75
ナルリスの緊急事態。
-75 吸血鬼の失敗-
ダンラルタ王国にあるサービスエリアで女子高生達が屋台での買い食いを楽しんでいた同刻、ネフェテルサ王国の街はずれにあるレストランの調理場の端っこでオーナーシェフである吸血鬼のナルリス・グラム・ダルランは・・・、悪戯に失敗して落胆していた!!
ナルリス「どうしよう・・・、やらかしてしまったぁぁぁぁぁぁぁ!!」
実は先日、嫁の光に「少し変わっていてビールに合う豚肉料理を考えて欲しい」と頼まれて仕掛けておいたあの「豚ロースの生姜焼き風豚キムチ」をガルナスとメラの弁当に入れる予定だった「少し生姜多めの生姜焼き」と間違えて入れてしまったのだ。
2人共生姜味が好きな事を覚えていたのできっと白飯を空っぽにして帰って来るだろうと期待しながら仕掛けていたのだが、朝早くからの弁当作りで寝ぼけていた為タッパーを間違えてしまっていたらしい。
因みに事件が発覚したのは昼間、その日非番だった光は好美に「昼呑みしないか」と誘われていたので好美所有のビルの屋上に行った際、ナルリスの豚料理(焼く前)のタッパーを持参していた。しかし、いざ焼いた時にお世辞にも「少し変わっている」とは言えない「結構普通な感じのする生姜焼きの香り」がしたので光から「本当にこれなの?」と確認の『念話』があったのだ。
どう考えてもビールより白飯が欲しくなる香りと味だったが故に、違和感を覚えた光からの連絡を受けたナルリスはすぐさま魔力保冷庫内を見て初めて自らの間違いに気付いたのだった。
それから数時間後、今現在に至る。この時オーナーシェフはもう1つ思い出した事があった。
ナルリス「大丈夫だ、きっと大丈夫なはずだ。確か2人共辛い物が大好物だったはず・・・!!」
普段からガルナスが家であらゆる料理に一味唐辛子をかけて食べていた事を思い出した、魔学校にも「マイタバスコ」を持参して食堂の料理にもかけている事を聞いている。
友人の人魚で、今日一緒の弁当を持参して行ったメラも「マイ辣油」を持ち歩く程の辛い物好きだったはず・・・。
その上に、メラの辣油は一般的な赤い蓋の物ではなく黒い蓋の辛さがより一層強い物・・・。
吸血鬼はこの2点を思い出し、何とか自分を安心させようとしていた。しかし、落胆が酷過ぎてずっとパイプ椅子に座りこんで動かないでいる。
ナルリスの様子をずっとチラ見していた従業員達は・・・、非常に焦っていた!!
洋食中心のレストランの命とも言える「フォン・ド・ヴォー」と「デミグラスソース」が底を尽きかけていたのだ!!
店にはサブシェフとして人化していたケンタウロスのロリューを雇っていたのだが、全ての料理のベースとなるフォン・ド・ヴォーとデミグラスソースの作り方はナルリスが門外不出にしていて知らないと言うのだ。
ロリュー「ホワイトソースは十分に有るから日替わり定食のメインをクリームコロッケとホワイトシチューに変更したら何とかなりそうだけど・・・、まずいな・・・。」
実はこの日、ある上客からの予約が入っていてその客から「是非、煮込みハンバーグ・チーズ焼きグラタン風を食べたい」との要望があったのだ。
この料理にはナルリスの作るデミグラスソースが必須となる上、付け合わせのスープや注文が多いカレーとハヤシライスはフォン・ド・ヴォーが無いと作れない。
ナルリスを何とか説得して作って貰わないと上客の信用を失ってしまう、しかも客はデミグラスソースをかなり気に入って毎回来ているのだ。非常にまず過ぎる・・・。
焦るロリューの様子を見た副店長の宝田真希子は、急ぎ即興でスキルを『作成』して味のベースを繰り返し『複製』していた。ナルリスは決して望まないだろうが非常時だ、仕方がない。
ただ寸胴鍋ごと『複製』しているので、調理場中に寸胴鍋が散乱してしまっている。正直、足の踏み場もない。
一先ず『アイテムボックス』に寸胴鍋を押し込みながらフォン・ド・ヴォーとデミグラスソースをかき集め何とかした、いやするしかなかった。
オーナーシェフは未だ落胆しているし、予約の時間は刻々と迫っているので真希子は後ほど頭を下げる事にした。しかしその時・・・。
ガルナス「お父さーん、いるー?お弁当ありがとう、美味しかったよ!!」
ガルナスとメラが空の弁当箱を持ち店の調理場に入って来た、娘の声を聞いたナルリスは涙ぐみながらやっと顔を上げた。
ガルナス「ただい・・・、ま・・・。何で泣いてんの?」
ナルリス「2人共、すまんかった!!生姜焼きと間違えてお母さんのおつまみにする予定だった豚キムチを弁当に入れちゃったんだよ!!」
メラ「もしかして2段目のあれですか・・・、美味しかったから良いですよ。」
ナルリス「本・・・、当・・・?」
これで立ち直れるだろうか。