私だけだったら寂しい?」


「凛音といっしょが一番楽しいよ。でも凛音がどっか行っちゃったら、俺はぼっちになるかもしれない。……そこまでにはならないにしても、だいぶ寂しいんじゃない?」


「どこも行かないよ」と凛音は当たり前のように言う。でもそんなのわからない。この関係が解消されても俺と凛音が友達であることは変わりないと思うが、思うだけで、確定じゃない。凛音の本命の彼氏が俺の存在を疎んだら、俺と凛音は切り離されるだろう。まあ、そうなったらそうなったで上手く適応して生活していくしかない。まだ輪郭すら形成されていない未来に対して深刻になっていても仕方ない。「……私も博希といるときが一番楽しいよ」


「どうもありがと」と俺は感謝の言葉を述べさせていただく。


「不思議だね」

 凛音の台詞は単発すぎて判然としないけれど、おそらく俺との相性がいい、フィーリングがよく合うことに関して『不思議』だと言ったんだろう。


「たしかに不思議だ……」

 俺は隣を歩いている凛音を一瞥する。こんな、いかにも普通な感じの女子とここまで仲良くなれるなんて。俺はそもそも女子なんて得意じゃなかったのだ。不思議すぎる。


「まあ博希は私がいなくても大丈夫だよ。京架がいるじゃん」


「はは」


「ははじゃないよ。京架と遊んだ?」


「遊んでないよ。遊ぶ予定が立ったらまず凛音に相談するし」檻本京架さんは凛音と友達で、だからなのか俺との距離もメチャクチャ詰めてくる。見た目が俺の好みをすべて網羅している、ある意味では凛音と同じくらい不思議な、奇跡的な女子。遊ぶ約束はしているものの、日程の調整はできていない。「凛音こそ、檻本さんと遊んだの? そっちもそっちで約束してただろ?」


「私は一回遊んだよ」


「あ、そうなんだ?」俺の方が先に約束していたのに。あ、でも一度キャンセルになったから順番が入れ替わったのかもしれない。「どこ行ったの?」


「遊んだっていうか、ごはん食べて喋っただけだけど」


「ふうん」


「女同士の話」


「…………」

 なんだろう。凛音と檻本さんは中学校時代にも名状しがたい因縁があるから、そういう言い方をされるとなんだか不穏だ。凄味を感じる。


「気になる?」


「……や、恐いからいいよ。気にならない」


「あは。教えないけど」


「…………」

 俺の、檻本さんへの感情はまだ不明だ。正直、ありえないくらい美少女で見ていると涎が垂れてくるけれど、どちらが大切なのか?という話になってくると、俺としては凛音だ。いや、俺が頭で考えてそう結論づけたわけじゃなく、俺自身の行動を顧みるに、俺はどうやら凛音の方をまだまだ気にかけていて、檻本さんが凛音を超えて存在感を膨らませる気配は今のところない。まあまだ遊びにも行けていないし、言葉すらほとんど交わしていないので当然かもしれないが。


「……これからどうなるんだろうね」などと凛音が少し可笑しそうにしつつしみじみとする。


「なるようにしかならないだろ」と俺は思考停止で返す。「誰の人生だってそうだよ」


「そだね」と凛音は安心したように笑う。「とりあえず今日、どこまで行くかだね」


「飛川をか? 今日中に端まで歩けるかな?」


「散歩コースなら歩ききれるんじゃない?」


「うーん」でも飛川沿いの道はそもそも散歩用に作られているわけじゃないので、ぐるりと周回できるようになっていたりは全然しない。普通に行ったら行ったっきりで、必ずUターンして戻ってこなければならない。奥まで行って、さあ帰ろうっつってまた折り返すのも精神的にキツいものがある。俺は凛音を見る。疲れていないか確認するが、今のところ平気そうだ。六月に入ったばかりで気温もほどほどで、発汗もない。「時間はあるし、喋りながら適当に歩くか。疲れたら言ってよ」


