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ハヤシライスを羨ましがる女性とは。
-82 あの人-
ニコフが作ったハヤシライスの香りがそこら中に広がる厨房の出入口からやんわりとだが誰かの視線を感じた好美、少し怖くなりながらも目線を刺さる視線の方向にやるとそこにいたのは見覚えのある女性に少し似ていた。
好美はただ人違いだと失礼だからと一先ず軽く会釈を交わし食事へと戻った、すると出入口の方向から声が。
女性「ペプちゃん、先程から良い香りがすると思ったら何を食べているのかね。どれ、私も1杯もらおうか。」
ペプリ「お母・・・、様!!」
ニコフ「王妃様、これはこれは・・・。こちらはあくまで家庭料理ですので王妃様のお口には合わないかと思われますが。」
王妃「何を言っているの、私の舌には豪華な料理より家庭的な物の方が合う事を言ってなかったかい?」
聞き覚えのある声や口調なのだが、見た目が全くもって違うので好美は話を聞き流した。未だに出入口から覗き込む王妃は好美の方を向いて話しかけた。
王妃「それに好美ちゃんだって冷たいじゃないか、せめて一言あっても良いと思うんだけど。」
好美「王妃様恐れ入りますが、どこかでお会いしましたでしょうか?」
王妃「今更何言ってんだい、毎日会っているでしょう。」
好美「あの私・・・、王妃様の御顔を拝見させて頂いたのは初めてなのですが。」
王妃「あ・・・、そうか。ごめんね、この顔じゃ好美ちゃんでも分からないか。」
すると王妃は魔力で軽くメイクを施し、部屋着であるバスローブから着替えた。まさかのその姿に驚きを隠せない好美。
好美「嘘でしょ・・・、レーゼじゃない!!」
そう、カフェのウェイトレスで「コノミーマート」に納品を行うリッチのレーゼその人だったのだ。自ら軽トラを運転しておにぎりやサンドイッチを毎日納品しているあのレーゼがまさかのこの国の王妃。
好美は今までの自分が失礼な事をしでかしていないか必死に思い出そうとしていた、その様子から心境を察した王妃は優しく語り掛けた。
レーゼ「騙すような事して悪かったね、街にいる人たちの様子を同じ目線で伺いたかったからカフェのオーナーに無理言って働かせて貰ってたのさ。」
好美「本当にごめんなさい、申し訳ありません、いや申し訳ございません!!」
レーゼ「気にしないでよ、あたしも堅苦しいのは苦手だしこれからも一緒に仕事したいから今まで通りさせて頂戴な。」
好美「う・・・、うん。」
流石に抵抗を隠せなくなっているが数分したら気にならなくなってしまっていた、レーゼがバスローブ姿に戻っていた事も手伝っていた気がした。
ただ気になる事が1つ、ごくごく一般的な疑問。
好美「ところでレーゼ、ハヤシライス食べるのは良いけどバスローブ汚れない?」
レーゼ「そうだね・・・、どうしようか・・・。美味しそうだから是非食べたいしな・・・。ペプちゃん、あんたのそれ良いじゃない。」
ペプリ「お母ちゃん・・・!!私は良いけど一応王妃なんだからまずくないの?」
まさかの普段は「お母ちゃん呼び」だったという意外な事実、しかも王族とは決して思えない位庶民的であった。これこそ失礼だが正直、住んでいる家を間違っているのではないだろうか。
呆然としていた好美をよそに娘と同じ格好に一瞬で着替えた王妃、どんな格好もそつなく着こなしてしまう事が何よりも羨ましかった。
レーゼ「さてと、これで大丈夫だよね。ほら将軍長、私にも1杯頂戴な。」
ニコフ「か・・・、かしこまりました。」
皿に湯気の立つ熱々の白飯をよそって、ハヤシライスソースをたっぷりとかけた。レーゼは顔をニコニコさせながら嬉しそうに頬張っていた。
レーゼ「玉ねぎと牛肉がたっぷりで良いね、私気に入ったよ。」
ニコフ「恐れ入ります。」
王妃の様子を見た古龍達の腹の虫が再び鳴り響いた。
トゥーチ「おい将軍長、まだあるよな?」
どうやらハヤシライスにハマってしまった古龍達。