89~90
大食い過ぎる女子高生達。
-89 餌やりと新たな招待客-
ハーフ・ヴァンパイアの一言に焦りの表情を見せる母親、自分の娘の腹の底が未だに見えない光は一気に酔いが冷めてしまった様だ。
自棄になってしまったのだろうか、辺りを見回して酒のお代わりを求めていた。店のオーナーも同様に感じていたので席に戻って一緒に呑む事にした、ただ主役が欲しがっていた石焼ビビンパの事はすっかり忘れてしまっている。
しかし問題はなかった、ピューアが酒が進んで石焼ビビンパの事はすっかり忘れてしまっていたからだ。
好美「助かりましたね、石鍋温めるの結構時間かかるんですよ。」
光「ただね、さっき追加したご飯も下手したら・・・、じゃない?」
好美「流石に20升はすぐに無くならないでしょう。」
心配する2人をよそにまだ飽き足らない女子高生達は釜の中の白飯をどんどん胃袋へと入れていく、今度はおかずが足らなくなって来た。
流石に美味しい物でもずっと食べていたら飽きて来るだろうと、流石に時間が解決してくれるだろうと待っていたのだが一向に2人の箸は止まらない。それどころかペースアップしている様に見える。
どうやら別席で焼肉をしながら2人の光景を見ていたナルリスが自分達の席に呼んで焼肉を食べさせていたらしい、飽きが来ないように予め味変を用意していたのだ。
焼肉のたれは甘口と辛口を用意しており、また塩だれに味噌だれまで。これは流石に飽きが来る訳が無い。
まさかの山葵まである、これはまた炊飯する必要があるのではなかろうか。
光「ナル、まだ食べさせる気?この2人どんだけ食べたか分かってんの?」
ナルリス「今日くらい良いじゃないか、祝いの席だぞ。」
光「だからって・・・、田んぼ何反分なの・・・。」
全てガイの田んぼで育った物(の『複製』)なので地元産、不味い訳が無い。しかも全て炊き立ての最高の状態だからなおさらだ。
黙々と食べる女子高生達は焼き肉のスタイルが違っていた。ガルナスはご飯にタレを付けた肉をバウンドさせるタイプ、対するメラは肉でご飯を巻くタイプであった。ただ共通して言える事として2人は20升分の白飯を我が物の様に取り合っている、その光景を楽しそうに吸血鬼が眺めて肴にしていた。日本酒の熱燗が入った盃を片手に笑い続けている、一応目の前の漬物をつまみながらだが殆ど必要なさそうな様子だ。
もう調理場で料理を作る気も起きなかった、やけくそになった光達は全て『作成』で新たな料理を出していた。流石にずっと中華が続いていたので次は和食料理、全席で皆が日本酒を呑んでいたので魚料理を中心に。
好美「私達も早く呑みましょう、一先ず鮪の刺身からで良いですか?」
即興で『作成』した魚を数種類並べてやけくそになった2人は改めて乾杯し、互いの盃に日本酒を注いだ。
光「はぁ・・・、やっぱり日本酒には魚よね。あ、鯖とホッケの塩焼きだ。食べたかったのよ。」
光の「鯖とホッケの塩焼き」という言葉を聞き逃さなかった女子高生2人が目を光らせてテーブルにやって来た、手には未だ箸と茶碗が。これは正直やらかしてしまっている。
急いで『複製』したので難を逃れたが、まだ安心して良いのか分からない。恐る恐る調理場を覗いたが天高く積まれた茶碗により好美は呆然とするしか無かった。
しかし日本酒で酔ってしまっていたのですぐにどうでも良くなってしまった、「まぁ何があっても大丈夫だろう」という気持ちの方が大きくなっていた。
一先ず塩焼きを数十人分『複製』しておいて女子高生達のテーブルに置いておく、その様子は「食事」というより「餌やり」。
「餌やり」を済ませた光は今日の主役やオーナーと合流して女子会を始めた、日本酒の大瓶がどんどん空いていく。後片付けの事を想像したくはないが、今はもうそんな事お構いなし。
光「いっその事あの2人にさせれば良いじゃない。」
それも考えたが今は酒が美味いからどうでも良い、塩焼きに飽きた好美は次の肴から味噌煮に切り替えていた。
