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食への探求心が生まれ始めた好美。


-⑩ 幸せへの道の一歩-


 好美の驚きの言葉を聞き、結愛は改まった様子で小皿を取り出して好美が齧った部分を切り落とすと残りの山葵の皮を剥き始め、次はおろし金で擦り始めた。

 少量擦ると小皿に盛り付けまた好美に差し出した。


結愛「ほら、これならどうだ?」

好美「う・・・、うん。あっ、今度は辛い!!」


 そう、山葵はすりおろす事で細胞が破壊され細胞内に存在する「シニグリン」が細胞内の「ミロシナーゼ」という酵素と反応する事により、辛み成分である「アリルイソチオシアネート」が生成されて辛くなるものなのだ。結愛自身はここまで詳しく知らなかったのだが、擦る事によって辛くなる事を知っている事を自慢したかったらしい。


好美「こんなの初めてだ・・・。」


 改めて驚く好美に遠くから光が声を掛けた、そう言えばずっと良い匂いがするのに全然肉を食べていない。


光「好美ちゃん、焼けてるよ!!早くおいで!!」

好美「えっ、うそ!!行きます行きます!!」


 好美は駆け足で光の下へと向かい、肉汁がたっぷりと滴る焼きたての肉の串を1本受け取ると勢いよく齧り付いた。口の中で一瞬にして儚く消えてしまった肉が好美の涙を誘い、また一口また一口と食を進めさせた。シンプルに塩胡椒のみで味付けしているのに十分すぎる味わいを見せつける肉達により、好美はビールが止まらなかった。

 横でずっと山葵を擦り続けていた結愛がやっと作業を終わらせ、擦りたての山葵を好みの方に持って来ると肉に少し乗せた。


好美「えっ、何してんの?」

結愛「何って山葵乗せてんじゃねぇか。」


 恐る恐る山葵の乗った肉を一口食べるとピリッとした辛さとほのかな甘みが広がり咀嚼が止まらなくなってしまった。

 次は渚特製のタレで食べてみる事に、これは果物の甘みを活かすべく余計な物を入れずシンプルに仕上げた光のお気に入りだ。

 このタレに付けた肉により欲しくなって来た者が1つ、そう白飯だ。屋外に設置している光特製の釜で丁度炊き上がっていた。

 好美は薄めで面積のある焼肉で白飯を巻くのが大好きだった、いつも通り行うと濃いタレにより肉1枚で茶碗の半分が消えてしまった。

 次の肉を同様にタレにつけると、キムチを乗せサンチュに巻いて食べた。瑞々しくパリパリとしたサンチュと溶ける様な食感の肉が、好美の舌を楽しませた。

 そんな中、渚のスマホが鳴った。相手は渚の屋台の店主、シューゴだった。話し声から渚の貫禄を感じた。


渚「何だい?今日は営業終了のはずだろ?え、明日?話って何だい?分かったよ、んじゃいつも通り明日お店ね、一秀さんも来るんだろ?分かったよ。」

光「シューゴさん、何て?」

渚「何か話があるんだって、折角の酔いが醒めちまったさ。渚、呑みなおそう。ビール持って来て。」

光「はいはい。」


 渚は職場以外で仕事の話をする事を極端に嫌った、しかしそれも承知で電話を掛けて来たんだと思った。

 気分を悪くした渚はヤケ酒の様に渡されたビールを一気飲みし、焼けた串付きフランクに大口で齧り付いた。

 パキっと皮が破れると、肉汁が溢れ渚の顔を緩ませた。


渚「あいつ・・・、あんまり電話してくんなって言ってんの・・・、に・・・、何でこれはいつ食べても美味しいのかね。何も付けなくてもいいのが魅力的なんだよね。」

光「お母さん、何独り言ずっと言ってんの。それに顔緩んでるよ。」

渚「そんな訳ないだろ、私の顔が緩んでいる訳・・・、あら本当だね。」


 光の差し出した手鏡を見て「お笑い怪獣」の名で有名なあの大物芸能人の様なボケを繰り出した。漫才の様な光景に好美は笑いが止まらなかった、そんな中好美の口座に大量の振り込みがあったとの事なので確認すると莫大な金額が一括して入金されていた。どうやらマンションの住民達から初期費用が支払われた様だ。

 不動産屋からの連絡によると、何のクレームも無く皆快適そうに各々の暮らしを始めているらしく好美は安心して食事を再開した。もう働かなくても良い位だ。しかし働かないと怪しまれるかもだから、一応職は持っておいた方が良いと光に言われたのでその通りにして、今は目の前の肉と酒を楽しむ事にした。


好美の本格的な異世界生活が始まろうとしていた。

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