94~95
焼肉屋の板長は少し焦っていた。
-94 狼男の真実-
板長は顔にかかった水と汗を拭きながらグラスに入った麦茶を飲み干し、新しく入れなおしながら自分がやらかしてしまった事に関して告白した。神に対して無礼を働いた事を悔いている。
ヤンチ「いやね、あの人がいきなり店にやって来て「自分は神だ、御厨を出せ」なんか言い出すもんですからね、突然やって来たお初で乱暴な人をどう信用しておや・・・、いや御厨さんの場所を教えろというんですか?一応は個人情報でしょ、光さん位に信用出来ない人ぐらいでなきゃ教える事なんて出来ませんよ。」
光「ふふ・・・、親父さんを大事にされているんですね。」
それもそうだ、元々巷で恐れられていたウェアタイガーを拾い、血は繋がってなくとも自分の子供の様に育ててくれた、いわば「育ての親」なのだ。どれ位感謝してもしきれない人を大事にしていない訳が無い。
しかし話の流れからどうやら御厨の居場所を知っている様だ。
光「それで、今本人はここにいないんですか?」
ヤンチ「はい、親父なら今弟の所にいますよ。」
光「御兄弟がいらっしゃったんですか?」
ヤンチ「はい、実は最近知ったのですが自分には弟が2人いるんです。ほら、この街中にウェアウルフが2人いるでしょ、念の為にバルファイ王国の魔学校病院でDNA鑑定をお願いしたんですよ。」
光「パン屋の店長と肉屋のケデールさんですか?」
好美「というかDNA鑑定って・・・、ここ本当に異世界なんですか?」
疑念を持つ好美をよそに会話を進める2人、ヤンチが言うには肉屋のケデールが次男でパン屋のラリーが三男だそうだ。
それにしてもラリーって名前が久々に出て来た気がする、作者的に光にはちゃんと働いていて欲しいものなのだが。
ヤンチ「親父が肉の解体や成形について勉強したいって言うもんですから弟に頼んでみたんです、「兄ちゃんの育ての親は自分の育ての親も同然だから」って快く了解してくれました。宝田さんって人が育てている豚の肉にも興味があるらしいので一緒に育てながら店で使わせて貰える様に交渉するって言ってましたよ。」
好美「ああ・・・、守の・・・。」
元彼の名前を聞いて少し汗を滲ませる好美、何か秘密があるのだろうか。
それはさておき、一先ず2人はケデールの店に行ってみる事にした・・・、のだがまさかの天から声が、どこからどう聞いてもトゥーチだ。
トゥーチ「おうおうおう!!そこのウェアウルフめ、さっきから全部聞いてたが神であるこの俺を騙すたぁどういう了見だ?!」
ヤンチ「神様、申し訳ございません。騙すつもりは無かったんです、しかし初めて会った知らない方にいきなり親の居場所を教える子がいますかね?それと私、ウェアタイガーですので。」
トゥーチ「そうだな、二重にすまなかった。光さんと好美ちゃん、ちょっと待ってくれねぇか?今降りるから良かったら俺の背中に乗ってくれ。」
好美「そんな・・・、神様の背中にだなんて。」
トゥーチ「良いの良いの、案内してもらうんだから当然さ。」
声が止んでから数秒後、何故か焼き肉屋の天井が軋みだしたので嫌な予感がした3人は店の外に出た。予感通りトゥーチが古龍の姿のまま店の屋根に降り立っていた。
ヤンチ「店が・・・、親父と俺の店が潰れる!!」
トゥーチ「ん?ああ悪い。」
自分のやらかしてしまった事を知った神は慌てて人化し、屋根から降りた。
潰れかけた店は光が新しく『作成』した『修理』で何とかしたので事なきを得た。
トゥーチ「この前はすまなかったな、今日もだが。」
ヤンチ「いえいえ、店が無事に戻ったので私は気にしてないですよ。」
トゥーチ「そうか、それは良かった。さてと、光さんと好美ちゃん。早速行きますか。」
古龍の姿に戻ろうとした神を慌てて制止した、いきなり店の前に「一柱の神」である古龍が降り立ったら誰だって驚くはず。
光が『瞬間移動』でこの世界で買った軽バンを持って来た、偶にはゆっくり街並みを見回しながら移動するのも悪くないと思ったからだ。
「三つ巴の三姉妹」の三女は光には素直らしく、すんなり後部座席に乗った。軽自動車に神が乗っている場面を見た好美は何処か違和感を感じていた。
