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出来る限り

 


 そんな訳で今のレイティアは、全くの別人のようであった。だがどこかで正体がばれて追っ手がかかるか、それとも上手く切り抜けて帝国に辿り着くのかは分からない。少しでも確率を上げるため別人らしく振る舞わねば、とレイティアなりに考えていた。



 真剣に考えた結果、偽名を名乗る事に決めた。そして偽名を付けた所でカインに報告したら、思いっきり笑われた。偽名を名乗ることではなく、偽名の付け方があまりにおざなりだというので笑われたのだった。



 実はレイティアもその自覚はあった。考えてはみたものの、あまりにも思い付かず変装した見た目から付けてみたのだ。アールグレイヘアの緑目、アール・グリーン…。日頃偽名など名乗ることも無かったので、咄嗟に何も思い浮かばなかったらしい。



 カインがひとしきり笑った後で言った。



「レイティア嬢が真面目に考えたのに、笑ってすまなかった。お詫びに名前付けるの手伝うよ」

「アール・グリーン、ダメですか…?」

「クッ…!グリーンはいいけど、アールって無くないか?!」



 結局まだ笑っているカインを見て、レイティアは少し拗ねた顔になる。



「私だって、ちょっとは変かなって悩んだんです!でも考え付かなくて。そんなに笑わなくても良いじゃないですか!」

「いや、すまない。悪気は無かったんだ。お詫びに名前考えるの手伝ってやるよ。アールじゃなんだから、ア…ア…アウルはどうだ?」



 予想外のカインの提案だった。レイティアは自分の心の中で繰り返してみる。



 ―…アウル…アウル…。私はアウル・グリーン。うん、悪くないかも!カイン様に思いっきり笑われたのは気になるけど、結局カイン様の方が良い名前を付けてくれたのね―



「…わたしのより良いかも知れないです」



 まだ少し拗ねた顔のままだが、発言は素直だった。カインは微笑んで言う。



「しっくり来たか?」

「私はアウル・グリーンです。よろしくお願いいたします」

「あぁ、よろしく頼む。しかし何でも出来るレイティア嬢にも、名付けが下手という欠点がなぁ…」



 新しい名前で名乗ったのに、結局まだカインに笑われてしばらく拗ねたままのレイティアであった。



 そんなやり取りなどもあったが、第三部隊の宿を出る時は割りとあっさりと出発だった。当たり前だが、目立たない事が前提なので見送りなどもない。かといって夜に出発するのでは後ろめたいことがあるように思われる可能性もあるので、まだ明るい時間の出発となった。



 勿論リスクもあるが、堂々と旅立つ方が目立たないとふんだのだ。そもそも帝国騎士団として、第一部隊が王宮やその付近の宿に滞在してクレイの護衛任務についている。その為ほぼ下町に宿をとっている第三部隊はあまり注目もされていない。



 だからこそ、ここ数日間レイティアを匿っても何の問題も無かったのだろう。元々の任務の内容やレイティアの件などもあり、第三部隊にとっては注目されないことがありがたい。



 とはいっても式典を二日後に控えた今、騎士数人が意味も無く帰国の途につくというのは不自然だろう。尋ねられた場合に何かそれらしい理由がいる、ということになった。



 トマスとクレイで協議した結果、帝国側の国境付近で魔獣が出た為お呼びがかかったことになった。国境付近ではよくあることだし、帝国の首都から国境へ向かうのにも二日程かかる。王都に騎士団の戦力が集中していた為、今回は急遽招集が掛かったというのが表向きのストーリーだ。




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