97
再び肉屋に戻った光。
-97 涙と共に-
焼肉屋の代金を立て替えた光は渚の肩を持って母の部屋に『瞬間移動』し、ベッドに渚を宣言通りに放り込み再び『瞬間移動』して肉屋に戻った。
賄い用の厨房では御厨によるハヤシライス作りが佳境に差し掛かっていた、甘く良い香りが漂ってくる。
傍らでは白飯を炊いているらしく、炊飯器からも良い香りがしていた。たっぷり用意しているみたいだが、もしも光が食べるとなると御厨の夕飯どころか肉屋で働く従業員達の賄い分も無くなってしまう。
そこを通過し、奥の豚舎へと戻ろうとする光を店主のケデールが引き止めた。
光「な、何ですか?」
ケデール「実は先程なんですがね、豚舎ですごく居づらい雰囲気になっちゃいましてね。どうやらあの元恋人同士、2人きりで話し合いたかったみたいですよ。」
お互いにまだ未練があるのだろうか、奥の豚舎で好美と守は良い雰囲気になっている模様だった。ゆっくりと語り合ってもらおうと気を利かせたケデールはこっそりその場を離れて光の帰りを待っていたらしい。
2人が足音がしない様にこっそりと豚舎に近付くと、好美と守は互いに涙を流しながら抱き合っていた。
店先で待っていようと思った光はケデールに小声で話しかけた。
光「ケデールさん、今夜豚の生姜焼きと焼きビーフンにしようと思っているのですが頂いても宜しいですか?」
ケデール「かしこまりました、おまけさせて頂きますね。では、こちらへどうぞ。」
店主の案内で店先に移動しようとする光、その時2人の耳に元恋人同士の会話が。
好美「寂しかった・・・、こっちの世界に来た瞬間一生守に会えないかと思った。大学を卒業した時に別れた後からも頭から守の事が一切離れなくて・・・。」
大粒の涙を流す好美、その涙を持っていたハンカチで拭いながら守が返事をした。
守「好美もだったんだな、寂しかったのが俺だけじゃなくて本当に良かった。」
好美「ねぇ、守。私達、どうしたらいい?どうするべきだと思う?このまま寂しいままこの世界で生きるべきだと思う?」
守「分かるかよ、でも答えは1つかも知れねぇな・・・。」
守は元彼女の腰に優しく手を回し唇を近づけた、好美も元彼に応える様に唇を重ねた。数十秒の間ずっと唇を重ねていた2人は互いにゆっくりと離れ結論を出した。
守「俺から言わせて欲しい、やり直させて下さい。」
好美はまた大粒の涙を流し始め、ぐずりながらも守の言葉に答えた。
好美「勿論・・・、喜んで。」
陰で会話をずっと聞いてしまっていた2人はもらい泣きし、静かに店先に歩いて行った。
ケデール「何となく良い話を聞きましたね、こんなに泣いたのは久方ぶりですよ。」
光「そうですね、これを肴に日本酒が呑めそうです。」
ケデール「光さんは相変わらずだなぁ。でも今日は車でしょう、ダメですよ。」
店主は手を少し震わせながら自ら光の注文した商品を用意した、宣言通り少しおまけして。ただ感動が冷めていないせいか、おまけの量が少しどころではなくなっている。焼きビーフンに至っては山盛りだ。
その間に光は軽バンを『瞬間移動』で自宅に戻し、再び店に戻った。これで安心して酒が呑めると思った。
ケデール「光さん、ここで呑むおつもりで?うちは飲食店ではないんですよ。」
光「いや、面倒くさくなったんで車を戻しただけですよ。」
ただ店に戻った光の顔は少し赤くなっていた、どうやら家で先程の出来事を肴に本当に軽く1杯引っ掛けて来たらしい。
そんな中、奥の豚舎でよりを戻した2人が店先に出て来た。どうやらまだ仕事が残っている守が好美を送って来たようだ、好美は光に気付くと嬉し涙を流しながら抱き着いた。
好美「光さん・・・。」
光「良かったじゃない、ほら今日はうちで呑みましょう。守君も一緒に来るよね。」
守「いや実はまだ・・・。」
ケデール「え?お前今日早番だからもう上がりだろ?早く帰れ、お疲れ様。」
一応気を利かせた狼男。