-95 恩人登場-
光の運転する軽バンでのんびりと肉屋へ移動する3人、ただ好美の中には疑問が生じていた。
好美「気まずくならないですかね、今から元彼と元彼女が会うので。」
光「今更何言ってんの、そんな事日本でもよくある話でしょ。それにこの前だって普通に話していたじゃない。」
トゥーチ「何だ、好美ちゃん。元彼って誰だよ。」
光は後部座席の神に守と好美の事を伝えた、ただ話を聞いた古龍はぽかんとしている。
トゥーチ「元彼の方はもう気にしていないんじゃね、大丈夫だよ。」
好美「そうですかね、私気にし過ぎなのでしょうか。」
トゥーチ「そうだよ、もう何年も前の話だろ。今となってはいい友達同士じゃないのか?」
光「そうよ、神様がそう言っているんだからその通りよ。」
トゥーチ「何かあったら俺が何とかしてやるから安心しろって、な?」
何となく嫌な予感がした好美達は自分達で解決できると神の気持ちだけ受け取った、そんな中好美にはまだ疑問が一点。
好美「それにしても今日はカフェラッテじゃないんですね。」
光「あの子には3人乗れないからね、何となくだけどこっちにして正解だったわ。」
そうこうしているうちに3人の乗った軽バンが肉屋の駐車場に到着した、相も変わらず唐揚げなどの惣菜の良い匂いが・・・、増えていた。光と好美の2人にとっては懐かしく、そして古龍にとっては新鮮な料理の良い香りがしていた。どうやら守の提案で豚の生姜焼きを中心とした料理を売り始めた様だ、肉屋の中では惣菜用にショーケースが追加されていた。ほかほかの特製弁当まで数種類売り始めていたのでもう肉屋なのか惣菜屋なのか、はたまた弁当屋なのか分からなくなってしまっている。
そんな中、奥から店主のケデールが出て来た。最近羽振りが良いらしいのか、以前とは衣服が変わっている気がした。ただ物腰の低さは昔と変わっていないらしい。
ケデール「おや、光さんに好美さんじゃないですか。いらっしゃいませ、兄から話は聞いていますよ。そちらの方が神様ですか、お目に掛かれて光栄です。私、店主のケデールと申します。」
トゥーチ「トゥーチだ、御厨さんはいるか?」
ケデール「勿論、奥の豚舎にいますよ。呼んできましょうか?」
トゥーチ「いや、見学がてら俺が見に行くよ。」
ケデール「そうですか、ではこちらにどうぞ。」
店主は自ら店の奥へと3人を案内した、通路脇の部屋で数人のパートだと思われるエルフ達がお惣菜を作っているのが見えた。
ケデール「最近人気商品になった焼きビーフンを作っているみたいですね、唐揚げの次に売れているんですよ。本当、守君のお陰です。」
光「良い匂いですね、後で買っても良いですか?」
ケデール「勿論です、ありがとうございます。光さんの為に沢山ご用意させて頂きますね。」
そんな会話を交わしていると通路を抜け、加工場と何故か全く牛のいない牛舎を横切り豚舎へと到着した。中で守と御厨と思われる2人が豚達にやる餌を作っていた、自然素材に拘り一つひとつの工程を大事にだいじに行っている様子が伺えた。豚舎に豚は1匹もいない、どうやらこの店ではストレスを与えない為に豚も牛も放し飼いにしているらしい。
ケデール「守君、ちょっと良いか?」
守「はいはい、どうしま・・・、好美。」
好美「元気?相変わらずみたいね、何でも一生懸命やる所昔と変わってない。」
守「お前もだろ、やっぱりつなぎが良く似合っているよ。」
元恋人同士が何気ない会話を交わしている中、店主が御厨を神に紹介した。御厨は首にかけたタオルで汗を拭いながら寄って来た。
御厨「トゥーチ神様、ご足労おかけして申し訳ございません、本来私の方から出向くべきですのに。ニコフから話は聞きました、私なんかのレシピで宜しければ喜んでお教えしますよ。」
トゥーチ「いえいえ、私が言い出した事なので気にしないで下さい。」
光同様、美味いハヤシライスのレシピの持ち主である御厨に敬意を払う古龍。その表情は恍惚に満ちており、とても嬉しそうにしているのが伺えた。
御厨は丁度この日の夕飯の献立をハヤシライスにしようとしていたので作りながらレシピを説明する事にしたそうだ。
わくわくが止まらない古龍。




