夜の街で
宙に飛ぶカインの腕の中でレイティアは必死に訴える。
「…カ、カイン様!こういう散歩をする時は、事前に教えて下さい!」
「教えただろ?」
「それはそうですけど、でも違うっていうか…!」
「出掛けるぞ?」
結局何を言ってもこのスタイルにしかならないような気がして、レイティアは諦めた。
「…はい」
「この街は王都に比べると大分寂しいからな。丁度良さげな所があるといいんだが」
「でも私はこの街の雰囲気も好きですよ。程々の賑わいがあって、騒がしすぎない感じが良いです」
「まぁそうとも言えるかな。あ、あの家の屋根はどうだろう?」
「あの家は…座りやすそうな屋根ですね!」
「じゃあ、あそこにしてみるか」
レイティアもよその家の屋根を見て、座りやすいか品定め出来るようになってしまった。そんなことは今まで考えたことも無かったのに、色々経験してみるものである。カインは見定めた緑の屋根の家に着地した。
「ありがとうございます。やっぱり座りやすいです。隣に煙突があるので、掴んでいればかなり安定感も上がります」
「大丈夫そうなら良かった。じゃあ、俺も座ろう。部屋の中でも良かったが、折角だから外が見たいんじゃないかと思ったんだ。急にすまなかったな」
「いえ、気遣っていただきありがとうございます。色々な街を見て歩く事が今まで無かったので、こういう時間がとても嬉しいです」
「そうか。それならいいんだ。重い話題の前に、少しでも楽しい気持ちになってもらえたなら。…それで申し訳無い、本題なんだが王太子に新しい動きがあったと連絡が来た。」
カインは先程同僚達に話した内容をレイティアにも話した。勿論同僚に話した時より言葉は選んでいるが、似たようなものではあった。そしてレイティアは、話を聞いて思っていたより深刻そうな顔で考え込んでいた。カインはそこまで重く受け止められるとは思っていなかったので、少し驚いた。どの部分がそこまで深刻な問題なのだろうか。
「聖女って何ですか?」
「え?いや、聖魔法が使えて奇跡を起こしたり、人を助けたり慈愛の心に満ち溢れて…」
出てきた言葉があまりにも意外過ぎる。カインから見ても博識なレイティアが、一体どうしたというのか。
「ですよね?そしておそらく教会などに認定されて、とかの流れですよね?」
「そうじゃないか?少なくとも帝国で稀に誕生する聖女はそんな感じだな」
「ここシューベル王国は、多神教の国なんです。唯一無二の神様はいない。上級神というくくりはありますが、神の数だけ教会や神殿があるんです。だから、一つの神の神託や予言が出たからと言って国が諸手を挙げて聖女認定する程教会側に力がないんです」
やはり当然というか、レイティアは聖女を知らない訳ではなかったらしい。もっと広い定義での聖女について考えていたらしい。
「力が分散してしまっているということか」
「そういうことになりますね。そして数ある教会の中に、実は聖魔法を使える乙女が遣えている場合もあります。魔力の大小もありますし、公表していないこともあります。つまり聖女と国が認定していないだけで、聖女のような存在はだいたいいつもいるのです」
「はぁー、所変わればなんとやらとは言うが。随分違うもんなんだな」
帝国での聖女イメージで言うと、圧倒的な魔力を持ち聖魔法を使う。現れてしまえば誰も隠すことは出来ないくらいの魔力で、魔法を使うようになる頃には自然と国が保護する流れになるのだ。