「うん。喋ってたら、時間も距離もあっという間」と凛音。「私と博希の場合、場所はあんまり関係ないよね。どこにいてもずっと喋ってられるし、ここが飛川沿いかどうかなんて、正直どうでもいいのかも」


「そうは言っても、場所ならではの話題ってのもあるよ」俺は川の畔を指差す。緩くて小さい土手が川と平行して伸びており、その芝生の上で無数のカップル達がイチャイチャしている。「けっこう濃厚なカップルもいるんだけど」


「あんまり見ちゃダメだよ」


「凛音も見てたクセに」


「見てたけど」


「大学生が多いかな……?」

 わからない。俺達よりはみんな年上に見える。服装とか雰囲気でそう感じるだけかもしれないが、なんかやたら堂々としている。ただ並んで座っているだけのカップルもいれば、シートを敷いて寝転がっているカップル、膝枕をしているカップル、男性のあぐらの上に乗っている女性のカップル、対面で抱き合って座っているカップル……いろいろいる。子供連れが訪れない理由がなんとなくわかる。空気が異質だ。ピンクだ。


「こんな公共の場でイチャイチャして……度胸あるよね」


 凛音がそんなコメントをするが、いやいや、凛音は他所様のことは言えない。「凛音もだいぶ大胆だよ」


「私!? そんなことないよ」


「まあいいや。ちょっと休憩しようか」

 俺は道を外れて小さな土手へ下りる。カップルがいない空いているスペースを選び、そこに腰を下ろす。手を繋いでいるので凛音も同じようにせざるを得ない。


「な、なんか変な感じ。緊張する」と凛音が顔をこわばらせる。「イチャイチャカップル達の仲間に加わっちゃったよ」


「大丈夫。凛音の方がレベル高いから」


「高くないし」


 ぼんやりと飛川の流れを眺める。そんなに深い川じゃないし、そんなに美しくもない。街中を流れる川にしては綺麗かなといった程度だ。腐ってもカップルの溜まり場。


「凛音、服可愛いね」と俺は言う。パンツ派の凛音だけど、今日は白いキャミワンピに薄手のジャケットを羽織っていてスカート派だ。


「今更。スルーかと思った」


「言うタイミングがなかっただけ。可愛いよ」


 凛音は不甲斐なさそうに笑う。「やっすい服だよ」


「俺のために買ってくれた?」


「スカートが好きって言うから……」


「可愛い」


「ふ。もう。服が可愛いだけでしょ」


「凛音も可愛いよ」

 そうやってわざわざ俺の好みに合わせてくれるのは『可愛い』と表現する他ないだろう。


「やめてよね」


「なんで?」


「気分よくなっちゃう」


「いいじゃん」


「ダメだよ」


「靴下も白だし」と俺は指摘する。俺は靴下は白派で下着が黒派なのだ。凛音は靴下が黒派で下着は白派だったんだが……今日は白いシンプルな靴下を履いてきてくれている。


「見てるし」と凛音はあきれ笑いだ。


「見るし」と俺はいっそ開きなおる。「見られると思って白にしたんだろ?」


「そうだけど……」


「なんかメッチャ可愛いな」俺は胸がきゅっとなる。いじらしい。「目に優しい。目の保養」


「あは。もう……」


「でも凛音は自分にとって快適な格好すればいいからな? 俺の好みの服ばっかり増やさなくていいし。だって、本命はスカート派じゃなくてパンツ派かもしれないしな」


「パンツ派だったらちょうどいいね」


「利害一致だな」


「でも今の彼氏は博希だから」と凛音は俺の意見を退ける。「本命もスカート派かもしれないし。わかんないじゃん?」


「まあわかんない」


「とにかく、私の彼氏は博希だから、博希の好みに合わせるよ」


「そっか?」


「うん。私が博希にしてあげれることってあんまりないから。これくらいしかできないし」


「そんなことないよ。凛音が笑ってくれてるだけで俺は幸せだよ」


「つっ……それは絶対思ってないでしょ。そんなことは」


「ふ」と俺は笑う。「まあ今のはちょっと凛音を照れさせたかっただけかも」


「女誑し……」


「凛音誑しだよ」凛音以外の女子にこんな口は利けない。そんな歯の浮くような台詞……言った途端に文字通り口内が崩壊しそうだ。「でもホントに。気にしなくていいよ。俺も別に凛音に何かしてあげてるってわけじゃないし」


