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目覚め

 


 ―喉が渇いたわ…―


 水が飲みたいと思いながら、レイティアはぼんやりと目を覚ました。酷く身体が怠くて、あまり動きたくない。じわじわと思考が覚醒してくると、ここが家では無いことに気付いた。



 天井に何の装飾もないし、寝具もゴワゴワしていまいちだ。ここは一体何処なのか?



「起きたか?」



 自分以外の人間がいたことに驚き、声の方を見ると黒髪の騎士が心配そうな顔でこちらを見ている。



 ―この騎士は誰?私はなぜこの人とここに?―



 一瞬、逡巡したのちレイティアの記憶が舞い戻ってきた。



 ―そうだった!昨日私はミハイル殿下に断罪されかけて、逃走を図ってその後に追っ手が来たところで…!―



「キャーーーーッ!」



 拐われて、その男と同じ部屋に泊まっている事実にレイティアは恐怖した。もちろん勝手な勘違いな訳だが。



 カインは彼女が目覚めて安堵した一方、やはり起こった面倒な事態に自身の一連の行動を反省するのだった。そして、一足飛びにベッドへ駆け寄りレイティアの口を軽く塞いだ。



「た、頼むから大きな声は出さないでくれ。信じられないかもしれないけど、俺はあんたを拐ってない!あんたが倒れたから部屋を貸して休ませてただけなんだ!」



 身体が震える程に怯えていたレイティアだが、彼の言葉に真実味を感じ取りひとまず騒ぐことは止めた。



 カインは静かになった彼女の口からゆっくりと手を離すと、両手を上げて訴える。



「俺があんたを拐ってないのは信じて貰えた?」



 レイティアはコクリと頷く。ゆっくりと思い出してみれば、彼はレイティアに一度も危害を加えていなかった。ただ、行動が色々と理解不能だっただけだ。



「はぁー…。静かになって貰えて助かったよ。とりあえずお互い少し落ち着いて話をしないか?」

「えぇ…あの、大変申し訳無いのですが…。水を一杯頂けると助かります」

「あぁ!気が利かなくてすまない!今持ってく」


 部屋には既に水とグラスが用意してあったようで、それをサイドテーブルに置いてくれる。



「すいません。ありがとうございます」



 ゆっくりと身体を起こすと、グラスに水を入れ一口飲む。わずかに冷えていておいしい。考えてみれば、昨夜から飲まず食わずだったのだ。甘露にも感じられる水を、気付けば全部飲み干していた。これでやっと落ち着いて話が出来そうだ。



「大丈夫そうか?少しは落ち着いたみたいだな」



 カインは心底ほっとして、椅子に腰掛ける。



「まずは何から話そうか?お互い色々複雑そうだけどさ。っとその前に、身体は痛くないか?昨日あんたが寝てる間に、軽い治癒魔法は掛けておいたんだ。勝手にすまないな」

「魔法がお使いになれるのですね。治療までしていただいてありがとうございます。痛みは…無いようです。少し怠い感じはありますが問題ありませんので」

「怠い…そうだな。もう一度治癒魔法かけとくか」

「いいえ、それは止めてください。貴重な魔力を私に何度も使うなんて」



 魔法が存在するこの世界だが、万人が使える訳ではない。この王国では、大体が貴族などの血統に多く見られる。もちろん庶民でも魔力を持つものもいるが、どちらかといえば稀である。



 魔力の発現条件はまだ完全に解析されていないのでハッキリとは分かっていないが、魔力を持つもの同士の子供の方が発現しやすいと思われている。だが、魔力を持つ貴族の両親から生まれた子供でも魔力が全く無い場合もある。



 それだけに大きな魔力で攻撃魔法や治癒魔法など、使い勝手の良い魔法が使える場合は特に貴重で重宝される為功績を挙げやすいという事情もあるのだ。



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