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 ―俺は何を言っているんだ!?隊の皆の前なのに!でもあまりにも暗い顔のレイティア嬢を見たら、声を掛けずにいられなかったんだよ…―



 カインは心の中で煩悶していた。仲間達が見ている前で、いつもと違う自分を出すことが恥ずかしかったからだ。でもレイティア嬢は今落ち込んでいるのだから、後からでなく今励ますべきだと思ったのだ。護衛という立場だが、共に旅する仲間でもあるとカインは思っている。これぐらいしてあげたいのだ。



 するとそんなカインの気持ちを、まさかのジョシュアが汲み取ったのかレイティアに声を掛けた。



「アウルはー、帝国の食べ物何が好きー?」

「た、食べ物ですか?えっとフルーツは美味しくて有名ですよね?桃とか好きです」

「桃、俺も好きー。あとねー、美味しいパン屋が多いんだよー。クリームたっぷりなので有名ー」

「そうなんですね。それは初めて聞きました!」



 ジョシュアがきっかけを作ってくれたので、他の皆もレイティアに話し掛ける。カインの必死さが伝わったらしい。



「フルーツもいいが、海の幸もなかなかいけるんだ」

「そうですよね、そちらも有名ですね!こちらではあまり口にする機会はないものもありますよね」

「そうだな、運搬に時間が掛かると海のものはダメになっちまうからなぁ」



 モーリスはいかにも武骨な騎士といった風貌なのだが、話してみると意外にも親しみやすい感じなのだ。顔は合わせていなかったが、モーリスもレイティアが宿屋にいた時から任務で来ていたので気に掛けてくれてはいたようだ。



 いざ脱出、もしくは亡命といったこのタイミングで美味しい食べ物の話なんてしている場合では無いと思うのだが、皆がレイティアを気遣ってくれていた。



 騎士達は、命をやり取りするようなヒリヒリした緊張感に慣れている。だが貴族令嬢であるレイティアは、今まで危機の中に身を投じたことは無い。それがいまや、明日をもしれぬ身になっている。貴族令嬢とは思えない行動力や発想力で忘れがちだが、レイティアは普通の女性なのだ。たまに気持ちが落ち込むことくらい、当たり前のことと言える。今までが特殊な状況過ぎて、そこまで思い至らなかったのだ。



 カインは改めて、自分の配慮が足りなかったのではと反省していた。



 ―そうだった。どんなにしっかりしていようが、見目麗しくてもまだ十代の令嬢なんだ。なのに国や家族を離れるんだから、落ち込みもするよな―



 レイティアの落ち込みが若干方向性が違ってとらえられていたが、レイティアには知りようが無かった。とにかくカインも楽しい雰囲気になるようにという配慮から、会話に参加した。



「帝国は食べ物も美味しいが、観光も楽しめるんだ。大きな競馬場なんかもあって、週末の首都は結構盛り上がるんだよ」

「あぁ、噂は良く聞いていました。皆、帝国に行ったらいくら勝ったとか負けたとかよく言ってます。楽しそうだなぁって思ってました」



 その会話へジョシュアが割り込む。他の騎士達はヒヤヒヤしている。



「すっごいおっきい建物なんだよー。建物の中には美味しい食べ物も売ってるし、貴賓室もあるからゆっくり観ることも出来るんだー。今度連れていってあげるー」

「そうなんですか?そういった施設が王国には無いので、全然想像がつかないんです。すごく行きたくなりました!」

「ジョシュア、お前賭け事からっきしダメじゃなかったか?確か前も付き添いで行って、弾みで一月分の給料吹っ飛んだって言ってたよな?!」



 歳の近いヘンリーが空気を読んで、ジョシュアの提案を止めに掛かる。



「そうだったよ、ヘンリー…。俺全然ダメなの忘れてた…」







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