斜め上
「変装ってどんな感じなんでしょう?!例えば、新聞屋さんとか郵便屋さんですか?」
「それだと変装っていうか、扮装じゃないか?そこまでじゃないよ。俺達第三部隊の使用人、下働きみたいな」
「そうですか。新聞記者になってみたかったんですけど」
「ハハハッ、レイティア嬢がか?随分と可愛らしい新聞記者でめだっちゃうだろ」
さらりと口から出た言葉に自分で驚くカインだったが、ここで動揺してはより恥ずかしくなると思ってさも普通かのような顔でやり過ごす。他の人間がいれば、言う程動揺を隠せていないのだが、それよりもレイティアが照れてしまってそこまで気付く余裕が無かった。
「か、可愛いですか…」
「ふ、深い意味は無いんで!とにかく第三部隊の使用人としてなら常に周りに人はいるし、護衛は楽なんだ。勿論実際には働かなくていいし。ただレイティア嬢が使用人の格好なんてしたくないと思えば、こちらからは強制はしない。でも、新聞記者に抵抗無いなら別に問題無いか?」
カインは自分の不用意な本音を無かったことにしたくて、平静を装い話を続ける。上司が決めた提案だったが、カインも悪くはないと感じていた。だが、そこを斜め上に飛び越えた発想が出てくるレイティアにまた驚いてしまう。
―考えてみれば、俺はレイティア嬢にずっと驚かされっぱなしな気がするな。今まで出会って来た令嬢達とは全く違う…―
「そうですね…。新聞記者はちょっと楽しそうと思っただけなので、使用人になることは特に問題無いです。きちんと下働きもしますし」
「そうか!ありがとう。じゃあ帝国に帰るまでこの作戦で行けそうだな。…本当に働かなくていいからな!」
レイティアが自分の服を前後左右、首を動かし懸命に見ている。まるで使用人の制服を見ているかのようだか、実際には隊で用意した庶民用の服だ。レイティアの頭の中では使用人の制服に変換されているのかもしれない。
「…でも、使用人の格好だけで誤魔化せますか?」
「髪色なんかも魔法で変化させる予定だったが?」
「そうですね、特徴的な色ですみません。…でもそうして変装して過ごしているより、本当は帝国へ渡った方が安全ではあるんですよね?」
「本当なら、直ぐにでもレイティア嬢に帝国の安全な場所で過ごしてもらいたいんだが。やはりこの時期、馬車移動が目立つんでな。レイティア嬢一人って訳に行かないし。護衛を付けるとなればより目立って、国境の身分照会をすり抜けるのは難しいんじゃないかって話になったんだ」
レイティアの髪色はプラチナブロンドだ。それをロングストレートにしている。陽の光に当たると、銀髪に見える時もある。サラサラと風になびく金糸銀糸といった光景で非常に美しい。
兄と父はレイティアと同じくプラチナブロンドだが、王国では色味の濃い金髪や茶髪、黒髪などの髪色が主流だ。一説には魔力が強いほど髪色が薄いとも言われていて、プラチナブロンドはまさにそうな訳だが。レイティア自身に魔力は無いのだから、やはり根拠の無い噂話に過ぎないのだ。
とにかくその髪色は王国では珍しい為、そのままにしては逃走に差し障りが出ることは用意に想像がついた。
「それはそうですよね。まだ私を探しているなら若い令嬢は厳しくチェックされるんでしょうし」
「残念な話だが、水面下では王太子がレイティア嬢をさがしているようだからな」
「絶対に捕まりたくありません!と、いうことで提案なんですが」
レイティアから提案があるという。急になんだというのだろうか。
「レイティア嬢からか?」
「守って頂いている事には感謝しかありません。そして変装することにも全く問題は無いのですが、どうせ変装するならやはり帝国まで行けた方がいいですよね?」
「まぁ、それが出来ればいいんだがな」
「私が目立ってしまうのが問題なら、目立たなくすればいいんです!」
「ずっとそう言ってるぞ?!」
レイティアが何を言わんとしているのか、カインはさっぱり分からなかった。今までの会話をきちんと聞いていなかったのだろうか。疑問がわいてくる。