 俺は指先で芝生をなぞりながら、その先に置かれている凛音の手を捕まえる。凛音は手の平を返して俺の指を握る。「……カップルの溜まり場、飛川」


「うん」


「来たからには、やることやる?」凛音が俺に肩を寄せながら問うてくる。


「やることって?」


 反問すると「わかってるクセに」と頬にキスされる。凛音の方を向くと、今度は唇へのキスが来る。キスまでしているカップルはそんなにいなかった。凛音はやっぱり軽々とラインを越えてくる。


 舌を入れるのはさすがに自重しているのか、凛音はいつも通りにはせず、柔らかな唇だけを押し当てたり、少し開閉してほんのり啄むようにだけしたりして、俺を刺激する。それだけでも充分にイヤラシイが。


 俺は凛音の脇に腕を回し、ぐいっと引き、凛音を百八十度反転させ、こちらに向かせて俺の太股に座らせる。腰と腰が密着するようになり、この体勢だけで絵的にアウトな勢いだった。


「恥ずかしい……」と凛音は今さら言う。


「みんなやってるから大丈夫」


「ここまでのことは誰もやってないし」と凛音はやっぱり今さらだ。


「ねえ、凛音」と俺は凛音の耳元で囁く。「もしかして、下着も俺好みのやつ穿いてきてくれてる?」


 凛音は苦しげに「知らない」と吐き出す。


「見せて」


「見せてって……どうやって」


「スカートだし、捲ればいいじゃん」


「ば、バカがいる……」


「この前は恥じらいもなく『見ていいよ』って言ってたじゃん」


「あ、あれは家の中だったから……っ」


 俺は凛音の耳を舐める。舌先で複雑な凹凸を順番になぞっていく。深い溝の部分も舐め漏らしがないよう奥まで這わせる。くすぐるように舌を波打たせる。耳を舐めたのは初めてだった。舐めやすい位置にあるのに、今まで舐めたことがなかった。「声出しちゃダメだよ」


 耳を舐めながら凛音の力を抜いていき、その間にスカートをたくし上げようとしていると「はぎゃあ!」とすぐ声を出されてしまう。「出るに決まってんじゃん!」


「……もうちょっと可愛い声出ないの?」


「いきなりするからじゃん。何してんの?」


「ごめん」ちょっとイチャつくだけのつもりだったのに、凛音よりも大胆なことをしてしまった。「飛川の魔力じゃない? パワースポットだよ」


「パワースポットかもね」と凛音も認める。「私もおかしくなっちゃったじゃん。責任取ってよ?」


「ちょ、凛音はダメ」

 加減を知らないんだもん。俺は制止をかけようとするんだが、凛音にまた唇を奪われて土手に押し倒されてしまう。頭突きでもされたんじゃないかという威力だった。


 さっきの自重はどこへやら、凛音は深いキスをしてくる。俺を見下ろすその表情はもう一生懸命さに溢れていて、周囲なんて気にも留めず集中しきっているのが見て取れる。


「何色の下着だと思う?」と凛音が訊いてくる。「見てもいいよ」


 見てもいいよって言っておきながら、仕返しとばかりに俺の耳を舐めてくる凛音。気持ちいいというか、こそばゆい。気持ちよくもあるんだけど、こそばゆさの方が遥かに勝る感覚で、俺はその場から逃げ出したくなる。しかし凛音が腰に乗っかっていて、さらには上半身をうつ伏せて俺を土手の芝に押さえつけているから一切身動きが取れない。俺はただただ声を抑えてビクビクするしかなくなる。「~~~~っ!」


