逃走のその先で
―もう駄目かもしれない―
悔しくて涙が滲みかけたが気丈にも手で拭い、残された僅かな力で駆ける。チラリと後ろを振り替えるとゴロツキ達との距離はぐんぐん縮まっている。でも諦めたくは無いから前を見て走ろ…うとしたら、そこには黒っぽい物体が佇んでいた。
――ドッシャーン!!――
ものすごい衝撃がレイティアを突き抜ける。何かに思いっきりぶつかって派手に転倒したようだ。身体の至るところが痛い。擦りむいたりもしているようだ。先程までの疲れも相まって、最早立ち上がることも叶わない。
肩で息をする。ゆっくりと首だけを動かし周囲を確認すると、何と黒い物体は人だったらしい。黒いマントを来てフードをすっぽり被っていてかろうじて黒髪とわかる。夜なので尚更見えずらかったのだろう。改めて観察すると軽装備で長剣を携えている。どうやら騎士らしい。
まさか回り込まれているとは。さすが王宮勤めの騎士である。小娘1人見付け出すなんて容易な仕事だったのだろう。
「…っつぅ!…はっ!あの、お怪我はありませんか?まさか回り込まれているとは思いもしませんでした。さすが王宮の騎士ですね。思いっきりぶつかってしまって申し訳ありませんでした」
「…は?…」
「私はこれ以上動けそうにありませんから、私を捕縛してあなたの手柄として下さい」
「はぁーっ?」
どうせ捕まるなら、迷惑をかけたお詫びにと思ったのだが騎士の反応はいまいちだ。どうかしたのだろうか。ゴロツキ達がもう間もなくやって来るし、仲間であろう王宮からの追っ手の姿も見えそうだ。
そうこうする内にゴロツキ達がやって来て騎士ごと囲まれてしまった。
「女がいたぞ!取っ捕まえろ!」
「身ぐるみ剥がしちまえ!」
「舐めやがって!」
もう身動き出来ない私は苦笑を浮かべることしか出来ない。恐怖よりも諦めの方が先にくる。
―頑張ったんだけどな…。結局逃げるなんて無理だったのね…―
「チッ!おい、あんた。こいつら知り合いか?」
「はぁ?」
「追いかけられてたし」
今度はこっちが疑問に思う番だ。なぜこの状況でそんな質問をしてくるのか。
「いいえ、先程因縁を付けられてそのまま追いかけられただけです」
「じゃあ、後ろから来てるのは?大人数でお出迎えか?」
それを聞かれるとつらい所だ。犯罪者(冤罪)だと説明しなくてはならない。そもそも王宮の騎士は理由を知った上で捕まえに来ていると思うのだか。
この騎士が何を考えているのかは分からないが、どこまで話す事にしようか。
「え、えーっと。そのぉ、話せば長いことながら私には婚約者が…」
「出来るだけ簡潔に。時間が惜しいだろ?」
「…濡れ衣を着せられて捕まりそうになったので、ひたすら走って逃げてきました!!」
言い方が気になったものの悪意は感じなかったので、簡略ながら真実を伝えてみた。レイティアにとっての、ではあるが。
「…そ、そうか。つまり追っ手から逃げてきたんだな?」
「えぇ、まぁ。そういう事です。」
すると何も言わず黒マントの騎士はレイティアの身体を支え起こして、地面に座らせた。
「おい!さっきからごちゃごちゃ何喋ってんだ!」
「さっさと女をこっちに寄越せ!」
「それとも兄ちゃんもこっちに入るかぁ?」
フッと微笑を浮かべてゆっくりとゴロツキの1人に近付いて行く。
「おいおい、やる気か?こっちは4人いるんだぞ?」
「謝るなら今のうちだぞ、兄ちゃん」
声には応えず騎士はマントをバサリと翻す。一瞬構えたかと思えばスッと男の正面に移動した。男は掴みかかろうとしたが、騎士が素早く手を伸ばす。軽く触れただけのようにしか見えないのに、男はぐしゃりと崩れ落ちる。残りの男達が驚きに目を見開く。