それを目の当たりにした女子高生達は味噌煮でも白飯を食べていた、20升がなくなりそうだ。どっちメインか分からなくなったが主役はピューア、しかし皆気にしていない。
夜がどんどん更けていく中、どうやら新たな招待客が。ただ既に出来上がっているのでロックが外れている。
結愛「おいピューア、来てやったぞ。」
ピューア「こっちこっち、待ってたよ。」
-90 洗い物の事実-
時刻は23:30、結愛との再会を果たした主役の人魚はしっぽりと呑みだした。流石に呑みすぎたかと感じた客たちはピューアに一言告げて帰って行った、ただ未だ女子高生達は白飯を食べ続けている。
そんな中、まさかの厨房呑みをしていた好美と光は大量の食器類と対峙していた。こうなる事は予想していたが流石に食洗器だけでは追いつかない。
しかし心配は無用だった、ここは日本ではなく異世界なので異世界らしい解決方法がある。白飯をずっと食べ続けていた人魚の妹が指を1本動かして大きな水泡の様な物を出した、よく見てみるとスライムだ。
メラ「汚れならこの子が食べてくれますよ、放り込むだけでオッケーです。」
人魚特有の『メイクスライム』と言う魔法らしく、ダンラルタ王国に住む人魚族は大抵使えるらしい。ただ食洗器が気に入ったのか店での業務中にピューアが使わなかったので好美は初めて知った、かなり便利な物の様だ。
全ての洗い物を放り込まれたスライムは体内で汚れを消した(いや食べた)後、丁寧に乾燥まで終わらせて綺麗に皿を整理整頓して並べていた。
好美は正直このスライムを雇いたくなった、しかしその思いと裏腹にメラは魔法を解除してスライムを消してしまった。
好美「あ・・・。」
メラ「どうしました?」
好美「いや、別に大丈夫。」
今思えば自分には『作成』がある、早速『メイクスライム』を『作成』して見様見真似で指を動かしてみた。
指先から出始めたスライムがどんどん大きくなっていく、そして最大のサイズになった瞬間に指先から離れて独りでに汚れた皿を探していた。
幸い、未だ白飯を食べていた女子高生達が茶碗やおかずの皿を重ねていたので迷わずそっちの方へいったのだが。
メラ「このスライム、お姉ちゃんが出したの?」
話に夢中なのかメラの言葉はピューアの耳には届いていない、それどころか2人の会話の声量はどんどん大きくなっていく。
結愛「だろ?そんでうちの光明がよ・・・。」
ピューア「何それ馬鹿みたーい。」
メラ「お姉ちゃんたら・・・。」
ガルナス「良いじゃないの、誕生日位楽しませてあげようよ。」
好美は未だに首を傾げるメラの方へ近づいて行った、そろそろ自分がスライムを出した事を伝えるべきだと思ったからだ。
好美「ごめん、紛らわしい事して。私がスライムを出したの。」
メラ「あれ、好美さんって人魚でしたっけ・・・?」
好美「うん、がっつり人間!!」
メラ「どういう事ー・・・。」
意味が分からなくなったメラは白目になりその場に倒れてしまった、さり気なく人化が解けかけている。
ガルナス「しっかりして、こんなのよくある事じゃない。」
同級生のハーフ・ヴァンパイアは母親や祖母のお陰で慣れてしまっていた、ただメラにとっては初めての出来事な上に人魚特有魔法の『メイクスライム』を人間が自分の物の様に使っている。『作成』を目の前で見たので驚くのも無理も無い。
好美「ごめんごめん、落ち着いた?」
メラ「・・・、はい。」
受け取った水を飲んでようやく落ち着きを取り戻したメラは食事を再開した、まだ食欲が残っていて腹は減っているらしい。
何があってもどうでも良い様子で姉は呑み続けていた、先程の妹もそうなのだが正直言って人魚が魚を肴にしているので共食いになっている。
好美「お陰で楽に片づけできたよ、ありがとうね。これは私からのお礼だから食べて。」
好美は餃子数皿を差し出してメラに感謝した。
後日ピューアは好美に缶ビールを奢ったそうだ。