伝える
レイティアがこの話を聞いてどんな反応をするのか、カインはまだ心配だった。
「それで俺は偶然レイティア嬢を助けたが、これからの安全を確保するために上司に相談した。その上司は、即答でレイティア嬢の保護を決定してくれたよ」
「ありがとうございます」
「だが上司の考えは、レイティア嬢を保護するだけではない。内密にゴードリック家に連絡をとり、王国内の調査の協力関係になることまで想定している。つまりレイティア嬢を利用して、帝国の有利になるようゴードリック家を使おうとしているってことだ」
レイティアにとって知りたくない情報だろう、だがカインは利用してしまうことを黙っていたくなかった。どんなにか気分を害することだろう。
「はい」
「はいって…あんたの存在でゴードリック家と交渉するんだぞ?!勿論たとえ交渉が決裂しようが、あんたを保護することに変わりはないが。それでも気分は悪いだろ?」
「いえ、全く。ですからカイン様を非難する気はないと」
「助けるって言ったのに結局利用もしてるとか、最悪じゃないか!?」
レイティアの反応は、カインの想定していたものとは全く違っていた。
―利用されて怒らないのか?!冷静というか、相当肝が据わっているというか。婚約破棄されて一人で逃走を図るぐらいの規格外の令嬢だからなのか?―
「帝国の騎士が、自国の利益を優先するのは当然です。その結果私も助けてもらえるのですから、何一つ問題ありません」
「…本当に本気で思っているのか?」
「勿論本気です。そもそも父も王国にとっての利益になると思わなければ、きっと提案にはおいそれとは乗りません。フフッ。娘惜しさに、国を危険にさらすような父ではありませんから」
ゴードリック公爵の敏腕ぶりは帝国上層部にも知れ渡っている。現在は財務大臣という立場のようだが、宰相にこそ相応しい人物と思われていたので皆王国の人材起用には疑問を持っていた。
「そうなのか?ずいぶんと厳しいことだな」
「そうですか?でも娘が惜しかったら王太子妃候補に差し出したりもしないと思うんです。それに、そういった部分以外ではとても優しい父なんですよ?」
「優しいか。レイティア嬢にそう言ってもらえて父君も嬉しいだろうな」
しかし父である公爵にいつ会えるか、カインが確約する事は出来ない。レイティアがそこまで考えているかはわからないが、逃走あるいは亡命というのはそういったものだ。カインは親子の再会の手助けが出来ることを願う。
「レイティア嬢が、今回の帝国騎士団の対応を苦にしなくて良かったよ。申し訳無くてな。本当に大丈ってことでいいんだな?」
「本当に大丈夫です!私にまだそれだけの価値があると思っていただけて、嬉しく思うくらいです!」
「それもどうかと思うが!…そうか、俺の杞憂だったみたいだな」
レイティアがすんなり受け止めてくれたので、これからの逃走計画の基本方針を伝える。
「これから数日は、この部屋から出られないと思ってくれるか?少なくとも昼間は無理だ。この部屋は俺の名前で取ってあるからな。俺が休んでいるように見せて、実のところは同じ階の別の部屋にいる。何かあれば直ぐに駆け付けるし、宿に人が少ない時は話相手になる」
「カイン様もこの宿で過ごしてくれるんですか?ありがとうございます!心強いです」
「そうか、それなら良かったよ。レイティア嬢の食事や着替え……」
そこまて言ってカインは思い出した。
「すまん!レイティア嬢の着替えや食事は、もう持ってきてたんだ!!先に出しておけば…」
焦りのあまり、色々至らない自分に落ち込むカインであった。