「可愛い」と耳元で言われて、その吐息でも同じような反応をしてしまう。「くすぐったい? 私もされたんだから、博希も我慢するんだよ?」


「おま、お前は我慢できてなかったじゃん」と掠れた声で返すも、またすぐ黙らされる。凛音は耳穴を執拗に舐めてきて、唾液でも溜まってきたのか、だんだんと水音のようなものが鼓膜いっぱいに響いてくる。しかも凛音は何を考えているのか、俺の腰を太股で挟んだまま自分の腰をごそごそ揺すり動かしていて、無意識的にリズムでも取っているのかもしれないが、傍から見たら何事かと思われかねない。


 やがて疲れてしまったらしく耳舐めをやめて俺にしがみついて脱力する凛音。「はあ……はあ……」と浅く小さな呼吸を繰り返す。


「凛音ちゃん」と俺はたしなめる口調で凛音を呼ぶ。


「ごめん……はあ、恥ずかしい……人に見られなかったかな……」


「いや、今の状態も充分に恥ずかしいんだけど……」

 向い合わせで密着したままなのだ。両隣のカップルからは適度な距離を取っているけれど、見えないことなどありえないし、まあ見られているだろう。飛川だからハメを外しすぎたということで見逃してもらうしかない。


「博希」


「うん」


「今までで一番やばいかも」と凛音が顔を伏せたまま呻く。「博希としたい……」


「俺もしたい」

 でも家まで帰るには時間がかかりすぎる。鷹座駅まで歩いてそこから絲草まで電車で戻るか、この慣れない三玄堂でバス停か駅を探して一気に絲草を目指すか……どちらにせよ三十分以上かかる。下手したら一時間ほどかかる。


「……近くにホテルない?」


「鷹座駅から三玄堂、四玄堂エリアにはないだろうな」

 街中で、かつ観光地でもあるし。一般的なホテルはむしろたくさんあるけど、一般的ではないホテルはなかなか数少ないだろう。


 凛音は俺にのしかかったままスマホで検索してみているが「ない」とうなだれる。


「はは」と俺は可笑しくて笑ってしまう。「ここでする? 凛音、スカートだし、下着だけ脱いだらできるかも」


 凛音が真面目腐った顔をする。「できるかな」


「冗談だからな?」と俺はすぐ言う。「思い詰めた顔で考えるなよ」


「だって……」とつぶやく凛音は本当に余裕がなさそうで可愛らしい。「でもたしかに、初めてがこの土手はやばすぎるよね」


「やばすぎる」と俺も同意する。「初めてなんだから。焦らずいこう」


「それにしても、いつもタイミングが悪いんだよなー」と凛音は忌々しげに唸る。「私達、なんでこんなところにいるんだっけ?」


「お散歩デートしてたんだろ」


「おうちデートにすればよかったね」


「まあまあ」俺は凛音の頭を撫でる。なんだかんだでまだ先の関係へと進めていない俺達だが、考えようによってはその方がいいのかもしれない。「凛音の場合、本命のために取っとくっていう考え方もあるからな? 凛音にちょっかいかけてる俺が言うのもなんだけど、よく考えてな?」


「ちゃんと考えてるよ」と凛音は返しが速い。「私は博希がいい。たぶん博希が世界中の誰よりも私に優しいと思うから、初めては博希がいい。それはもう、前々からちゃんと考えてるよ。本命は本命だけど、本命がそういう点で博希より私に優しいとは限らないでしょ?」


「なんとも言えないけど」


「絶対に博希がいい」と凛音は強い口調で断言する。「博希じゃないと嫌」


「あ、ありがと」と俺はお礼を言っておく。「そこまで買われると責任重大だな」


「畏まらないでね? 普通にしてくれればいいから」


「うん……」


「それにそんなこと言って、博希も私としたいでしょ?」


「うん」そこは濁さない。「したい」


「じゃあしようよ。遠慮しないで」凛音ははにかむ。「今日はデートエリアの都合上、無理かもしれないけど」


 俺と凛音は土手でまたしばらく、今度は穏やかに戯れてから、けっきょくまた散歩を続ける。飛川沿いを中ほどまで歩いてきてしまっているので、歩き続ける他ないのだ。まったくもって間が悪い。

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