いよいよ
昨夜はカインと散歩に出て、少し気分転換出来たらしい。身体には若干の疲労も残ってはいたが、思っていた程辛くはなかったようだ。
―カイン様に教えて頂いて、マッサージしたお陰かしら?この街に着いた時はどうなることかと思ったけど、この状態なら皆さんにそれ程迷惑を掛けずに旅を続けられそうかも―
順調にいけば、今日か明日中に帝国領に入れるはずと聞いていた。レイティアは全員の無事と旅の安全を心から祈るのだった。
「よし、出発しよう!」
朝もまだ早い時間だが、出発するらしい。状況が刻一刻と変化していくので、これ以上複雑化する前に帝国に入りたいということのようだ。元々のんびりと旅していたわけではないので、誰も気にしてはいないが。
建前上は、帝国に発生した魔獣討伐の為の緊急招集となっている。不自然ではない程度に急いで国境へと向かう。
街を出る時は人々が朝の活動を初めだしていたが、特に異常は無く出発した。
―遂に王国を出るのね。今まで王国から出たことは無かったのに、こんな状況になって他の国に行けることになるなんて。分からないものね…。ここまで追い詰められて国を出る事になるなら、行きたいと思った時にとっとと出てれば良かったな…―
考えても栓無いことだが、レイティアは自分の必死に努力してきた事は何だったのかと改めて思わずにいられなかった。そんなことを考えながら馬を駆けさせていたら、隣にカインが並走してきた。
「大丈夫か、アウル?随分表情が暗いんだが、やっぱり身体がキツかったか?無理させてすまないな…」
カインは出会った時から、常にレイティアを気遣ってくれる。あの時にレイティアの事など気にせずに立ち去れば、巻き込まれて帝国にとんぼ返りなどせずに今頃式典の護衛任務など華やかな仕事に就けていたかもしれない。本当に申し訳無い限りだ。
「いいえ。体調は特に問題ないです。ありがとうございます、カイン。昨夜しっかりマッサージしてみたら、身体はかなり楽になったんです!」
「そうか!たかがマッサージだけど、やってみると意外に効くもんだろ?アウルにも効いたなら良かった。けど、じゃあなんでそんな表情なんだ?」
レイティアはどう答えるか悩んで、口ごもった。
「ええっと…。あの…」
「無理して言わなくてもいいんだ。すまない」
「いえ、違うんです。言いたくないとかではないんですけど、説明が難しくて…。しいて言うなら、過去の自分を思い出してモヤモヤ黒い気持ちが沸いてきたとでも言いましょうか…」
「モヤモヤが…」
「ええ、モヤモヤが」
「沸いてきた…」
「そうです」
今度はカインが困ったような顔になってしまった。何となくそうなりそうな気がしたから、話さずにおこうと思っていたのだが。レイティアの想像通りになってしまったようだ。
「すいません、やはりお話しなければ良かったですね…折角昨日もお散歩に連れていって貰ったのに」
「いや、違うんだ。話してもらって良かったんだが、俺がそれに答えられないのが申し訳無いなと思ったんだよ」
「まさか!そんなカインが申し訳無いなんて思う必要は無いです!私の個人的な感情の話ですから」
「そうだな、個人の感情は自由なものだ。楽しいことも辛いことも思い出すことがあるだろう。俺はアウルの過去に干渉することは出来ない。でも、アウルが楽しくないことを思い出しているならば、こういうのはどうだ?楽しい未来を想像するんだ」
カインは優しい微笑みを浮かべ、アウルを見た。それを見たアウルは少しほっとした気分になれた。そして常日頃第三部隊の副隊長としての厳しい顔ばかり見ている同僚達は、驚いたり笑いそうになったりと大変だったが必死でこらえていた。




