考えてみれば
宿屋の女子用の浴場に来たレイティアだったが、誰かと鉢合わせないかドキドキしていた。変装しているので少しでも他人と関わらないようにと、ひっそりと入ろうと思っていたがそもそも誰も居なかったので助かった。
しばらく様子を見ながら入っていたが、人が来る気配は全く無かったのでかつらを取って素早く髪も洗った。
逃走生活に入って数日たつが、レイティアが想像していた辛く苦しい旅とは全く違って来ていて。それはひとえにカインと出会って帝国の人々のサポートを受けられているお陰だ。
カインと出会わなければ、あの夜に捕らえられて公爵家に連絡を取ることも出来ずそのまま処罰されていたことだろう。
数々の偶然が重なって、逃走生活で多少なりとも心安らかに過ごすことが出来ている。カインには感謝の気持ちしかない。
―逃亡中なのに、ゆっくりとお風呂に浸かって疲れを癒せるなんて本当に恵まれ過ぎてる。でも本当に気持ちいい…―
レイティアはカインに言われた通り、足にしっかりとマッサージを施す。明日以降の日程に影響が出ないよう、疲労回復はしっかりしておきたかったのだ。少なくとも足手まといにはならないようにしたい。
そうして今日の疲れを癒して浴場を出ると、そこには騎士の一人が待っていてくれていた。
「すいません、お待たせしてしまって…!」
「いや、気にすることはないです。それでは一旦部屋に戻って15分後に食堂で落ち合いましょう」
騎士は、レイティアをきちんと部屋の前まで送ってくれそこで別れた。部屋に戻り、かつらを外して自分の髪をせっせと乾かす。そうしていたら、ドアがノックされた。
「アウル、食事の時間だが大丈夫か?」
今度はカイン自らがレイティアを迎えに来てくれる。万全の警備態勢だ。申し訳無い気持ちになるが、彼らも任務としてやっている事でもある。粛々と受け入れる方がお互いにとっても楽なはずと気付いたので、極力護衛の拒否はしないことにした。
その後食堂で皆揃って食事をした。食堂には多少人が居たので、
あたり障りの無い範囲でしか会話はしなかった。
食事の後は各自部屋で休み、明日の朝早くに集合する予定だ。だがカインが部屋に送ってくれる際に、一緒に夜の散歩をしようと提案された。
カインに言われた通り浴場でマッサージしたからか、疲労感はかなり薄れたのでレイティアは散歩に行くことにした。
部屋でしばらく休んでいると、またドアがノックされた。
「アウル、いるか?」
カインの声だったのでアウルは急いで部屋の外に出ようとしたが、カインはそれを制して自分が部屋の中に入ってきた。
「あれ?夜の散歩をご一緒するんですよね?」
「あぁ、そうだな。じゃあ行くとするか」
散歩をするのに部屋に入ってきて、窓を開けるカインを見てあっと思った時にはもう遅かった。またもやレイティアはお姫様抱っこされていたのだった。
―うぅ…、また抱っこされちゃった!これは何回やられても馴れっこない…カイン様は信じられない位美男子なのに、顔が近すぎる!これってわざとなの?って言いたいくらいなんだけど!―
声を出さないようまた口元を押さえたが、カインに赤面した顔も見えていないように願った。
おそらく魔法による身体強化なども使っているのだろうが、カインの驚異の瞬発力による窓からのジャンプでまた夜の散歩に出発したのだった。




