仮初めでも
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毎日投稿の目標が守れず、すみません。
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そんな状況で馬を走らせること数時間、もうすっかり夜になっていたがとある街に着いた。国境はまだまだ先だが、レイティアの体力を考えて宿屋がある大きめな街で休む事にした。
もちろん騎士達はこのまま走り続けられるし、一昼夜を不眠不休で走り続けることも可能だ。だがレイティアは趣味で乗馬を続けていたとはいえ、遠乗りの経験は乏しい。いきなり走り続けて、身体にかなり負担が掛かったはずだ。
このまま走って宿屋が無い状況になってしまうと、野営をすることになる。初めてに近い遠乗りで身体を酷使した上に、更に野営ではろくに休めず体力も回復出来ないだろう。
そういった配慮の下で、宿を取って休んだ。レイティア本人は野営でも大丈夫だと言い続けていたが、他の皆から大反対された。
―馬に乗るのは得意だし、まだまだ走っても平気なのに。遊びじゃないのは分かってるけど、野営だってしてみたかったな―
宿屋に着く頃でも、レイティアはそう思っていた。だが賢明にも口には出さなかったので、それ以上皆には何も言われなかった。もしこの時の気持ちを口にしていたら、その後で大変な思いをすることになっていただろう。
宿屋では皆一旦部屋に入り、少し休んだ後揃って食事をする段取りとなっていた。レイティアも部屋に入り、休もうと思いベッドに腰掛けた。だが、それが最後とばかりに立てなくなったのだった。
実際には立てる。立てるが、きちんと立って歩けない。膝に力が入らず、お年寄りのように腰を曲げて中腰で歩くことしか出来なかったのだ。レイティアは焦ったが、どうすれば良いのかわからなかった。初めての経験で対処法が分からないのだ。
そんな状態の時に部屋のドアがノックされた。
「アウル、アウル・グリーン。大丈夫か?」
それは、カインの声だった。レイティアは少し待ってくれるよう頼み、必死の思いでドアに近づき鍵を開けカインを部屋に入れる事が出来た。
カインはゆっくりと部屋に入り、レイティアの様子を見て溜め息をついた。
「…俺が何も言わなくても、自分が一番分かってるよな?」
膝をプルプルと震えさせながら、中腰で必死に立つレイティアに向かっての発言だ。レイティアはこくりと頷く。
「このまま馬で移動も無理だったし、野営したらきっと明日は起き上がれなかったかもしれません…」
「そうだな。レイティア嬢は騎士では無いが、今は帝国騎士団の衣を纏っているな。仮初めだとしても騎士の基本を教えておこう」
「はい…」
カインは怒るでもなく叱るでもない、静かな口調だった。今まではどちらかといえばレイティアに甘いカインであるが、今この時は新人騎士の教官もしくは人生の師といった趣があった。
「騎士ならば、自分の実力を見誤るな。それが今日を生き残る秘訣になる。自分を過大評価すれば、自分より強い敵と出会った時退くことが出来ず命を落とす。自分を過小評価しては、助けられる命を助けられないこともあるだろう」
「…はい!」
「だからこそ自分自身を客観的に見つめ実力を受け入れて、その時出来ることを冷静に見極めなければならないんだ」
これは騎士としての教訓でもあるが、そのままレイティアの今後にも活きる言葉であった。今日のレイティアは正に自分の実力を過大評価していて、既に大変な思いをしている。もし今日これから追っ手が現れた場合どうやって対処するのか。
今日は騎士団の皆がいるが、もし一人だった場合どうしていたのか。そういった観点の考えが全く足りていなかった。しばらく籠りきりの生活で緊張感も薄れ、更にそのまま旅立ったことによりおそらく浮かれていた部分もあったのだろう。
レイティアは、とても恥ずかしい気持ちになった。




