会議は続く
「この国の王太子ってヤツは、よく分からんな。用意周到なんだか、抜けてるんだか。レイティア嬢の件で話だけ聞けば完璧な計画なのに、取り逃がして水の泡。代案で聖女に仕立て上げようとすれば、根回しが済んでなくて既に疑惑が持たれてる」
「どこまでが計画なんだろねー」
ミハイルに対して、カインでなくとも皆相当な発言をしている。
「つまりは計画を立てる黒幕がいて、実行するのが王太子…?!」
「まぁ、その可能性が高そうだな」
「我がステイトス帝国の第一皇子様だったら、計画して実行は他人にさせて決して存在を悟らせないんですけどね」
「そりゃそうだ!伊達に帝国騎士団の団長やってないからな」
「久しぶりに団長と打ち合いたいなー」
クレイについて第一皇子としては元より、団長としての信頼も厚い。作戦実行時の指示の的確さ、また一人の騎士として剣術の技術の高さなど。実は騎士としては帝国唯一のソードマスターなのだ。多彩な才能を持つ皇子である。
そしてジョシュアはこんな性格でも、実力は第三部隊でトップクラスである。クレイとの模擬戦などでなかなかに良い勝負をしたりする。
「まぁとにかく、あっちは式典前にどんどん怪しげな動きを見せてる。聖女を擁立して、聖女を害したとまた改めて冤罪を着せられるかもしれない。今のところは問題ないが、どんな罠があるかもわからん。気を抜かないようにしよう。では解散!」
「「「了解!」」」
カインの掛け声で、ひとまず会議は終了となった。ジョシュアは若い騎士に引きずられる勢いで、退室していった。おそらくこれ以上いて面倒事に巻き込まれたくないという一心だろう。
カインともう一人はまだ部屋で話すようだ。
「公爵家に王室、というか王太子から書簡が山のように届いているらしい。初めは娘を出せだの罪を認めろだのだったらしいが、今は婚約を破棄しろの一点張りらしいな」
「結局婚約を破棄しなければ、新しい相手と婚約出来ないからな。こちらの国は原則一夫一妻なんだから」
ステイトス帝国では、一夫多妻が法により認められている。実際に現皇帝であるカインの父も、第三皇妃まで娶っている。かといって全家庭がそうという訳でもなく、どちらかといえば庶民でもやはり裕福な家庭や貴族などにそういった傾向がある程度だ。体感としては二、三割といったところか。
「ゴードリック公爵は娘は無実だと突っぱね続けてくれてるらしい。婚約破棄はこちらが国境を超えたことを確認し次第受け入れるつもりだそうだ。時間を稼いでくれているのだろうな…」
「そうだな。レイティア嬢を見るに全く持って未練など無いだろうから、婚約破棄は妥当だろう」
「これまで長い歴史の中で、王家と良好な関係を築いていた公爵家だが今回は徹底的にやり合うつもりだそうだ。レイティア嬢の罪は絶対に認めないと。それに王太子の独断の多さに不安を抱いたもうひとつの公爵家もこちらに引き込めそうらしい」
「さすがゴードリック公爵殿だな!」
シューベル王国に公爵家は二家門しかない。ゴードリック公爵は常に公平を心掛ける為、もうひとつの公爵家と関係は良好でも、連携して何事かを成すことはあまり無かった。それが今回自らが誘い込みを掛けるというのだ。王太子に対して信用もしていないし、容赦もしないということの表れだろう。
「あぁ、その通りだなモーリス。あとはこのままつつがなく帝国に渡れればいいんだが」
「早くレイティア嬢が、素顔で過ごせるようになるといいな」
「そうだな。そして笑って暮らせるといい」
年上の騎士二人は、レイティアの幸せを守れるよう静かに心に誓った。




