和やかな時間
ヘンリーのジョシュア制止作戦は功を奏したようだった。
「そうだよな、前も何となくついていっただけって言ってたけど。その後…」
「気が付いたら雰囲気で有り金全部掛けてて、スっちゃったー。掛ける気無かったのに、楽しそうな雰囲気に弱いんだよねー」
「武術大会も開催してると吸い寄せられるよね」
「盛り上がってると思うとつい参加したくなるんだよー」
レイティアが興味を持って聞いていたのは競馬場の話だったのが、ジョシュアの話に逸れていく。ジョシュアは一癖ある人物のようだが、やはり様々な逸話があるのだろう。モーリス曰く。
「その性格が大会では良い作用になって、実力以上の力が出るんだ。周りの雰囲気など関係無くあの実力を出せるようになれ」
「うわっヒドッ!俺だって頑張ってるんだよー」
「うんうん、そうだな。ジョシュアは頑張ってるよ!大会では良い成績も出してるし、任務も成功続いてるしきっと評価してもらってるよ」
趣旨は変わってきたが、盛り上ってる会話についカインものってしまった。
「…お前達本当に良いコンビだな。うちの部隊じゃ常にコンビで動くなんて無いのに、なんでそんなに息ピッタリなんだ?」
「仲良しだからー」
「…ジョシュアとは同期でして。腕は立つけど、こんな感じのヤツなんで周りと噛み合わない時が多かったんですよね。そこをフォローしている内に、自然に今みたいにコンビとして認識されてきちゃって…」
どうやらヘンリーはその人柄によって、要らぬ苦労…まぁ要らぬお世話をしてきたようだ。色々な所でジョシュアのお世話をしているらしい。
「ヘンリーはいつも色々教えてくれるんだー」
「…それであんまりにもジョシュアとコンビと思われ過ぎて、最近騎士寮の部屋まで相部屋にされました…」
「良いやつ過ぎる…不憫な」
「辛い時はちゃんと言うんだぞ」
「元々の相部屋のヤツも悪いヤツじゃないんですよ。ただジョシュアがマイペース過ぎて。でも俺も嫌ではないんで大丈夫です。相部屋だとジョシュアの剣の強さの秘訣とか盗めるかも知れないし!」
プラス思考というのか、ただのお人好しなのか。とにかくヘンリーは嫌々でも無いらしい。
「そんなの無いってー。それに、ヘンリーは剣はなんか頑張らないでー」
「くぅ…、俺の実力が無いばっかりに…」
「それは違うぞ。ヘンリーの良さは剣以外にもあるっていう意味だろう。お前は街に溶け込むのが上手い。気配も消せるし、馴染むことも出来るんだ。それに、対象の警戒も緩みやすいな。それは他の誰でもないお前だけの特技だ。ジョシュアなんて、違う街に入ってみろ。一発で住人に警戒されるくらい浮くんだぞ」
「それひどくないー!」
「第三部隊にいる以上、一定レベルを超えた実力がある。努力するのは良いことだか、無い物ねだりをして自分の価値を見出だせないのは虚しいからな」
カインの言葉に強い共感を覚えたレイティアは、思わず会話に割って入っていた。自分への言葉のように感じたのだ。
「そうですね…。自分の事は、自分が一番に認めてあげないと悲しいですよね。私もそう思います!」
「…誰しもが違った個性でいいのです」
「「「エドワード?!」」」
昨日から行動を共にしていたが、口数が少ない騎士の一言だった。レイティアはエドワードというこの騎士を、とても真面目な人として認識していた。というのも、任務以外の話は無いしその会話ですら必要最低限だったからだ。かといって悪い印象も無かった。少ない会話の中に、きちんと必要な言葉が入っていたからだ。任務に忠実で丁寧な人として受け止めていた。
仲間達にとってもそうだろうと思うのだが、何だが随分ざわついている。




