120
洞窟に潜入する直前・・・。
-120 潜入開始-
犯人グループの車が入って行った洞窟の入り口で渚にはどうしても気になる事が1点、ただ目の前にいる2人の鳥獣人族は何食わぬ表情を見せている。
渚「何でここに王宮の軍人さんがいるんだい?」
プニ「王宮と警察が連携しているから当然の事だろ、どっちかと言えば渚さんがここにいる事の方が不自然だぜ。」
確かに渚はこの世界では「ただの拉麵屋台の店主」、しかし今日を境に「(走り屋)」と言う言葉が追加された様だが。
渚「もしかしてさっきからあんたが電話していたのはこの人だったのかい?確かこの人もうちの常連さんだったね。」
王国軍、それも軍隊長の制服を着た鳥獣人族は汗を拭いながら丁寧に話した。
軍人「いつもお世話になってます、昔から性格の悪い妹といつも呑み明かしてすみません。」
プニ「一言余計だぞ、ムカリト兄。」
渚「あんたら兄妹だったのかい、驚くほど全く似てないねぇ・・・。」
ムカリト「何処にいても相変わらずですね、女将さん。」
渚「「お姉さん」だろ、どうやらあんたには教育が必要らしいね。」
プニとは種族が違うが同じ上級の鳥獣人族であるバルタンの兄、ムカリトは妹からの強めの肘鉄と渚からのビンタを喰らい痛がっていた。
一先ず3人は暗い洞窟に潜入を試みる、足音等がしない様に静かに行動した。先程入って行った犯人グループの車のテールランプやヘッドライトらしき光は全くもって見えない。
奥へと歩を進めていくと洞窟の道は二手に分かれていた、王国軍の軍隊長は1人で、そして渚と警部は2人で奥へと進んでいく。
さり気なく渚がムカリトに『念話』を『付与』する、これで何があっても安心なのだがバルタンは気付いていないようだ。
ムカリト「あの・・・、どうされました?」
渚「いや、気にしないでおくれ。早く車を探しに行こう。」
歩を進めていくが未だに先程の怪しい車は見えない、「車」という言葉を聞いたプニは不意にとある事を考えた。今思えば洞窟の出入口を渚のエボⅢが塞いでいる、犯人グループを逃がさない様にとの配慮らしいが。
プニ「渚さん・・・、車壊されねぇかな・・・。」
渚「大丈夫大丈夫、あいつ『加護』付きだから。」
実は少し前に「一柱の神」セリー・ラルーに「辛辛焼きそば」の作り方を教えた事があったのだが、そのお礼にと渚自身とエボⅢに各々『加護』を付けてくれていたのだ。多分「交通安全祈願として」だと思われるが渚は気にしていなかった、というより以前『加護』を付けて貰っていたような気がするが普段ステータス画面を見ないのでその事も既に忘れている。
プニ「車に『加護』って付くんだ・・・。」
初めて聞いた真実に驚きを隠せないプニ、一先ず奥までの歩を進めていくと先程別れた兄と合流した。どうやら二手に分かれていたのは1部分だけだったらしい。
そんな中、3人は洞窟の奥にある開けた広場らしき場所へと辿り着いた。犯人グループの車やプレハブの建物がライトで照らされている。
3人は息を潜めて岩陰に隠れた。
ムカリト「あそこらしいですね・・・。」
プニ「どうするよ、ムカリト兄。」
犯人グループは全員プレハブの中にいるらしく、3人に気付いていない。
渚「逮捕するにしろ、まず証拠を掴まないとじゃないかい?そう言えばあいつらは何をしたんだい?」
ムカリト「えっ、何も知らずについて来たんですか?」
偶然とはいえ、ついつい勢いで愛車を取り出して事件の捜査に協力し始めた渚と違い、鳥獣人族の兄妹は先程の電話も含めて普段から情報交換をしているので、軍隊長は犯人達が下級魔獣やミスリル鉱石の入った麻袋を運んでいる事を知っていた。
渚「まぁ、あんたらが知っているんだろ?なら大丈夫だ。」
プニ「相も変わらず気楽だなぁ・・・。」
どこでも渚は「自分」を忘れない。