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任務の範囲外

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「…やっちまった…!!」



 宿泊している宿屋の2階で、黒いマントの男が1人煩悶している。



「どーしてこーなった…!?」



 フードを下ろし、黒髪をかきあげながらガリガリと頭を掻く。本来ならば今頃宵闇に紛れて、任務へと赴く時間だった。しかし今の彼にはそれが出来ない。チラリとベッドを見る。いつもなら自分が寝ているそれに、横たわる人物がいるのだ。



「…ハァー」



 寝ていてすら絶世の美女というオーラがある。プラチナブロンドの長い髪はキラキラ輝く絹糸のようだし、陶器ような白い肌、小さな顔、艶やかな唇、ほっそりとしてけれど女性らしい体つき。今は見えないが、大きくてパッチリとした瞳は紫色で宝石のように煌めいていた。つまりはとても美しい少女が自分の使っているベッドで寝ているということだ。ボロボロのドレスを身に纏っているが、それがまた色っぽくも見えてしまう。




―そもそも宿まで連れてくる予定なんて全く無かったんだよ!―



 彼の名はカイン。シューベル王国の隣国であるステイトス帝国から、とある極秘任務でやって来ている。名目上は、帝国騎士団の一員として第一皇子殿下の護衛騎士。1週間後に行われる王太子殿下の誕生祝賀式典に参加し、第一皇子殿下の護衛に就く。



 だがカインは、それまでの間に所謂諜報活動に勤しむ事になっていた。昼間に護衛騎士として任務に就くこともあるが、それが無ければ基本的には夜の活動が主だった。



 最近の王国内はなにやらきな臭い動きがありそうだということで、かなり慎重に探らなければと思っていたのだか。任務中気配を消していたのになぜか突然令嬢にぶち当たられ、衝撃と共に二重の追っ手まで付いてきて。


 ついつい巻き込まれてゴロツキまで倒してしまった。慎重どころか存在を盛大に披露しそうになって、撤退してきたという訳である。但し令嬢も一緒に。



「なんでだよ!」



 自分に突っ込みたくもなる。初めから無視して1人で撤退すれば良かったのだ。ぶつかられたのは予想外だったが、その他の出来事は自分に無関係なのだから。



 けれどぶつかった時彼女はボロボロで傷だらけの自分より、カインの方を気に掛けてくれた。カインの事を、自分を捕えに来た騎士だと思いながら失礼な態度も取らなかった。彼女は美しかったが、それよりもその小さな優しさが胸に引っ掛かりそのままにしておけなくなったのだった。



 とはいえ当たり前だが拐うつもりは全く無く、追っ手からある程度引き離したらあとは別れるつもりだったのだ。だが彼女が気を失ってしまい、そのままどこかに置き去りにするには、状況も彼女の見た目も問題ありまくりだったので結局今に至っている。何も言わずに、屋根まで飛び上がったのが悪かったのだろうか。



―もう一度言おう…―

「どうしてこうなった!」



 彼女がいつ目を覚ますかも分からないし、目覚めたときに騒ぎを起こしたらそれもまたまずい。どうしたものかと考えて身動きを取れずにいたら、夜は白々と明け始めたのであった。



 諜報活動に関しては定刻通りの仕事ではないので、報告の時間は決まっていない為どうにかなるだろう。ただ彼女の存在を伝えるべきか隠すべきか。更には彼女自身が何者なのか、カインは未だ分からないのでそちらも調べるべきか。悩ましいところだ。



 身に付けているものを見ればかなりの値の張る品だかりだ。普通の貴族ではなく、高位貴族と見るべきだろう。それに追っ手がかかっていたという点もなかなかに複雑だ。



「悪い子には見えなかったけどな…」



 カインはポツリと呟いた。








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