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ナルリスが思い出した過去と不安とは。
-56 吸血鬼の不安-
守と言う名前を聞いた瞬間に思わず笑顔をこぼす妻を見たヴァンパイアは、結婚前の光との日々を思い出していた。
恋人として付き合っていた頃は2人ともインドア派であった為、お互いの部屋で遊ぶことが多かったのだがその時大抵行われていたのが「プロレスごっこ」だった。
プロレスはおろか格闘技は全く興味が無かった光がたまたまテレビで見かけたプロレス技を見様見真似で一方的に仕掛けるというかなり理不尽な遊びだったのだ。
ナルリスは「いままで付き合っていた彼氏にも仕掛けていたんだろうな、何か可哀そうだ」と体に湿布を貼る度に思っていたのだが、このプロレスごっこの原点が守らしいのだ。
ナルリスが受けた時には少し上達していてマシになったと思われるものの、流石に「初めて」を受けた守の方がかなりのリスクがあっただろう。
正直、怖くないと言えば噓になるが話を聞いてみたい。結婚してから十数年経ったが最近もちょこちょこ襲われるのであくまで今後の対策の為に。
その時、空気を読んだのだろうか、渚が守を連れて『瞬間移動』して来た。守にとって初めての『瞬間移動』だったので到着した瞬間、目を塞いでいた。
それを良い事に光は久々にやる気スイッチが入ったらしく、とても楽しそうにしている。
夫が「この人が守さんか」と思った瞬間・・・。
光「守くぅ~ん、久々に楽しませて貰おうか・・・。」
守「その声は光姉ちゃん?!まずい!!」
屋外に逃げようとする守の腕をぐっと掴み、次々と独学で覚えたプロレス技を仕掛けていく。守は既にボロボロだった。
守「いたたたたたたたたたたたたたたた・・・・・・・・・・、ギブギブギブ!!」
渚「あんた、相変わらずだね。家が隣にあったからって毎日の様に技かけて遊んでいたもんね。」
守の家は幼馴染の家に挟まれていた、一方は普通に仲良く遊んでいた同級生の赤城 圭が住んでいた家で、もう一方は1つ先輩だった光や渚が住んでいたアパート。
光が2年で守達が1年だった当時、光は渚が仕事で留守にしていた間、鍵が掛かっていたので部屋に入る事が出来なかった為守の家で待たせて貰う事が多かった。ジャージを着ていた事が多かったが故に、それを利用して運動がてら行っていたのが例の「プロレスごっこ」の始まり。仕事を終えた渚はいつもこの光景を見ながら楽しそうに笑っていた、「高校生も子供、いつまでも子供は元気に遊ぶべし」が何よりのモットーだったからだ。
因みに、圭ともタッグを組んで技をかけていた事もあった。ほぼほぼ「遊び」の範疇を超えかけている。
しかし、守は心からこの「プロレスごっこ」を拒否していた訳では無かった。やはり幼馴染と言えど光と圭が女の子だったからだ。
渚「守君、あんた今もそうだけど昔から顔をニヤつかせていたもんね。このド変態。」
技をかけられた後の守は色んな意味で元気になっていたので、家事の手伝い含め色々とはかどったそうだ。
守「ありがたや~・・・。」
技をかけられる前は逃げる演技をしていたが、遊び終わった後は正直満更でもない表情をしていた。その光景はナルリスにとって決して参考にはならない。
渚「さてと、遊びはこれ位にしておいて。」
光「ん?どうした?」
渚「守君、あんた光に頼みがあったんじゃないかい?」
何かを思い出したかのように渚は守を促した、守はこの世界の事をほぼほぼ知らない。自分にも『作成』スキルがあった事は知っていたが、全然使用しない内にケデールの店で養豚の仕事を始めた。因みにギルドへの登録だけはちゃんと行っている。
守「光姉ちゃん・・・、スキルってのを教えてくれねぇか?」
光「何だ、そんな事か。」
決して鬼ではない光は所有していたスキル全てを守に『付与』し、使い方を直接頭に叩き込んだ。
守「ありがとう、何か色々と一気に流れ込んできたから出来るか分からないけどやってみるわ。とりあえずこの『作成』ってやつを使ってみるか。」
光「作りたいものを強く念じるんだよ。」
するとまた、いつもの様に目の前にはバランス栄養食が出て来た。
どうしてみんな同じ物を出したがるのだろうか。




