まさかの二重
一日1話投稿を目指していますが、なにぶん不馴れなもので数日ごとの場合もあると思います。
よろしくお願いいたします。
なりふり構わずとは、まさにこの事だ。そんなことを思いながらひた走る。しばらく走っている内に周囲の景色が変わりはじめる。大きくて立派な貴族の邸宅ばかりで道も明るかったが、徐々に小さな家々がぎっしりと並び明かりは仄かで道は薄暗い。
だんだん息も上がってきて少々苦しくなってきた。だが一刻も早く下町に行かなければ。下町へ着いたら身に付けていたアクセサリーを換金し、怪しまれない程度の衣類を買いたい。
出来ればそのあと、乗り合いの長距離馬車か港で船にでも乗れたならば逃走成功にグッと近付くはず。そこまで走り切れれば…
より具体的な逃走計画が出来上がって来て少し安心した所だったが、そうそう上手くは行かないらしい。遠くの方からたくさんの人の声や馬の駆ける音が聞こえてくる。
「くまなく探せ!それほど遠くには行っていないはずだ!」
「王太子殿下のご命令だぞ!」
「犯罪者を取り逃がすな!」
ようやく追っ手を差し向けるという事に気付いたらしい。しかも犯罪者として断定しているとはあまりに横暴だ、と一言言ってやりたいがそんな余裕は無い。
ここまで散々走ってきて、呼吸は苦しいし心臓は悲鳴をあげている。足だって痛いしもうフラフラだ。だけどここで捕まったら全てが水の泡だ。
どんなにしんどくたって走り続けるしかない。残された力を振り絞って走る。追っ手に馬がいては猶予はない。家々の路地という路地、小道という小道をひたすら突き進む。道が狭ければ馬は入ってこれないからだ。
自分でもよくわからないまま突き進んだ結果、少し開けた場所に出た。どうやら下町の酒場通りにまでやってこれたようだ。あと少し、ほんのちょっとで逃げ切れる…
けれどこれまで頑張ってきた私の足も限界で。フラフラを通り越してガクガクいいはじめた。足がもつれて、転ぶ…と思った先に男性の集団がいてその中の1人に軽くぶつかってしまった。
「し、失礼致しましたっ」
謝罪をしながらぶつかった男性の顔を見上げると、明らかに酔っぱらっている。するとあちらも私を認識したらしく、急にニヤニヤして仲間達と私を取り囲もうとする。
「嬢ちゃん、どうしたのぉ。困ってるならおじさん達助けてあげようかぁ。」
目の前に明らかに上流階級の少女、ドレスはボロボロで更にはお手製(お手裂き?)スリットで太ももまでさらけ出している。しかも高価なアクセサリーまで身に付けているとあっては…
―鴨がネギ背負って来るってのは正に今の私の事ね…―
「どれどれ、おじさんに掴まりなよぉ」
このままではまずい、疲労困憊だが疲れた身体に鞭打って脱出を図る。
「すいません…先を急いでいますのっ!」
言うが早いか目の前の男性に体当たりをして、素早く走り出す!あちらはまさか貴族の少女がそんな手段を使うとも思わなかったのだろう。
「ってぇーな!おい!お前ら、あいつ逃がすんじゃねぇぞ!」
先程までの態度は捨て去り、まんまゴロツキである。これこそ捕まったら最後だ…!どこまで体力が持つか分からないが逃げるしかない。
「冗談じゃないわっ…!」
―もしかして追っ手増えちゃった?二重に追っ手が出来ちゃうなんて…!―
下町に辿り着いた時には脱出出来ると思ったのに、最早命も風前の灯火かもしれない。
―なんでこうなった!?―
もう限界を訴える身体をどうにか動かし、闇雲に走っている。元より下町の土地勘などないのだ。それに新な追っ手は明らかに下町に根付いているのだから、掴まるのも時間の問題だと言える。
「…ッハァハァ、こ、ここまで来れたのに…」
頭の中で今日一日の出来事が走馬灯のように回り出す。そして近くの路地からはゴロツキ達の足音が。少し遠くの方からは更に多くの人馬が迫り来る気配がする。




