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お互いの事情

一部加筆修正しました。

 


「俺は別に構わないんだけど」

「本当に大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

「…そうか、でも必要になったら気兼ねなく言ってくれよ」



 レイティアに心配そうな顔を向ける彼は優しい人なのだろう。これまでの経緯といい本当に感謝しかない。



「じゃあ、ま、自己紹介でもするか。今更ながらお互い名前も知らないだろ?」

「そうですね!こんなにご迷惑お掛けしているのに、失礼致しました」

「いや、あの状況じゃ無理だろ。まぁ、気にすんなよ!それで俺はカインだ。あんたが言うようにいちおう騎士だ。」



 カインは彼女にどこまで真実を話すか決めかねていた。



「カイン様とお呼びさせて下さいね。カイン様、この度は大変お世話になりました。私、レイティア・ゴードリックと申します。私もいちおう…公爵令嬢です」



 遂にお互い名乗り終えたが、彼女がカインの想定よりも更に高位貴族だったのでさすがに驚いた。普通の公爵令嬢は夜の街を独りで走らないだろう。だが高価な持ち物、気品溢れる美しさ、礼儀正しさ、そういったものは確かに公爵令嬢と聞いて納得出来るものだった。



 ―公爵令嬢とは驚いたな!だが、王国に公爵家は2家門しかないはずで…そのうちゴードリック家といえば…―



「ちょっと待てよ!?ゴードリック家と言えば未来の王太子妃がいるんじゃないか?来週の式典にも王太子の婚約者として共に出席すると聞いてるぞ!」

「…そうです。それが私です。」



 レイティア嬢が王太子の婚約者と聞いて、カインの胸の内がザワザワする。この感情はなんなのか。自分の巻き起こした、事の大きさに動揺しているのかもしれない。



「…俺は未来の王太子妃を黙って連れ出したのか!なんてこったっ!」

「いいえ、そうではないんです。先日までならそうだったでしょうが、昨夜は違います」

「どういう意味だ?」

「あの、説明するのもお恥ずかしいのですが…。昨夜、婚約破棄されました。」

「へ、へぇー、そうなんだ。それは前もって決まっていたってことか?」

「昨日、突然宣言されました。王太子殿下自ら宣言したのですし、私も了承致しました。」



 ゴードリック家の令嬢が王太子の婚約者だということは、近隣諸国の重要職クラスには知られている事実だ。幼い頃からの婚約関係だと聞き及ぶ。それを式典開催直前に破棄するとは、一体どういった思惑があったのだろうか。



「…これ以上俺が聞いていい話なのか分からないんだが…とにかく大変だったんだな」



 レイティアはニコリと微笑む。



「大変なのはこの後です、カイン様。王太子殿下は夜会のパーティーで突然婚約破棄を言い放って、自身の隣には別の令嬢を置いておいででした。」

「はぁー?!どんだけ…いやこれ以上は不敬になるが…」

「フフッ。私はもう気にしませんので、ご自由に。とにかく殿下は婚約破棄を宣言して、その後に自身の隣にいる令嬢を私が虐げたとして罪を着せようとしておりました」



 昨日からカインの想定外の事ばかり起こるが、さらに常識外のことも起こっていたようだ。



「おいおい!!マジかよ!その、失礼だとは思うが一応聞かせて貰うと、虐げたってのは…」

「全くの事実無根なんです。そのご令嬢とは数回ご挨拶した程度の関係でしかありません。それで罪って言われても、困りますよねー。ハハッ」



 レイティアは渇いた笑いを見せる。もはや達観した表情とも言えるが。



「突然王太子が気分か何かで婚約破棄を宣言して、許される国なのか?」

「許されるのでしょう?私は破棄されましたから。それどころか身に覚えが無い罪で捕らえられるところだったので、逃げることにしたんです。」

「それで、逃げているところに追っ手がかかってって話か」

「…そういう事だったんです」



 ―政治的思惑とかなんか色々あるのかもしれないが、王太子はクズ野郎だ!!―



事情を聞く内に、レイティアとわずかに関わっただけのカインだったが王太子への強い憤りを覚えたのだった。







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