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アウルの居ぬ間に

 


 そして、レイティアは宿屋内の浴場へと向かっていった。王都を離れた街なのでそこまで賑わってはおらず、宿屋も満室では無かった。時間帯も良かったのか、誰かと鉢合わせずにすんだようだった。



 レイティアが一人で浴場を使っているとはいえ、常に有事に備えるのが護衛だ。カインではない別の騎士が浴場付近をさりげなく見張っている。



 その間に残ったカイン達は、一部屋に集まり作戦会議兼報告会の様なものを開いていた。馬上でも会話は出来るが、細かい話はやはり落ち着いてしたいようだ。



 いつものようにカインが盗聴防止の魔法を展開し、話し始める。テーブルには地図も広げられ、それを皆で囲んでいる。



「今日は思ったより進むことが出来たな」

「そうですね、まさかあんなに乗馬が得意だとは。令嬢の趣味の範囲は超えてますよ」

「もう少し先へ進めたら良かったが、初の遠乗りならば首尾は上々といったところだな。さっき街を確認してきたが、今のところは追っ手は来てないようだ」

「アウルちゃんてさー、体幹鍛えられてるね。それとー、可愛いー」


 レイティアとその護衛に行った騎士以外の四人で話し合っていたのだが、一人変わり者がいたらしい。それともマイペースなだけなのだろうか。


 カイン以外の二人の表情が固まる。


「ジョシュア、私語は謹め」


 カインの周りの温度が下がるような冷たい声で、ジョシュアと言う若い騎士に注意する。


「えー、私語じゃないよー。皆だって同じような事言ってたじゃん」


 ジョシュアは少し不満げにカインに言った。それを聞いた残り二人は顔色を変えて話題を逸らそうとする。


「わかった!わかったよ、ジョシュア。それより久しぶりだね

 、一緒の任務は。楽しく働こうな!」

「うん、ヘンリー!そうだね」



 それでひとまずジョシュアの発言は止められた。二人はほっとしたが、カインのレイティアへの態度は皆知っていて気付かぬ振りをしている。それをジョシュアが悪びれもせず、つついているのだ。


 機嫌が悪くなったカインの八つ当たりに巻き込まれる事を避けたかった二人は必死だったのだ。



「私語に気を付けてくれ。…それでさっき隊長から連絡が来たんだが、王太子に動きがあったらしい。レイティア嬢を排除して、子爵令嬢をそこのポジションに据えるつもりだったらしいがうまくいってないだろ?そしたら次の一手として、その令嬢を聖女として祭り上げようとしてるそうだ」

「聖女?それに何か問題があるのか?」

「問題があるか無いかは知らないが、王国に聖女というものが現れたのが150年ぶりらしい」

「うわー、めでたいなー」


 またしてもジョシュアがピントのずれた発言をするが、今度は皆無視した。


「だがその令嬢、ローウィップ子爵令嬢というらしいが。今まで聖魔法で人を救ったことも、奇跡を起こしたことも無いらしい」

「じゃあ、何で聖女?」

「王太子が決めたから?」

「そんなのおかしくないですか!?」

「おかしいが、しいて言うならこの国に来てからずっとおかしな事ばかりじゃないか?」

「そうですけど…」



 カインが王国に来てからというもの、想定内の出来事なんてほぼ無いに等しかった。しかもレイティアに出会ってからというもの、加速度は増すばかりだ。



「聖女という箔を付ければ、王太子の隣にいることも不自然では無くなる…ということだろうな」

「王太子の計画では、先にレイティア嬢を捕えて罪を着せる予定だった。そして断罪した後レイティア嬢側の有責で婚約破棄、そこへすんなり収まる予定だったのだろうな。だが、それが出来なかった。そうすると、王太子がただ浮気して他の女に乗り換えようとしたって話がバレる」

「それで新たに思い付いたのが、聖女にして国民とかの賛同を得て婚約者にするってことですか?」

「おそらくな」


 王太子が杜撰な計画を練ったってかまわないが、実行する前に少しは考えて欲しいとカインは思った。

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